鮮やかな熱い風が駆け抜けた後に/続・ロードレースの魅力について考える
ヨーロッパのロックダウンが解除され、日本を離れこの7月から渡欧しチームに合流したUCIプロチーム「NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス」に所属するプロロードレーサー・中根英登選手(愛知県出身)のレース活動再開となる、ルーマニアで開催された4日間にわたるロードレース「Sibiu Cycling Tour2020 (UCI 2.1) 」が昨日閉幕した。こうした機会に単身ヨーロッパに渡りトップチームで活躍する日本人、僕らにとっては地元のヒーローとも言える中根選手を知ってもらう記事をいつくか自身の活動を毎日綴っているnoteに書いた。
すごい選手がいるんです/プロロードレーサー・中根英登
いよいよ始動/プロロードレーサー・中根英登
それに合わせ現地からのリアルタイムストリーミングを利用し、その活躍に声援を送りながら僕自身が考えるロードレースの魅力のひとつについても綴ってみた。
サイクルロードレースの魅力
それぞれの記事は幸いにもnoteの「スポーツ(総合)のまとめ記事」というオフィシャルのマガジンにも取り上げていただき、多くの皆さんの目に触れることとなった。例えば「ツール・ド・フランス」という名前は多くの方々が知っていても日本ではやはりマイナースポーツである自転車競技そのもののや、そこで戦う人の姿、その世界観やスケールといった魅力を、自転車にあまり興味がないかもしれない人たちにこのnoteという媒体を通し届けられたのはとても嬉しく、有意義なことだと思っている。
このように「(そもそも)興味関心のある人」でなく「興味関心のない人」へのチャンネルをどのように開き、どのような角度で届けていくのかを全体で考えていかなかれば、それがどんなに魅力があるスポーツだとしても、その未来が明るいようには思えない。もちろん選手目線での考え方、チームの運営を含むチーム目線での考え方、大会運営側目線の考え方など、何に対して優先順位をつけるのかはそれぞれのオーガナイザーや連盟や組織が考えることではあると思うしその立ち位置によっても大きく異なる。しかし競技またはそのスポーツ全体を「する」「観る」「支える」の観点で考えた時、親や周辺に競技者や関係者がいるという場合を除いては、ほとんどの場合「観て楽しむ」という観点からスタートし、そこから「するひと」「支える人」へと進んでいくはずだろうから、やはりその魅力をまずは多くの人に届けるという行為に重きを置かないとその競技全体の発展はないように思える。
「選手→関係者→一般(楽しむひとたち)」という階層が逆ピラミッドでは、日本の高齢化問題と同じでその先に明るい未来が描けるように思えない。やはり底辺の拡大、細く長く不安定な塔の一部の人のものの様な不安定な構図でなく、放射線状に広がる土台の厚いピラミッド構造の構築を(少なくとも目標として理想のゴールとして)目指し、その中から様々な情熱や才能が自然と勃興してくる様な土壌を開墾しなければその競技のレベルが切磋琢磨し磨かれることはないし、その分野そのものの発展やイノベーションもない。何故なら限定的な世界、限定的な条件にこだわる限り、関わる要素の絶対数、多様性があまりにも薄く、足りないからだ。
これはどこかで拾ってきたり、聞きかじったような情報ではなく、僕自身がスポーツ大会を主催し、関係者や参加者、支えてくれる層と繋がりを作り、スポーツを使った地域づくり、まちづくりに根を張って取り組み、スポーツとは関係のないこの地域に暮らす人たち、考え方や価値観の違う行政の人たち、またはスポーツをしたいとこの街を訪れてくれる愛好家など多くの人たちを繋げれば繋げるほど、そして真摯に取り組めば取り組むほど、先に書いたような構図への理解やビジョン設計を持たない限り、活動に対する熱量の維持はおろか、むしろ縮小せざるを得ないことが実感とし経験として痛いほど理解できている。
