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【藤田一照仏教塾】道元からライフデザインへ(19/10)学習ノート⑤

(ここまでの10月一照塾)
導入部「岡田式静坐法」の模様は、学習ノート①にて。
9月塾からのhomeworkをシェアするグループワーク「学道用心集"分かりたい一文"のワーク」は、学習ノート②(前半)学習ノート③(後半)にて。
グループワークで取り上げられなかった点についての一照さんの講話は、学習ノート④をご覧ください。

この学習ノート⑤では、ソマティックワーク「身体のスタビリティ」について振り返っていきます。

0. テキストの概略

『感じる力でからだが変わる - 新しい姿勢のルール』(メアリー・ボンド(著)、春秋社刊)

著者のメアリー・ボンドさんは、「ロルフィング®」を中心に、ソマティックワークを学んで教えている人です。この本の英語原題は、「The New Rules of Posture」、"新しい姿勢のルール"となっています。

僕がソマティックなことに関して様々なところでお伝えしていることと、この本に書かれていることの多くが重なっていて、さらにその先のことを言っているので、読んでみてとても参考になったので、今年の4月から今季の仏教塾を東京で始めるにあたって、ソマティックワークの時間のための柱や骨組みになるようなものを探していたのですが、ちょうどこの本を読んでいたので、4月から7月までの前期で、この本をテキストにしてひと通り取り組みました。

この本は、4つの柱から成っています。

① 身体のアウェアネス(身体の中でいま起きていることに正確に気づく)
② 身体のスタビリティ(安定性)
③ 身体のオリエンテーション(定位、方向性)
④ 身体のムーブメント(動き、運動)

今回は、「身体のスタビリティ」について取り組んでいきます。来月以降、「身体のオリエンテーション」、「身体のムーブメント」と進んでいきます。

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1. アウェアネスの復習(1):背骨のアーティキュレーション

まずはじめに、先月取り組んだ「身体のアウェアネス」を復習する意味も兼ねて、前回やらなかったことをウォーミングアップとしてやってみたいと思います。座布団を使って、瞑想する姿勢をとってください。

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今日のはじめに「岡田式静坐法」を実修しましたが、静坐法を始めた岡田虎二郎の語録に

「永平寺に行ってみたことがあるが、修行者たちは皆、姿勢が悪い。腰が落ちて坐っているから、あんな姿勢では悟れないだろう」

…というようなことが書いてありました。
「禅宗のお寺では坐蒲が山のように積んであるが、あんなものは要らない。日本には静坐があるのだから、それでいいだろう」、と。

しかし僕としては、坐禅のように股関節を開いて坐る姿勢というのは、意味があることだと思っています。股関節を開くことで、骨盤の前後の動きのチョイスが広がると思います。正座(静坐)だとそれができないので、一長一短あるということです。
この塾では、瞑想は股関節を開くこの姿勢で行なうことにして、また別のところで岡田式静坐法もやってみて…両方やってみるのがいいと思います。

股関節を開いて坐る姿勢で、なるべく楽に坐るようにします。
「スタビリティ」は、主に骨盤から下のクオリティについて言っています。
「オリエンテーション」は、骨盤から上の部分の"定位、方向性"についてのクオリティです。オリエンテーションは、スタビリティに支えられていないと自由にできないのですが、その基礎になっている"アウェアネス"を復習してみたいと思います。

これまでの坐禅指導は、アウェアネスのことを全く説明せずに「この姿勢になるように坐りなさい」というやり方でやってきたので、僕としては「アウェアネス→スタビリティ→オリエンテーション→ムーブメント」という順番で坐禅を考え、説明するのがいいと思います。
身体を持っているのだけれど、持っている身体をきちんとアウェアできていないのは、問題だと思います。
「アウェアネス」は、考えることではありません。
自分の心が、awareの状態にあるのか、thinkingの状態にあるのかの違いをはっきりする必要があります。

仙骨は、逆三角形というより、野球のホームベースのようなかたちをしています。赤ちゃんの頃は、仙骨はこの模型のようにかたちが固まってはいません。思春期の第2次性徴が確立する頃になって、やっと仙骨のかたちが決まるまでは、仙骨はfragileな状態です。
仙骨の両側には、体重をしっかり支えられる構造をもった腸骨があって、仙骨と腸骨の間が「仙腸関節」です。

