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【藤田一照仏教塾】道元からライフデザインへ(19/05)学習ノート⑤
(ここまでの5月一照塾)
講義前半の"座学"の模様は、学習ノート①~④をご覧ください。
学習ノート①:一照さん講義(正法眼蔵の編集形式と弁道話の位置づけ)
学習ノート②:一照さん講義(4月の復習、「路線変更」について)
学習ノート③:homeworkをシェアするグループワーク
学習ノート④:一照さん講義(弁道話講話)
この「学習ノート⑤」では、講義後半のソマティックワークについて振り返っていきます。
1. 前回の復習 - 背骨のアーティキュレーション
メアリー・ボンドさんの著書、「感じる力でからだが変わる - 新しい姿勢のルール」をテキストにしたソマティックワーク、前回は、
「アーティキュレーション(articulation)」
という新しい言葉について、皆さんと身心で考えました。
言語表現でのアーティキュレーションというのは、「ニュアンスや微妙な意味合いをうまく言葉にして伝える」ということだといえるでしょう。
私が初めて聴いた、articulationという単語が入った英語表現は次のようなものでした。
I understood what you said.
but... would you articulate little more ?
「あなたが言いたいことは分かったけれど…もうちょっと分かりやすく言ってくれない?」
次に"背骨のアーティキュレーション"に関するボディワークのワークショップに参加した時には、「脊椎を一つひとつ細分化して、ドミノみたいなかたちで背骨が動かせる」というニュアンスでした。
お互いに少しずつニュアンスが違いますが、どちらにも「大雑把に飛ばさないで、きめ細かく」というニュアンスがあると思います。
このソマティックワークは、最終的にはすべて坐禅に集約されていくようにデザインしているのですが、坐禅の時には、アーティキュレーションのない、棒みたいな背骨が突っ立っている…というのではおもしろくないのですよ。脊椎を一つひとつ感じ分けられて、いつでも動かせるような背骨が、微妙なバランスを保ちながら積み上がって坐っている…このようなありかたがいいかな、と思っています。
こういうのを英語では、be movable without moving と言いたいと思います。「動かさずにいるのだけれど、いつでも動ける」…これが"アーティキュレートできている背骨"です。
最初は、7個の頸椎、12個の胸椎、5個の腰椎、そして仙骨を一つひとつバラバラにアーティキュレートするのは難しいかもしれません。
ある部分が数個のかたまりになってポーンと飛ぶかもしれませんが、だんだん、その"ポーン"の間が関節として意識できてきて、だんだん細かくなってくるような感じが、アーティキュレーションの進歩のプロセスだと思います。
私がやってみた時も、最初は鳩尾の裏側あたりの背骨がポーンと飛んでしまって、アーティキュレートできないところが残っていました。
このアーティキュレーションのワークは、筋力トレーニングでもなければ、柔軟性を増すエクササイズのようなものでもありません。
前回4月のワークのテーマは「身体のアウェアネス」でしたが、「そこに背骨が存在して、一つひとつの脊椎のつながりが意識できる」…というのが、背骨についてのアウェアネスです。
今回の塾のソマティックワークで私たちがテキストとして用いているこの本の英語原題は「The New Rules of Posture (新しい姿勢のルール)」です。
著者のメアリー・ボンドさんの基本的な考え方は、「姿勢は、動きの中で捉えられなければならない」というものです。
私も、「坐禅は"止まるという動き"である」と考えているので、メアリーさんの考え方と似ていると思います。
では、復習の意味も兼ねて、一度やってみましょう。
2. テーブルポジション(四つ這い姿勢)で背骨をニュートラルにする
(参考:テキストp.181)
(一照さんinstruction)
背骨をニュートラルなポジションにしておくことが、このエクササイズでは最も重要です。両手・両ひざを床について、足首が硬い人は、丸めたタオルを足首の下に入れてください。足の甲が床にペタンとついていますか?