少なくともコア層でない人たちとコアな部分との違う価値観を繋げる相互理解が大切であり、それがその競技の持つ社会性と直結するように感じる。少なくともそうした相互理解が得られなければ行政も、地域も、そして民間企業も社会性の薄いものには共感しづらく、投資もしづらい。ただその会社や団体の意思決定者(首長や、社長など)が「私はこれが好きだ!」と良い意味での独断と偏見、または何らかの趣味趣向を持たない限り、ほとんどの場合、一見すると見返りが少ない分野に対しては特に投資されたり、その先との繋がり共感を生んでいくという構図は得られないだろう。だとすればその理解&協力者が少ない状態で「現状を良し」とし進むというのは、結局大会運営、チーム運営に大きく影響し、最終的には選手のサラリーや大会の規模、開催への理解という部分にも直結していく。そう思うとやはり幅広い社会といかに連結し、その多様な価値観とどのように相互理解を図るのかを真剣に考えないとこの魅力的なスポーツを自分の国で、自分の暮らしの中で見て楽しむことも、自分たちが応援したくなるような例えば僕らをわくわくさせてくれている中根選手のようなヒーローの出現の可能性を自らが摘み取っているように思える。だから僕は僕のできることとして、多くの人にこのスポーツの持つ魅力やスケール&世界観を届けたいと考える。
それは僕が単にこのロードレースという鮮やかで、スケール感の大きなスポーツを自分自身が競技選手であろうがなかろうが、趣味でペダルを漕ごうが、ただただビール片手に観戦しようが基本的には愛して止まないからだ。
例えばレースが始まれば何時間も前か勝負どころの坂に集い、道路にチョークで応援メッセージを書き、いざ自転車の集団が迫ってくれば走って追いかけ、自分の率いの選手に声をかけ、自分たちの国の国旗を誇り高く振って応援する。または現地に行けなくても街のパブに集ってそれぞれが専門家か解説者なったつもりで、自分の街のヒーローやそのレース振りにについて語り盛り上がる。そんな風景が中継に映っても映らなくても、それぞれの町で、それぞれぞれの暮らしの中で行われ、ソワソワ、ワクワクする人たちがいるんだろうなと風景を想像し、考えるだけで楽しい。レースウィークはそんなふうに少し特別なものであってほしいと思うし、僕はそうした全体の在り様こそ、このロードレースや自転車競技の持つ世界観の大きな魅力のひとつではないかと思う。
それぞれの立ち位置において価値観の違いや、それぞれの言い分や難しさ、様々な人や団体によるパワーゲームのような力関係、政治的な判断、経済的な判断があることはよく理解できる。ただ僕はそうしたカテゴリー分けにおいてはなんの役割もないし、プロでもない。だからこそ、もっと純粋に、もっと丁寧に、知らない人たちに向け、そのチャンネルを開いていきたいし、自分の「好き」を繋いでいきたい。もちろんその新しい世界へのチャンネルを自ら開こうとするひとがいるのであれば、その人がその魅力をより感じ取れるようにこうした情報を残していきたいし、親身になりその力になりたいだけだ。
こんなふうにロードレースの世界を楽しむ時、僕らの地元のヒーローとして中根選手のようにヨーロッパにわたり活躍する選手がいることで、この楽しみ、魅力、世界観は中根選手を起点に何倍にも膨らむ。今回のレースでも4日間で約500㎞近くを走り、自転車と言えども平均時速は40㎞を超え、20㎞を超える山岳ステージ、下りやゴール周辺では時速70㎞近くにもなる。今大会は天気も悪く初日以外は曇りや雨模様の中で集団でレースをする。そんな想像もできない過酷な世界で戦うヒーローの姿を遥か遠くヨーロッパ・ルーマニアという自分自身ではまず行くことのない国からの国際映像とその風景の中に見ると、自然と「がんばれ!」の言葉が出る。その一言がそれこそが、とにかく最高なのである。
そうした感情の塊こそがこのスポーツを愛して止まない自分にとってのアイデンティテーだと思えてならないのだ。
■All photo from Turul Ciclist Al Sibiului official FB page. Thanks for Sebastian Marcovici | Grimm / Focus Photos Agency