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(一照さんinstruction)
呼吸するときには、もちろん肺が中心的な役割をするのですが、呼吸に連動した動きが全身に起きていて、息を吸う時には、仙骨は前傾して、左右の腸骨が広がって、仙腸関節の後ろ側が縮んでいる。
吐く時には仙骨がもとの位置に戻っていって、腸骨が閉じて、仙腸関節の後ろ側が開いてくる。
この動きを感じたいので、両手を仙腸関節に沿って当ててください。

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まず息を吐いて、ふつうの呼吸よりもすこし大げさに誇張して呼吸してみます。身体を何も動かそうとしないで、とにかくなるべくたくさん息を吸います。鼻からゆっくりと息を吸います。「正しい動き方をしよう」と思わなくていいので、とにかく吸っていきます。
当てた両手を通して、仙腸関節の動きにどのような変化が起きているかを感じてください。
手で仙腸関節の動きを感じながら、息を吐いていきます。


◆ 背骨のアーティキュレーションを伴った、仙腸関節のアウェアネス

(一照さんinstruction)
手の平を通して仙骨や仙腸関節の動きが感じられたら、今度はその動きを誇張してやってみます。今度は、両手の指を組み合わせて、組んだ手を後頭部に当てます。
息を吐く時の仙骨の動きを拡大するために、仙骨が後ろに傾くのに伴って、両方の肘を前で合わせるようにします。顎を引いて締めます。
身体の前が丸く縮んで、後ろ側が広がって伸びています。

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ここから、息を吸っていきます。
仙骨を手で触って下の方へたどっていくと、途中でカクンと折れ曲がっているところがあります。そこが、仙骨と尾骨の境目のところです。
その境目のところを手でさするようにして、その位置が分かるように、触った残響が身体に残るようにします。

ここが、息を吸う時の動きが始まるところだと思ってください。
先月に実修した「背骨のアーティキュレーション」のように、息を吸う時には、まず今触って確認した尾骨の先端のところが起き上がって外側へ出ていって、その動きが順番に背骨に伝わっていきます。

息を吸いながら、アーティキュレーションが一つ飛びにならないようにゆっくり起き上がってきます。
仙骨が前に傾いて、腰の骨が反っていきます。胸も反っていって、それと自然につながって肘も開いていきます。息の吸い終わりで顎が上がっていきます。

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今度は息を吐いていきますが、また仙骨と尾骨の境目のところからゆっくりと後ろに倒れていって、アーティキュレーションが飛ばないように、脊椎を一つひとつ丁寧にたどっていきます。
これは、きちんとアウェアネスができていないと、いま背骨のどこが動きの中心になっているのかを追っていくことができません。
みぞおちの辺りが後ろに傾いて、首が前に倒れるのに伴って、最終的には両方の肘が近づいて、合わさっていきます。

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2. アウェアネスの復習(2):仙腸関節を開く

もう一つ、アウェアネスの復習をします。
このテキストには載っていない、ヨガのポーズです。

(一照さんinstruction)
座布団や坐蒲に坐った状態で、右足を折って左の方へ持っていきます。
次に左ひざを立てて、左の足を右足の向こう側に置きます。
右手を上げて、右ひじを立てた左ひざの外側に掛けます。

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背中が丸くなってこないように、左手は補助として後ろにおきます。
まず息を吐いて、背骨の中に息を通すようにして息を吸っていくと、背骨がスッと伸びます。
息を吐きながら、仙骨のところから順番にひねっていきます。右ひじで左のひざを押す力を借りながら、下から上へゆっくりとひねりを伝えていきます。
その時に、左の仙腸関節が開いています。ここを意識しながらひねっていきます。
身体が許さないひねりの限界の先を行こうとしなくてもいいので、「どこがひねりの限界なんだろう…?」と少しずつ探るようにしていきます。
息を吸いながら、もとの位置に戻っていきます。

足を変えて、反対側も同じように行ないます。

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先ほど立てたひざを、今度は立てないで、両ひざを縦に揃えます。
足の裏は、なるべく上を向いていたほうがいいです。
両手で脚の裏を押さえておいて、まず息を吸って、吐きながら骨盤をゆっくりと前へ倒していって、重ねたひざの上へかぶさっていきます。できる範囲で結構です。
その時に、両手で両足を外側へ少し引っぱります。股関節の辺りを感じていてください。
息を吸いながら、もとの位置に戻ります。

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今度は足の上下を入れ替えて、同じように行なってください。
脚は、できる範囲で結構ですが、なるべく深く組むようにします。

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組んでいる脚を解いて、最初の坐る姿勢に戻ってみてください。
これで、仙腸関節がかなりワークできた感じになったと思います。
初めにやったように、仙腸関節のところに手を当ててみてください。いまワークした仙腸関節の動きがよくなっているでしょうか?

