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春のような温かさがいつもある学校に… そうだよ、君が君だからいいんだよ 〜心の宝物183

🌷素直な目で、真っ直ぐに
山に囲まれた小さな学校
秋もすっかり深まりました。冷たい風が吹き込む廊下を、5年生の彼は黙々と掃除していました。
注意深く、丁寧すぎるほど丁寧に、廊下と壁の交わる際のほこりを取り除いています。唇を引き結び、その場所に正面から対峙する集中力が、背中から伝わります。気のゆるみ、自動車のハンドルに例えるなら、あそびと言われる揺るぎのようなところを感じさせない彼の姿をしばらく眺めていました。

彼は生真面目な人でした。何事にも正面から向き合い、自分の世界と重ねながら、理解しようと深く思考します。読書が好きで、様々な分野に造詣が深く、登場人物の生き方を追体験して、深い認識力を育てています。
その認識に照らし、疑問に思ったことは、素直に口に出します。つぶやいたり、怯まずに質問したりします。その真摯な姿勢が、ときに周囲に伝わらず、かみ合わないやりとりとなって苦しむことがありました。

そんな自分らしさを、彼が決して嫌いにならないように。遊びのない生真面目さを、彼の見方や考え方を、周囲の仲間が、素敵な彼らしさとして咀嚼できるように。そんな関係づくりが成立する学校経営はどうあるべきか。そんな思いを巡らせながら、一心に掃除に取り組む彼を眺めていました。

🌷そうだよ 君が君だからいいんだよ
そうした関係性の故か、学級で活動するときの彼は、どこか遠慮がちでした。問いを発することには怯みませんでしたが、外遊びや学級活動では、一歩引いた位置にいました。保育園からの長い関係性と、この頃の学級のややざわついた空気の中で、周囲にも、彼自身にも、そういう存在としての意識が定着していました。
そんな空気が変わってきたのは、運動家の練習の頃でした。

コールに対する返事、演技や応援、行進の際の掛け声。彼の声の大きさは、周囲の山に響くほど際立っていました。周囲に対する遠慮も怯みもない姿の潔さは、はじめ驚きとして、やがて温もりと喜びとして広がり、全校の空気を変えました。

彼に思うところを尋ねてみました。
「その方がいいと思ったから」
短く、生真面目に、彼は答えました。迷いのない表情はにこりともしませんでしたが、どこかに安堵のようなものがにじんでいるのを心からうれしく思いました。

「運動会の練習で大きな声を出す」という行為の値打ちに得心がいったこと、いったんそうと決めたら行動はいささかも揺らがないこと。私たちも、全校の仲間も、君の君らしさに感動し、自分の喜びとすることができたよ。その喜びは、今の自分から一歩前へ踏み出す勇気に変わったよ。

そんな仲間の心の動きは、このさわやかな空気に乗って、何か温かなものとして君の心にも確実に届いたのではないだろうか。
それは、君の心の温もりとなっただろうか。
自分で感じて、考えて、決めて行動したことが、君の君らしさが、周囲に受け入れられた実感として残っただろうか。
自分もまんざらではないと、少し安らいだ温かな思いは感じているだろうか。
そうであってほしいと心から願っている。

そうだよ。君は君でいいんだ。
君が君だからいいんだよ。

そんな思いで、お伝えしました。

かけがえのないあなたへ
素敵なきらめきをありがとう
出会ってくれてありがとう
生まれてきてくれてありがとう
どうか、ありのままで
どうか、幸せで

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