脇の真下に手首、股関節の真下にひざがくるように手足の位置を調整します。
骨盤底のダイヤモンドをゆったりさせます。自分の中が覗かれているような恥ずかしい感じがするかもしれませんが、そういう感情にも気づいていてください。お尻が無防備な感じがしてきたら、きっと正しくできています。
意図的に反らすのではないけれど、ただその姿勢に任せて、両手両足に体重を"全託"していると、余計な緊張がなければ、ひとりでにおへそのあたりがが少し落ちて、腰が少し反るはずです。
肩甲骨を仙骨のほうに引っ張って、手の平と指で床を押すと、背中上部が広くなり、胸が開くはずです。このとき腰椎のカーブが変わったり、骨盤が傾いたりすることはありません。首にも緩やかなカーブをもたせるため、両手の30cmくらい前の床を見ておきます。さあ、これで背骨のニュートラルポジションができあがりました。ここから"背骨のアーティキュレーション"をしていきます。
3. 背骨のアーティキュレーション(前後)
(一照さんinstruction)
(1) 息を吸いながら、頭をゆっくり上の方へ向けていきます。
その波が頸椎、胸椎を伝わって、腰椎、仙骨を通って、尾骶骨が股の間から出ていって上の方を向きます。オオカミが遠吠えするときのような背骨のかたちですね。
(2) 今度は息を吐きながら、尾骶骨の先端から長いしっぽが伸びていて、そのしっぽが両足の間に巻き込まれていきます。その時、首のほうはまだ動いていません。尾骶骨がゆっくりと股の間に入っていって、骨盤がまるく後傾していきます。それに引き連れられて腰椎がまるいカーブになり、椎骨が下から一つひとつ、天井のほうへ上がっていく感じになります。
鳩尾のあたりが高くなり、首の付け根が上を向き、最終的に背中全体がまるくなります。
(3) 今度は、尾骶骨の先のしっぽが股の間から外へ出てきます。仙骨が前に傾いて、腰が反って、胸が反って、頭が上の方を向きます。これで背中全体が気持ちよく反っています。背中側が縮まって、お腹側がのびています。
(4) 息を吐きながら、背骨のニュートラルポジションに戻ります。
(同様に、身体の左右方向へのアーティキュレーションも行ないます。テーブルポジションをとっているので、背中側から見た時に、背骨全体がCの字(あるいは逆Cの字)のかたちになります。)
4. 背骨のアーティキュレーション(ひねり)
(一照さんinstruction)
頭と首が回っていって、次に右腕が左の脇の下を通って左の方へのびていって、それに引き連れられるようにして右肩が入っていきます。
さらに右手を左の方へのばしていくと、それにつられて背骨がねじれていきます。可能であれば尾骶骨の先端にまでひねりが感じられるといいと思います。ゆっくり、無理なく行なってください。
同様に、逆方向もていねいに行ないます。
§
5. 身体のスタビリティ(安定性)
今回のソマティックワークのテーマは「身体のスタビリティ」です。
テキストでのこの第2部は、かなりリッチな内容を含んでいて、短い時間の中ですべてのワークはできないので、私がおもしろそうだと思ったところをピックアップして皆さんにご紹介していきたいと思います。
メアリー・ボンドさんはこのテキストの中で、様々な言葉を引用しているのですが、「身体のスタビリティ」の部の最初には、アメリカの小説家ヘンリー・ミラーの次のような言葉が引用されています。
肉体は、その中に棲む我々にはない叡智を宿している。
からだに対する命令はまるで意味をなさないのだ。
(テキストp.105)
私たちはからだに命令して言うことを聞かそうとしているわけですが、からだが持っている叡智のほうが私たちより賢い。もし私たちに知恵があるのならば、からだが持っている叡智の言うことを聞くというのが、いちばん賢い態度でしょう。
6. 骨盤底のダイヤモンド
第2部の最初の章では、「骨盤底」が探究のテーマになっています。
先ほど言った「骨盤底のダイヤモンド」が、メアリーさんの姿勢の原則の中では非常に大切にされています。
坐っているときも立って歩いているときも、私たちは骨盤底に対する意識がない。
尾骶骨の先端、左右の坐骨、骨盤正面の恥骨…骨盤底のダイヤモンドの4つの頂点はすべて触れるので、一度触ってみてください。
尾骶骨の先端は微妙なところで、あまり強く刺激しすぎると折れることもあるそうです。