仙腸関節は大きな動きをするところではないですが、ここが柔らかく動いていることが大事になってきます。ここが固まって癒着しているようになると、息を吸うために上半身で努力しなければならなくなります。
今度は、当てていた手を離して、手で触れないで仙腸関節の動きを感じてみてください。
手を触れるのは、そこへの注意を向ける方向性をはっきりさせるためなので、慣れてくると手を当てなくても、"心で仙腸関節に触れる"という感じになってきます。

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3. アウェアネスの復習(3):鎖骨&肩甲骨

下半身のアウェアネスでは、仙骨や仙腸関節が大事なところですが、上半身では鎖骨と肩甲骨です。これは自分で触れるのは難しいので、ペアになって行ないます。

"哺乳動物の骨格を人間に対応させた動物図鑑"という本があるのですが、それによると、犬や猫には鎖骨がないそうです。鎖骨がないから、身体の幅よりも狭い隙間でも、身体をクシャッと縮ませて通ることができるのだそうです。
ちなみに、馬は人間の身体で例えると中指一本で立って走っています。


◆ 胸椎と頸椎のつながり
いま、彼の姿勢を横から見ていて気づいたことですが、あごが上がっていて、胸椎と頸椎のつながりが切れているのですね。
これは、切れているところだけを直してもダメで、「あたかも首筋の裏側に板があるような感じで、"屍のポーズ"でやったような感じで頭の後ろと背中を板につけているかのように」胸椎と頸椎をつなげていきます。

あごが上がってしまうのは、実は僕もその傾向があって、メガネをかけている人はそうなりやすいです。特に遠近両用メガネの場合は、レンズの下の方で見るために下目使いになるとあごが上がってしまう癖ができてしまいます。アレクサンダー・テクニークでもその癖を指摘されることが多いです。

この部分のつながりが切れていると、背骨の自由な動きが束縛されてしまいます。首が自由に動くことと仙骨が自由に動くことは、同じように大事で、仙骨と首のところを制御すると、相手を倒すことは容易にできてしまいます。合気道の技でも似たようなものがありますが、仙骨と首のところを前後から制限してしまえば倒せてしまいます。

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坐る姿勢もこれと同様に、仙骨と首のところがきちんと決まれば崩れようがなくなるので、ここのところが急所になります。
この2つの部分は構造的にも似ていて、鎖骨と頸椎の十字と、腰椎-仙骨と骨盤の十字が、腰部をはさんで上下に位置しています。

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今から行うのは、鎖骨と肩甲骨へのアウェアネスです。

(一照さんinstruction)
一人は、坐蒲や座布団を使って坐り、瞑想の姿勢をとります。
もう一人はその左側に坐って、左手で左の鎖骨、右手で左の肩甲骨にそっと触れます。鎖骨と肩甲骨に手で触れる人もきちんと坐れていないと、手の感覚を鈍くしてしまいますので、注意してください。

座布団に坐っている人は、呼吸を少し誇張して、左の肺に息をたくさん入れるつもりで、大きく吸ってみてください。
そうすると、肺の広がりにしたがって、鎖骨が上に、そして後ろに広がっていると思います。
肩甲骨は、背中の真ん中に寄っていく動きが感じられると思います。
息を吐くと、肩甲骨と鎖骨がもとの位置に戻っていきます。

手で触れている人だけが鎖骨や肩甲骨の動きを感じているだけではなく、これは坐っている人がその動きを感じられるための補助として触れているので、あまり力が入らないように、軽く触れてあげてください。

吸う息で鎖骨や肩甲骨がどのように動いているか、吐く息でどう動いているかが感じられたら、手で触れる人は反対側にまわって、右手で右の鎖骨を、左手で右の肩甲骨に触れます。
先ほどと同様に、触れてもらう人は右の肺いっぱいに空気が満ちるように大きく息を吸います。

