いま、韓国映画がアツい
『パラサイト 半地下の家族』が第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画初のパルムドールを受賞したことは日本でも話題になった。未だにいくつかの映画館では上映されているし、モノクロ版も公開されたりとまだまだそのほとぼりは冷めない。韓国映画が日本でここまで大々的に取り上げられたのはおそらく初めてではないだろうか。
一時期韓国ドラマが大ブームになったことはあった。DVDレンタル店や配信サービスには韓国映画の日本語字幕付きや日本語吹替の商品があるので、日本に韓国映画がまったく入ってきていないわけではなさそうだ。それなのに大手シネコンで韓国映画のフライヤーや予告はあまり見たことがなかった。その点で『パラサイト』の存在は異例であり、ある意味革命だったと思う。
10月公開の『82年生まれ、キム・ジヨン』も大きな話題になっている。こちらは原作の小説が日本でもベストセラーになった。『パラサイト』もそうだが、韓国映画は社会問題を映画という媒体を通して絶妙に描いている。今回はそんな作品たちをいくつか紹介したい。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』
原題:택시운전사 (2017)
ソウルのタクシー運転手マンソプは「通行禁止時間までに光州に行ったら大金を支払う」という言葉につられ、ドイツ人記者ピーターを乗せて英語も分からぬまま一路、光州を目指す。何としてもタクシー代を受け取りたいマンソプは機転を利かせて検問を切り抜け、時間ぎりぎりで光州に入る。“危険だからソウルに戻ろう”というマンソプの言葉に耳を貸さず、ピーターは大学生のジェシクとファン運転手の助けを借り、撮影を始める。しかし状況は徐々に悪化。マンソプは1人で留守番させている11歳の娘が気になり、ますます焦るのだが…。(公式サイトより)
韓国史上最大の悲劇といわれる光州事件を扱った作品。事件の真実を世界に報道しようとしたドイツ人記者の証言に基づいている。『パラサイト』でも主役を演じたソン・ガンホが主演だ。
注目すべきは同じ国内で起きていることなのに、ソウルの人たちは何も知らないということだ。ここに情報統制の恐ろしさがある。光州で何が起こっているのかも、いかに民間人が死傷しているのかも、何もかもが隠されている。
記者として命をかけるピーターとそれに影響され徐々に考えを改めていくマンソプ、彼らの友情、光州のタクシー運転手たちの勇気。彼らの存在がなければ、この事件は闇に葬られていただろう。
『金子文子と朴烈』
原題:박열 (2017)
1923年、東京。社会主義者たちが集う有楽町のおでん屋で働く金子文子は、「犬ころ」という詩に心を奪われる。この詩を書いたのは朝鮮人アナキストの朴烈。出会ってすぐに朴烈の強靭な意志とその孤独さに共鳴した文子は、唯一無二の同志、そして恋人として共に生きる事を決めた。ふたりの発案により日本人や在日朝鮮人による「不逞社」が結成された。しかし同年9月1日、日本列島を襲った関東大震災により、ふたりの運命は大きなうねりに巻き込まれていく。 内務大臣・水野錬太郎を筆頭に、日本政府は、関東大震災の人々の不安を鎮めるため、朝鮮人や社会主義者らを無差別に総検束。朴烈、文子たちも検束された。社会のどん底で生きてきたふたりは、社会を変える為、そして自分たちの誇りの為に、獄中で闘う事を決意。ふたりの闘いは韓国にも広まり、多くの支持者を得ると同時に、日本の内閣を混乱に陥れていた。そして国家を根底から揺るがす歴史的な裁判に身を投じていく事になるふたりには、過酷な運命が待ち受けていた…。(公式サイトより)
舞台が日本であるためセリフもほとんど日本語。だが演じているのは韓国の役者たちだ。特に金子文子を演じるチェ・ヒソは、彼女が韓国人であることを忘れてしまうくらい流暢かつきれいな日本語を話している。演じる役者はもちろん、脚本にも感嘆せずにはいられない。
私がこの映画を観たのは22歳のときだった。映画で金子文子は23歳で獄中で亡くなったと知ったときの衝撃は大きかった。自分とさほど年齢がかわらないのに、ここまで強い信念をもって生き、朴という一人の男を愛し、獄中で死んでいった彼女の生き方はまさに波乱万丈だった。
あまりに衝撃的だったのと、文子のことが気になったこともあり、映画館を出たその足で図書館へ向かい、彼女の獄中手記『何が私をこうさせたか』を手に取った。そのまま椅子に座って勢いにまかせて読んだ。そこには彼女の生い立ちから朴に出会うまでの壮絶な内容が書かれていた。映画で文子が朴と出会ってすぐに同棲を始めることに驚いたが、この手記を読んで彼女の行動に少し納得した。映画とあわせて読むことを勧める。
『マルモイ ことばあつめ』
原題:말모이 (2019)
1940年代・京城(日本統治時代の韓国・ソウルの呼称)―
盗みなどで生計をたてていたお調子者のパンスは、ある日、息子の授業料を払うためにジョンファンのバッグを盗む。ジョンファンは親日派の父親を持つ裕福な家庭の息子でしたが、彼は父に秘密で、失われていく朝鮮語(韓国語)を守るために朝鮮語の辞書を作ろうと各地の方言などあらゆることばを集めていました。
日本統治下の朝鮮半島では、自分たちの言語から日本語を話すことへ、名前すらも日本式となっていく時代だったのです。その一方で、パンスはそもそも学校に通ったことがなく、母国語である朝鮮語の読み方や書き方すら知らない。 パンスは盗んだバッグをめぐってジョンファンと出会い、そしてジョンファンの辞書作りを通して、自分の話す母国の言葉の大切さを知り…。 (公式サイトより)
こちらは7月10日から日本で公開される作品である。『タクシー運転手』の脚本家オム・ユナの初監督作品であり、プロデューサーと主演も『タクシー運転手』に関わっている。日本統治下という韓国史の中でも暗い部分と、自分たちの母国語を守ろうとした名も残っていないであろう多くの人々へ焦点を当てたことがすごい。韓国でも絶賛されており観るのが楽しみな作品だ。
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最近の日本映画は、人気アイドルや若い俳優を起用したマンガやアニメの実写化ばかりだが、映画も一種のメディアである。歴史や社会と向き合い、何かを発信するツールである。娯楽としてだけでなく、教訓としての映画というのもあってもよいのではないだろうか。
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