坐骨も触ることができます。私がお世話になっている野口整体の先生によると、過去に身体のいろいろなところを打った打撲の"記憶"が、坐骨とその周囲にある"脂身"みたいなところに全部集まってくるのだそうです。身体の調子が悪くなったりするときには、それが暴れ出すのだそうです。
坐骨から前に辿っていくと、恥骨結合も触ることができます。
普段からよく触っておくのがいいと思います。
この4か所を頂点としたかたちが「骨盤底のダイヤモンド」です。
この骨盤底のダイヤモンドを、左右の坐骨を結ぶ線で前後に分けています。
前側の三角形が「尿生殖三角」。
後側の三角形が「肛門三角」といいます。
7. 骨盤と背骨の関係
背骨のかたちを決めるのは、骨盤の傾きによって決まります。このことは、私の「現代坐禅講義」にも書いてあります。
背骨のかたちを変えたかったら、骨盤の傾きに注目しなければならない…と、メアリーさんのテキストにも書いてあります。(参考:テキストp.115)
私たちは"椅子に長時間座りすぎる文明"を作ってしまいました。
このことはテキストにも書いてある話なのですが、椅子に座る時に一番大事なのは骨盤です。しかし、ほとんどの人は座る時に決定的な役割を果たすのが骨盤であることを知らないで、骨盤はそのままで背中のかたちだけ変えようとしているので、姿勢が長続きしない。
様々な坐禅指導の現場でも、骨盤を無視して背中のかたちだけを直そうとしているのが見られますが、言われたらその時だけは直せるけれど、結局疲れてしまって、もとの骨盤のありかたに沿った背骨のかたちにまた戻ってしまう。なので、いちばん下の土台のところが重要になってきます。
それから、「背骨をまっすぐに」という言い方には語弊があって、背骨は自然に湾曲しているので、背骨はまっすぐにはならないということです。
では、少し試してみましょう。
(一照さんinstruction)
テキストには立位のイラストが描いてありますが、私たちの場合は坐禅ですので、床にあぐらをかいて行なってみます。
(1) 骨盤の後傾
坐骨をよく感じながら、前後左右に体重移動してみてください。
その感じがつかめたら、坐骨のラインに体重を乗せながら、骨盤をゆっくり後ろへ倒していきます。
さらに倒していって、尾骶骨が畳に触ったら止まってください。
これが、骨盤が"肛門三角"に向かって傾いた「後傾」の状態です。
このとき、腰椎の"前弯"はなくなります。
この状態で長時間いると、椎間板に不均一に圧力がかかり、過度に仙腸関節が伸ばされて、背骨まわりの筋肉にストレスがかかり、背骨上部や首のカーブで代償することになります。骨盤底を閉じて体感を安定させようとすると、必然的にこれらのことが起こります。
(2) 骨盤の前傾
骨盤を"尿生殖三角"に向かって傾けると、腰椎の前弯は大きくなり、過度に反り過ぎた状態になります。強すぎる前傾は腰椎を圧迫し、関節が正しく接合する妨げとなりますが、緩やかな前傾は、安定性においても動作においても、メカニカルな意味で腰椎にとって最も有利なものです。緩やかなカーブのある状態が、腰椎のニュートラルポジションです。
(参考:テキストp.117)
今はこのワークを坐蒲がない状態で行ないましたが、これだと骨盤の緩やかな前傾を意識を使って筋肉で行わなければならなくなります。
坐蒲は、そうならないためにデザインされていると言ってもいいでしょう。
8. 脚のサポートを使って坐る
(一照さんinstruction)
今度は、坐蒲をお持ちの方は坐蒲を使って、持っていない人は座布団を二つ折りにするなどして坐骨の下に当てて坐ってみてください。
坐蒲(座布団)がないときよりも、肛門三角のスペースが広がり、恥骨が少し下がっていると思います。この状態が、骨盤の適正な前傾を作り出してくれます。
土台が変わったことで、今度は坐骨のやや前側に体重がかかり、ひざの外側にも重さの一部が配分されています。体重の6割程度は骨盤(坐骨)に、あとの4割は脚と足にかかっています。この6:4のバランスにあるとき、身体が深いところから支えられます。
土台が変化するのに合わせて、背骨や胸、肩が適応していくのを邪魔しないで、許しましょう(permit, allow)。腰椎の前弯によって、胸と喉は下から持ち上がっています。同様に、頭も先ほどより高い位置で支えられています。
この姿勢で振り向くと、今度はもっと後ろの方まで見えるのが分かります。
坐禅の時はキョロキョロしませんが、このように首がフリーになっているのが、よい姿勢です。これが先ほど言った「be movable without moving」、動かさないけれど、動こうと思えば楽に動ける状態です。