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今度は、手で触れてもらわないで、鎖骨と肩甲骨の動きを自分でモニターしながら、ふつうの感じの呼吸をしてみてください。もしそれで良く感じられなかったら、パートナーに頼んでもう一度触れてもらってください。
左右で動きからの感じに差があったら、あまり動いていない方をもう一度触れてあげてください。

また、鎖骨と肩甲骨に手で触れてもらって、今度は意図をもって、触れられている手に向かって息を送っていくように吸ってみてください。
動きがあまり感じられなくても心配しないでください、息をしていることは間違いないですから(笑)。

「瞑想をやっている人は、腹式呼吸の意識が強すぎて、呼吸で肺の上のほうが使えていないことがある」といわれることがあります。僕もアメリカにいた時に、アレクサンダー・テクニークの先生にそう言われたことがありました。

アウェアネスというのは、今とは違う状態へ変えていくために行うのではなくて、「今起きていることが身体でモニターされていて、それがきちんと受信されていれば、必要な動きが自ずと生まれてくる」ということが大事なポイントです。
アメリカにいた時も驚いたのは、大きな身体を持っているアメリカ人でも、自分の身体を意識している感じがしない人が多いということでした。ネルケ無方さんがよく仰るような、「首から下にも自分がいた」ということを改めて発見しなければいけないということですね。
アメリカで禅の指導をしていた時には、「感じてください」というのを"feel."と言っていましたが、今は"aware"のほうが表現としてはいいかもしれないと思っています。

(一照さんinstruction)
仙骨や仙腸関節、鎖骨や肩甲骨に手で触れたので、その辺りに意識が集まりやすくなっているので、今度は各自で、手で触れないで「心で触れる」という感じでアウェアしてみます。これはもう、瞑想そのものですね。
軽く目を閉じて、手をリラックスさせます。
過度に腰を入れようとし過ぎると、仙腸関節の自由な動きを束縛することになりますので、ここではそれは必要ありません。
左右の仙腸関節、左右の鎖骨、左右の肩甲骨、この6点をアウェアします。この6か所は、アウェアネスを磨く練習によい場所ですから、覚えておいてください。ポイントは、「心を鎮めて注意を向けると、呼吸に伴って生じる微細な動きが感じられる」ということです。


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4. 身体のスタビリティ(1):屍のポーズ

今回取り組むのは「身体のスタビリティ」、下半身のクオリティで、僕の言い方だと「グラウンディング(Grounding)」とも言います。
いちばんstableな(安定した)姿勢というのは仰向けの姿勢なので、これから短い時間…長くやると僕も寝てしまいそうなので(笑)、少しの間、「屍のポーズ」をしましょう。

(一照さんinstruction)
人間は常に「こけないように、ひっくり返らないように」無意識に努力していますが、もう既にこけてしまって、これ以上ひっくり返りようがない屍のポーズが、最も安定した姿勢で、こけないように無意識に努力している緊張は、ここでは必要ありません。

でも、眠ってしまわないようにしてください。

手や足の置き場所も、「そこがいちばんいい場所かな?」と吟味してください。
身体のスタビリティ(安定性)は、自信の源泉になっています。
仰向けのまま両手を上げてバンザイしてください。
上半身を上へ、下半身を下へゆっくり引っ張って、手と足の距離を離していきます。
足は、かかとを身体から遠ざけるような感じで、身体の裏側を伸ばしていきます。グーッと伸ばしていって……フッと力を抜いて、身体全体がゆっくりともとの位置へ縮んでいく感覚を味わってください。

両ひざを立てて、ゆっくりと左側へ倒していきます。それに伴って上半身が左側へ回っていって、左の体側を下にして、横向きの屍のポーズになります。
さらに身体を回していって、うつ伏せになります。
両手を重ねて顔の下に置いて、その上に頬を乗せて、首を緩めて休めてください。
手を下にずらして肩のところへもってきて、腕立て伏せで下におりた形になってください。畳を身体から遠ざけるようにして押すと、床からの反力をもらって身体が起きてきますので、四つ這いを経由して、お尻を足の方へ下ろして、ゆっくり上半身を起こして、正座になってください。


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5. 身体のスタビリティ(2):坐骨、骨盤底

坐る姿勢では、床からの支えを半分使っていますので、坐布や座布団を使って坐ってください。普段から、このように床に坐る姿勢を日常の動作の一つに加えるようにしてください。

