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食べるということ-13

おいしく食べることは健康な生活に繋がるとか、
体に良いものを食べたくなる、ってことはある意味間違っている。
子供の頃からジャンクフードに食べ慣れていると、いつの間にかジャンクフードをおいしいと感じるようになるし、
野菜嫌いの人はいつまでも野菜嫌いだし、肉ばかり食べる人はいつまでも肉ばかり食べるようになる。
栄養が偏っている、とはいうけれど動物にも草食動物と肉食動物がいて、偏った食生活をしているけれど、彼らはいたって健康。
それでも彼らの食生活は実は理にかなっていて、草食動物はお腹の中で多くのバクテリアや細菌を飼っていて、そこからタンパク質を得ていたり、大量の植物を食べることで栄養を得ている。
肉食動物は草食動物の内臓を好んで食べて、お腹の中の植物から栄養を補給し、生肉を食べることで熱処理されないビタミンなどを手に入れる。でも食べた相手の病原体なども一緒に取り込んでしまうため健康な相手だけを狙う。

人間は雑食性でいろんなものから栄養を取り込むことができる。でも傾向として草食系と肉食系に分かれる。農耕民族の日本人は腸が長くて草食系。欧米人は肉食系だからアジア系と比べると腸が短い。
料理に関しても肉食系では滅菌と臭みを抑えるためにスパイスを多用して、旨味成分は植物から得ることが多く、草食系のアジア人は干物や魚醤を良く使い、植物の種子などを発酵させて旨みを作り出す。
肉食と草食の中間である遊牧民は動物の乳からヨーグルトなどの発酵食品やチーズを作り食す。
動物しか捕れない極寒の地域に住むエスキモーは肉食獣と同じく生肉を食べて必要なビタミンなどを手に入れる。

人間の食生活が偏りはじめた原因の一つに「塩」の存在がある。
塩分を欲する人間の脳は、塩味に対して敏感で必要な量以上に塩分を欲しがる。
海の塩水はかなり塩分濃度が高いが、血液中の塩分濃度を一定に保つためにある程度の塩分は摂取しなければならないけれど、人はそれ以上の塩分を欲しがる。
糖分も同じように、エネルギーとしては必要だけれど、体に脂肪に変換しなくてはならないほどの糖分を手に入れようとする。
「味を濃いめに作る」ことが美味しい食製品を作るコツと言われるのにはそういう人間の味覚に対する嗜好性が反映されている。

おいしさというのは「人間」の特性と生活様式、食べてきたものの傾向などでずいぶん違ってくる。
おいしいものを提供するのと健康に留意するのは少し違う。
でも、これは健康に良いから食べるとおいしい、というのは必ずしも正しいとは限らない。そうだったら良かったのにね。

それでも「おいしい」と「健康」は両立させなければならない。

「おいしい」は塩分と糖分だけで成り立っているわけではない。同じタンパク質であっても状態によって「おいしさ」は変化する。例えば「糀」を使えばタンパク質はタンパク質をアミノ酸に分解し、糀で漬けた肉や魚は旨みが増えて美味しくなる。例えばトマトを煮込み濃縮したピューレやケチャップはグルタミン酸やイノシン酸を豊富に含み、少量でも旨味を感じることができる。

元々、人間は塩を加えて食事をしていたわけではなく「調理」というものを覚えて、そこに塩を加えることでおいしく感じることを発見して、大量に塩を使うようになった。しかも困ったことに過剰な塩分であっても「おいしい」と感じられることから現在の高血圧などの生活習慣病につながっている。

「旨み」はこれらの塩分や糖分の過剰摂取から逃れる最良の方法として注目されている。もちろん醤油や塩分を大量に含む調味料も発酵食品だが、これらの発酵食品には塩分以外の「旨み」や「風味」が加わり、塩そのものよりも塩分を減らしてもおいしいと感じることができる。

アジアで生まれた「醤」とユーロッパで生まれた「トマトソース」、海藻から得られるアスパラギン酸などの旨味、糀などの発酵から生まれるアミノ酸などを複合的に使えば「おいしくて健康を保つ食事」を作ることは可能だろう。

元々「醤」や「糀」「海藻」などの文化を持った日本からこれからの健康な食文化は生まれるかもしれない。

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