腰椎に適切な前弯があると、内臓の動ける空間が広くなります。横隔膜も自由に降りられるようになって、呼吸のためのスペースも広がります。
正しい姿勢は、自然な呼吸を促してくれますので、「調身」と「調息」が表裏の関係にあることが、ここからも分かります。
(参考:テキストp.121)
9. 上体を倒す
(一照さんinstruction)
骨盤底のひし形をオープンに、後ろ側の三角形が解放された状態で坐ります。何度か楽に呼吸して、胸郭下部が広がり、息が肺の前後に広がるようにします。肋骨の下の部分に手を当てて、その手に向かって、吸った息でその手を押し出すように呼吸します。側腹部や背中側、腎臓のあたりにも呼吸が届いているのを感じます。
今度は手を当てないで呼吸します。一度息の通り道ができると、手を当てていなくてもそこへ息を運んでいけると思います。
股関節を蝶番のように折りたたんで、上体を前に倒します。前に倒れていくとき、坐骨の間のスペースが広がっていくのを許します。この動きがぎこちなく感じるときは、無意識にお尻を締めていたり、骨盤底を閉じてしまったりしていないかチェックしてください。
上体を起こすときは、まず手を使って少し身体を起こし、あるところまでいったら、膝で軽く床を押します。押した分だけ床から返ってくる力を使って起きてきます。床を自分から遠ざけて離していくつもりで押すと、「床から押してもらった結果として起き上がってくる」という感覚になります。意識の持ち方の違いで、力の出し方が変わってくるということです。何気ない動きですが、動作が全身で行われていることに気づいていてください。
(参考:テキストp.123)
立った状態でも同じようにして上体を前に倒す動きを試してみてください。何か床に落ちているものを拾ってみてください。後ろの三角(肛門三角)を固めないで、緩めて開いていてください。
「尾骨周りのスペース」という新しいアウェアネスを取り入れて、動きを修正してみましょう。骨盤底が広がったり縮んだりする感覚があります。
歩く時も、骨盤底のダイヤモンドが開いた感覚を持って歩きます。
(参考:テキストp.124)
10. 姿勢が知覚に与える変化
姿勢(私のありかた)が変わると、世界の見え方が変わるということが重要です。身体が十分にサポートされている状態は、まわりの世界に対する態度に影響を与えます。自分の中に心配や思い煩いがあって、自分の身体をサポートするということを忘れていると、それに応じた世界が私たちには知覚されてしまう…ということです。姿勢と知覚とは、無関係ではありません。
また、その逆の場合もあって、知覚が姿勢に与える影響というものもあります。「眼耳鼻舌身意」の6つの知覚の使い方が、重力の正しい受け止めや、正しい呼吸のしかたにも影響します。
「調身・調息・調心」の3つは、お互いに影響しあっています。ひとつがうまくないと、ほかの2つを引きずり込んでしまうし、ひとつがきちんとできていると、ほかの2つを促進する…という関係になっています。
11. "3D"の呼吸
■ 呼吸を全身で感じるエクササイズ(参考:テキストp.155)
(一照さんinstruction)
坐蒲や座布団を使って坐って、自分がいちばん楽な姿勢を探してください。
自分の中で息がきちんと捕まえられているかどうかが、次に進むときのいちばん最初のステップとして大切です。
息を吸うときに、身体の内側にスペースが広がるような、開いていく感覚を見つけます。感覚を「作る」のではなく、「見つけて」ください。
吸うとふくらみ、吐くと縮む…。身体の中で、ふくらんだり縮んだりする動きがいちばん目立っているところはどこでしょうか。そこにしばらく注意を注いでください。これは最もベーシックな呼吸瞑想といえるものです。
■ 背中で呼吸するペアワーク (参考:テキストp.156)
多くの人は、呼吸するときに胸の前側しか使えていません。実際は、横や後ろにも三次元的に呼吸は広がっています。2人一組になって、ひとりは正座になってください。
(一照さんinstruction)
正座になった人は、上体を股関節から前に倒してひれ伏し、おでこを床の上に休めます。首をリラックスさせて、頭の重さを完全に床の上にゆだねます。その体勢で落ち着くまで、ゆっくり時間をかけてください。楽に呼吸ができて、そのまま寝てしまえるくらいの姿勢をとってください。