◆ 坐骨を感じる

(一照さんinstruction)
坐る姿勢で床からの支えを受けているのは、足の甲から脛や膝の外側、いま床に触れている身体の部分を、触れてみるか目で見るかして、感じて確認してみてください。
今度は手で触れないで、床との接触感覚で輪郭を観ていきます。どこから始めてもいいですが、注意を注ぎながら接地面をなぞっていってください。

身体の重さがいちばん濃く配分されているのは、坐骨です。あとの部分は
補助的に、重さが均等に配分されているように。


◆ 骨盤底を感じる
スタビリティでもう一つの大事な場所は、骨盤底です。
骨盤底は、骨盤の下に大きく開口しているところです。
持ってきた骨盤の模型は男性のものですが、女性の場合はここから赤ちゃんが出てくるので、男性よりも少し大きく開いています。

ここには、内臓が漏れ出さないように、筋肉の膜がふさいでいます。


呼吸時には、横隔膜と骨盤底筋が連動します。

岡田式静坐法と、このようなインド的な瞑想坐法の違いは、骨盤底膜が床(大地)に直接ついているかどうかにあると思います。
インド的な坐法では、骨盤底筋が(きょうの場合は坐布や座布団を介してですが)床に直接触れています。これは、大地とまぐわっているというか…内臓が大地と直接ドッキングしているイメージです。

人間の内臓は、口から食物を取り込んで、その先には胃や腸などの消化吸収装置があって、不要なものは肛門から排泄される…というように、大まかに言うと"一本のチューブ"になっていますよね。

海底には「チューブワーム」と呼ばれる深海生物が生息していて、海底に固定されていて、チューブの中に海水が流れ込んできて、水の中の微生物やプランクトンを食べて生命を維持しています。

正座の場合は、骨盤底と大地の間に足が挟まるのですが、インド的な瞑想坐法では、肛門で大地と接吻しているというか…非常にタントリック(tantric)なイメージがあります。
大地の生気を吸い上げて、それを天につないでいる。あるいは、天からの気がチューブを通って大地に伝えられる…。エネルギーの通り道になっているのですね。

◆ 骨盤底のダイヤモンド
骨盤底は、恥骨結合と左右の坐骨、尾骨の4点を頂点にしたダイヤモンド型になっています。ダイヤモンド型の中を横切る紐のような筋肉によって、前後2つの三角形に分けられます。前側の三角形は「尿生殖三角」、後ろ側は「肛門三角」と呼ばれています。
左右の坐骨と、尾骨の先端、恥骨結合部を手で触れてみて、ダイヤモンドの形とサイズを確認してみてください。

坐った状態では、尾骨の先端と恥骨は床(あるいは坐蒲)に触れていなく浮いているので、少し分かりにくいかもしれませんが、坐った姿勢で骨盤底のダイヤモンドの形が縮まらないように、左右の坐骨の距離、前後は恥骨と尾骨の距離がなるべく空くようにします。

息を吸うと、浅いお椀型になっている骨盤底筋がわずかに下に広がって、息を吐くともとに戻る…その動きを感じてみてください。
仙腸関節、鎖骨、肩甲骨、骨盤底膜…といった部分に、呼吸の動きがどのように表れているかを、微細な感覚を通して知っていくことで、全身で行なわれている呼吸のディテールが見えるようになってきます。鼻から息が出たり入ったりという単純な動きではなくて、いろいろなところでいろいろな表れかたをしているというのを知ってもらいたいと思います。

感覚というのは、一度「あ、これかな?」というのが見つかると、次からは、暗闇に目が慣れていくような感じで、見つけやすくなっていきます。
アメリカにいた頃、「頭蓋仙骨療法(クラニオセイクラル・セラピー)」の初歩的な理論と実技を習いに行ったことがありました。

身体の芯のところで脳脊髄液が増えたり減ったりするのに合わせて、呼吸とも心拍とも違う、開いたり閉じたりするリズムが身体の様々なところで感じられるというのですが、非常に微細な動きなので、最初は全然分かりませんでした。
その時に先生が、僕の手に触れてその動きを"拡大"してくれたのです。そうすると「ああ、こういう感じなのね!」というのが分かって、一度見つかると、どこに波長を合わせていったらよいのかが分かって、次からはリズムが感じられるようになりました。

淡くて細やかな感覚が始めは分からなくても、辛抱強く待ちながら感度を上げていって、ラジオの波長を合わせるように、最初はノイズだらけでも、だんだん波長が合ってくるとクリアな音が聴こえてくるようになります。