パートナーの人は、正座の人の左側について、正座の人の胸郭下部の両サイドに手を当ててください。「ここに息が入るよ」と教えてあげるように、そっと触れてください。
正座の人は、触れてもらっているところに注意を向けて、そこへ息を入れていきます。手を触れている人は、相手の呼吸に自分の呼吸をシンクロさせて、触れている手があたかも自分自身に触れているようなつもりで、手を当てているところに息を入れていくような感じで呼吸します。
当てている手を、胸の両サイドから背骨の両側へと移し、そこで呼吸を感じます。
パートナーの人は、触れていた手を離します。正座になっている人は、手を触れられていた感じを思い出して、両脇と背中の真ん中に自然に息が入っていくように呼吸します。
正座している人が上体を起こす時に、パートナーの人に仙骨と頭頂部に手を触れてもらって、伸びやかな背骨の長さが縮まないようにゆっくりと起き上がってきます。
12. "よいものを吸う"エクササイズ(宿題!)
(一照さんinstruction)
次は、よりチャレンジングな「仰向け」で行なうワークをします。寝てしまわないようにしてくださいね。
「自分がいま嗅ぎたい匂い」をひとつ選んでください。実際にいまこの部屋にある匂いでなくてもよく、イメージで行ないます。
多すぎず、少なすぎず、ほどほどの量の空気を取り込み、鼻孔が奥まですべて広がるのを感じてください。ポジティブなものを取り入れようとする態勢を取ると、これだけでも身体が空気を取り入れようとするありかたが変わってきます。
「よいものを吸う」エクササイズは、横隔膜と胸郭をフルに使えるようにするためのものです。イメージを使って神経系をだまして、楽に息が吸えるようにします。(参考:テキストp.158)
13. "吐いてゆだねる"エクササイズ(宿題!)
(一照さんinstruction)
鼻から息を吐きながら、自分の身体の重さに注意を向けましょう。
吐く息に直接意識を向けるのではなく、身体にかかる重さの感覚に集中します。息を吐くたびに、身体のどこか一部分を選んで、重さの感覚を味わいましょう。身体の中でどこがいちばん楽に床に休むことができるか、探してみてください。
その感覚を十分に味わい、それが重さをあまり感じられない場所に広がっていくことを許します。少しずつ、身体のすべての場所がいちばん重さを感じたところと同じくらい重くなるようにします。
このようにして身体をリラックスさせていくと、吸気のための筋肉も緩んできます。吐く息のクオリティが改善されていくと、吸う息もそれに連動して改善されていきます。この練習をしていると、吐く息のスピードがゆっくりになって、そのあとの休止の時間も長くなることに気づきます。息を吸うのもだんだん自動的な動きとなり、さらに楽で心地よくなっていきます。
身体の表面だけではなく、中のものも床に沈んでいきます。膝のお皿や、内臓も、脳みそも。
この時間は、完全に脱力することが許されていますので、遠慮しないでリラックスしてください。ワークを始めた時よりはリラックスしていると思いますが、そこで妥協しないで、もっと深くリラックスできるようにしてください。身体を隅々まで見ていって、すべての身体の場所で脱力の度合いが均等になるように。
「よいものを吸う」と「吐いてゆだねる」の練習に慣れたら、この2つを一緒にやってみましょう。
吸いながら身体を開いて外の空間を受け入れ、吐きながら身体の重さを地面にゆだねる練習を、一呼吸か二呼吸おきにやってみてください。
吸うと身体の中が満タンになって、吐くと空っぽになる。膨張と収縮を繰り返していくうちに、身体に残っていた慢性的な緊張がほどけていくかもしれません。
(参考:テキストp.159~161)
14. "眼球が沈む"ワーク
(一照さんinstruction)
このテキストには載っていませんが、"目玉が沈む"ワークも行ないましょう。眼の周りというのは、常に緊張が残っているので、それを緩めていきます。
軽く眼を閉じて、いま仰向けになっている自分の頭蓋骨を大きな器だと思ってください。その器に、水が顔の表面のところまでたまっていて、2個の眼球が水面に浮かんでいるのをイメージしてください。顔をほんの少し左右に動かすと、水面が動くのに伴って目玉も左右に揺れる感覚があるでしょうか。
この目玉がだんだん重くなって沈んでいくイメージをもってください。床に向かって、1センチ…2センチ…3センチ…少しずつ沈んでいきます。
まだ水の上に浮いているものはありませんか?
眼球だけでなく、肺や心臓も、胃や腸も、骨も、ぜんぶ沈みます。
取り組まないといけないことは、皆さんそれぞれに多々あるかもしれませんが、今は忘れて、横に置いていてもいい。
一瞬でもいいから「手放せるか」というのが大事です。放せたら、また取り上げる。「問題があなたを持っている」のか、「あなたが問題を持っている」のか。あなたが持っているのなら、手放すことができます。
15. 横向き、うつ伏せで"よいものを吸い、吐いてゆだねる"
(一照さんinstruction)
仰向けで寝ているところから、左の膝を立てて右のほうへゆっくり倒していきます。左の膝先に導かれるようにして、上半身が横向きになります。うまくバランスを取って、余計な緊張が身体に生まれないようにします。
首をリラックスして、手や床に支えてもらうようにします。お腹にも負担がないので、お腹が楽に膨らんだり縮んだりします。
自分の中に生まれる不必要な緊張に敏感になってください。
さらに身体をまわして、うつ伏せになります。
鼻からいい匂いを吸って、外の空間を体の中に迎え入れ、吐くときに身体の重さを床にゆだねます。
この姿勢で、床に支えられている感覚をよく味わってください。体重を預けると、床にゆだねた力の反作用で、同じ分だけ床が支え返してくれるのをよく感じてください。いつでも、無条件に、無差別に、恩寵のようにして私たちに与えられている重力を、きちんと受け取ります。
その支えを受けながら、楽な呼吸が起きています。幸い今のところ空気も奪い合いをすることなく、ほとんど無尽蔵に、お金を払ったりせずに、いつでも吸えます。
重力と空気は、いのちを支える最もベーシックな要素です。「調身」や「調息」は、それをきちんと丁寧に受け取る稽古であり、同時に、重力と空気をきちんと受け取って私たちが生きていることの証しでもあります。ここに「修証一等」が具現化されているわけです。
§
16. フライング・テーブル(宿題!)
(参考:テキストp.188~)
テキスト第5章(p.167~)のテーマは「腹横筋」です。
腹横筋は、坐禅の姿勢でも"コア"になる筋肉ですので、それを目覚めさせる一連のワークは、坐禅にとって役に立つ…と、この本を読んで思いましたので、皆さんでやってみましょう。
(一照さんinstruction)
まず両手両足を床について、四つ這いのテーブル・ポジションになります。
両手と左の脛でゆっくり床を押してスタビリティを保ちながら、右足を後ろに滑らせて膝がまっすぐになるまで伸ばします。ここではまだ脚は上がっていません。
腹横筋の収縮を保ち、安定した呼吸を続けながら、右足を持ち上げて胴体の高さまで持ち上げます。膝のお皿は下に向けておきます。脚を持ち上げるときに外旋させると、運動の意味が変わってきてしまいます。
脚を伸ばした状態を安定して維持できるようになったら、次の①~⑤をやってみましょう。
① スタートのテーブル・ポジションを確認します。
② 吐く息で腹横筋を働かせたら、片足を後ろにスライドさせてから胴体の高さまで持ち上げます。
③ この姿勢のまま、ゆっくりした呼吸を1回以上行ないます。
④ 腹横筋の収縮を保ったまま、脚をゆっくりと最初のポジションに戻します。
⑤ 反対側も同様に行ないます。
できそうであれば、上げた脚の対角側の腕を水平に上げてみましょう。このほうがさらにチャレンジングなワークになります。
(塾生fさんのinstruction)
このテキストでのエクササイズが、腹横筋への意識づけという意味で行われるのであれば、脚はあまり高く上げ過ぎない方がよいです。
両手でしっかりと床を押して最初のポジションを作ったら、少しお腹を引き上げる意識を持ちます。お腹への意識をできるだけ保ちながら、右脚を後ろに長く伸ばします。お腹から脚が伸びているようなイメージです。
脚を床に対して平行になるところまで上げていきます。このときも、お腹の奥から脚がついているようなイメージを持ちます。