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6. 身体のスタビリティ(3):横隔膜

今度は、骨盤底膜の動きよりは分かりやすい、横隔膜の動きを感じる練習をします。

(一照さんinstruction)
吸う息で、横隔膜のどこから動きが始まって、吸い終わる時にどこまで動いていくのかを観察します。
まず、横隔膜の前側の動きを感じます。「何が何でも感じてやるぞ!」というようにアグレッシブに感覚を取りに行こうとすると、逆に感覚が鈍くなります。かといって、ボーッとしていてもダメです。ちょうど良い緊張感を保ちます。

次に、横隔膜のサイドを感じます。親指を下向きにして、下部肋骨に沿って手を当てます。手の下の皮膚を通して、まるで海面下でクジラが静かに通り過ぎていくように、息を吸い始めると、手の平を通して上から下へ向かって横隔膜が動いていくのが感じられるかもしれません。吐く息で、それがまた上へ戻っていきます。

今度は、背中側の横隔膜の動きです。ここにも、横隔膜の上下動が感じられます。下部肋骨にまでしっかりと息が入っていきます。

今度は手を触れないで、横隔膜の前側、サイド、後ろ側を同時に感じてみてください。横隔膜は平面ではなくて立体的な構造になっていますので、3次元の動きが感じられるかもしれません。

骨盤底膜と横隔膜をそれぞれ感じたので、今度はそれらを同時に感じてみます。これは立っているときにも出来ますので、横隔膜と骨盤底筋の連動への感受性を、普段から練っておいてください。


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7. 身体のスタビリティ(4):インナーコルセット

横隔膜と骨盤底筋群の間にある腹部の「インナーコルセット」も、スタビリティを担っています。

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坐骨と脚で作る、骨で構成されたスタビリティをいちばん下の層だとすると、その上に乗っている、筒状で内臓と筋肉で構成されているインナーコルセットは"第2層"のスタビリティと言えるでしょう。

(一照さんinstruction)
坐蒲や座布団に坐って瞑想の姿勢をとって、スタビリティの第1層(坐骨と脚の骨が支える構造)と、第2層のスタビリティ(腹横筋のインナーコルセット)を感じてみてください。
インナーコルセットは生きている組織なので、微妙に広がったり戻ったりしています。第1層も、仙腸関節は可動性がありますので、関節を介して微妙にかたちを変えながら安定性を保っています。
坐禅の安定した姿勢の土台になる安定性を、この2層が担っています。
人間は直立する動物なので、腹部のインナーコルセットと骨盤は、直立姿勢を安定させるためにあります。

来月の塾で取り組む「身体のオリエンテーション」は、それより上の部分、手や頭の方向性のクオリティについて扱っています。
肺は中身が空気なので、インナーコルセットの上にそっと乗って、ふわりと浮いています。
首と頭はさらに軽くて、ヘリウムの入った風船のように、しっかりした土台に乗ってふわっと軽く乗っています。この感覚が、背骨の垂直性(uprightness)を作ってくれています。

今日は「動静、あるいは正邪の二相」ということを皆さんで学びましたが、重さと軽さ、下へ向かうスタビリティと上や外へ向かうオリエンテーションが、人間の身体の中で同時に存在しています。

姿勢というと、とかく外見上の問題だと思われたり、あるいは静止している(staticな)ものと捉えられがちなのですが、このテキスト『新しい姿勢のルール』では、「姿勢は、運動の中にある」「アウェアネスの感覚を紐解きながら、姿勢は内側から生成してくる」という考え方が柱になっています。
これは、僕の坐禅・坐相に対する考え方と重なっていることを、僕よりも前から言っているので、僕にとっては「先達」と言えるでしょう。


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11月までのhomework

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(1)『学道用心集』の用心第七・第八を読んできて、「文句を言いたい、いちゃもんをつけたい、反対したい、合意できない一文」を選び、その理由を説明する。
(2) 左右の仙腸関節、左右の鎖骨、左右の肩甲骨の6点の動きを感じながら瞑想(一日5分以上)

【No donation requested, no donation refused. 】 もしお気が向きましたら、サポート頂けるとありがたいです。 「財法二施、功徳無量、檀波羅蜜、具足円満、乃至法界平等利益。」 (托鉢僧がお布施を頂いた時にお唱えする「施財の偈」)