今度は、両手で床をしっかりとプッシュしてから、肩をお尻のほうに下げる意識を持ちながら、左腕を「前へならえ」するように伸ばします。お腹の中から腕がついているような感じで、前後に長く伸ばしていきます。目線は少し斜め前へもっていくと、頸椎が自然なアーチを保つような首の状態になります。
一呼吸以上呼吸したら、ゆっくりと左腕と右足を下ろして、もとのテーブル・ポジションに丁寧に戻っていきます。
(その他、塾生からのコメント、Tips)
■ 背骨の前側が中心軸になるので、脚を上げる前は一度収縮させてからのほうが、上げやすくなると思います。
■ このテキストの訳者の椎名亜希子さんから聞いたTipは、脚や手を「上げよう、伸ばそう」と思ってするのではなくて、「床を押す力」、右手が床を押す力で左手が上がっていく。脚を上げるときも、上げない側の脚がをプッシュすることで上がっていくという意識を持つと、身体全体がつながって動くことができる…ということでした。
§
17. 瞑想/坐禅
短いですが、残りの時間は皆さんで静かに坐って終わりたいと思います。
(一照さんinstruction)
きょうのソマティックワークで学んだ骨盤底のダイヤモンドを意識して、ダイヤモンドのかたちを圧縮したり変形させたりしないようにして、脚を組める人は組んで坐ってください。骨盤底のダイヤモンドが吸盤のようにピタッと床にくっつくようなイメージを持ってください。
骨盤から上の身体は、骨盤底のダイヤモンドと床の接地をなるべく助けるように、まっすぐなuprightness(垂直性)を保ちたいので、まずは腕を横にぶら下げて、腕の重さで骨盤底のダイヤモンドが床に近づくようにしてください。
先ほど仰向けの姿勢で行なった「よいものを吸う」と「吐いてゆだねる」のワークを、坐位で行ないましょう。嗅ぎたいよい香りを吸い込んで身体の中にスペースを招き入れて、吐く息で身体の重さを床にゆだねていきます。
「自受用三昧」の話をしたときの「空気と重力を受け取って用いる」ことを同時に行っているワークです。普段の生活でも、空気と重力を受け取り用いながら呼吸したり移動したりしているわけですが、坐禅はこれを洗練して、深めようとしている行ないと言ってもいいと思います。
あとは、音や光など、身体感覚や思考も含めて、「眼耳鼻舌身意」の6つの感覚機能に届いてくるinputを、姿勢と呼吸の向上に役立てることをしています。
澤木興道老師は、「坐禅は、自分が自分を自分する」と言っていますが、「自受用三昧が自受用三昧している」といってもいい。
なんとなく落ち着いてきた感じがしてきたら、坐禅は眼を開いて行ないますので、ゆっくり眼を開けて、いまの自分にぴったりな眼の開き具合…完全に開ききるでもなく、完全に閉じてしまうのでもない眼にします。
6月一照塾へ向けてのhomework
(1) 「坐禅の功徳」を自分なりの言葉で表現する
「弁道話」で来月に講読する"十八問答"のところには、「坐禅の功徳」について、道元さんは文章がとてもうまい人なので、すごい言葉遣いでもってたくさんのことが書かれています。
なので、皆さんも「坐禅の功徳」を自分なりの言葉で表現してみてください。
(2) 「よいものを吸う/吐いてゆだねる」「フライング・テーブル」
「よいものを吸う」と「吐いてゆだねる」は、電車の中など空気の悪いところでは、呼吸が自然な感じになりにくいと思いますので、呼吸に適した環境の中で、一日1回(5分程度)は行なってください。
「フライング・テーブル」は、手足を上げる時の細かい注意点に気をつけながら、少なくとも一日1セットは行なって、1か月間継続してみてください。行なっている間に現れた変化などについて、レポートできるようにしておいてください。
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