浦河町とインド人:馬編
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インドでも愛される動物
インドと馬…なかなかイメージがわかない方も多くいるだろう。しかしながら、その歴史は古く、神話にも登場するほどだ。また、馬を使ったスポーツとして有名なポロも、インドで古くから嗜まれているスポーツであり、イギリスが植民地であるインドで発見し、取り入れたスポーツなのだ。このように、インドと馬は密接な関係にある。
浦河町のインド人はインド史上最強軍馬を扱った一族の末裔?
浦河町にやってきたインド人の故郷を聞くと、さらに興味深いことがわかる。彼らの多くは、インドのジョドプール近郊の村からやってきたマルワリである。マルワリというと、インド通の方は優れた商人集団をイメージされる方も多いだろう。
しかし、マルワリとは、もともとラージャスターンの「マルワリ地域のひと/もの」という意味で、特定の商人集団を表すものでもない。したがって、マルワリといっても商人であるとは限らず、様々な職業についていてもおかしくはない。
では、浦河町にやってきた馬を調教するマルワリとは?手がかりは馬にある。実は、マルワリ種という馬が存在する。
この両耳の先が触れ合うほど反り返っているのは、交配種でも残るほど、マルワリ種・カチワリ種の特徴だという。この記事のトップにある画像でも、その特徴が見て取れるだろう。
マルワリ種の馬が辿った歴史
マルワリ種の馬の起源は定かではないが、ラージャスターンのマールワールやメーワールにいたラージプート族の在来種の軍馬と、インドに侵攻したムガール帝国が連れていたトルコメン種の軍馬の交配・子孫であると考えられている。そう、いわば南アジアと中央アジアの両方の軍馬の血を受け継ぐ最強軍馬の子孫なのである。
ラージプート族が跨る在来種の馬は、重なる戦いの場で、その勇敢さと忠誠心を大いに見せつけたといわれている。古くからこの軍馬のブリーダーであるラーサウル一族(Rathor)は、「マルワリ種の軍馬が戦場を離れる時は、勝利した時、死んだ時、そして、騎乗者が負傷した時だ」と、信じていたほどだ。
インドがムガル帝国支配下となり、16世紀後半にはアクバル皇帝の指揮のもと、5万人を超えるラージプート族の騎兵隊を編成した。その際、在来種の馬とトルコメン種の馬が交配し、マルワリ種の馬が誕生したのではないかと考えられている。
その後、インドがイギリス植民地になると、今度はイギリス人の好みに合わないとして、マルワリ種やカチワリ種の馬を排除するようになった。この特徴的な耳の反り返りが、嘲笑の的となってしまったのである。インド各地にいた藩王、いわゆるマハーラージャ(マハラジャ)が権威を失っていくと同時に、土地や財産を失い、そして、大事にしていたはずのマルワリ種の馬まで手放すことになっていった。次第に、勇敢で忠誠心の厚い軍馬として名をはせたマルワリ種の馬は、人や物を運ぶ駄馬として売られたり、殺処分の対象になってしまった。
その後、藩王の末裔などがマルワリ種の馬の保護に乗り出したため、今では絶滅の危機を乗り越え、再び、インド軍の馬として。ほかにも、競馬や障害物競馬、曲芸、飾り馬としてインド各地で愛されている。マルワリ種の馬は1日100km以上の距離を騎乗しても全く問題がないといわれている。
The Economic Times(2016年5月10日付)によると、インドにはマルワリ種が約24,000頭おり、対してカチワリ種はその2倍の約44,000頭生息しているという。
インド映画「RRR」でも登場する(?)マルワリ種の馬
現在、日本でも話題のインド映画RRRにもマルワリ種の馬が登場すると話題になっている。反大英帝国を露骨に表現するストーリー上、この勇敢なインド固有の軍馬マルワリは、主人公の誇りと勇敢さを体現した存在なのかもしれない。
陸橋から飛び降りる際に跨った馬が、マルワリ種の馬だと思われる。耳のそり具合、くるくると耳が180度回転するシーン、跳ねてクールベットのポーズをとっているシーンでも背中が長いことから、カチワリ種ではなくマルワリ種ではないかと推測できる。
まとめ
ここまでインド最強の軍馬マルワリについてみてきたが、改めて、その土地で馬丁として研鑽を積んできたインド人が浦河町に来ていると思うと、何だか感慨深いものがある。
ひょっとしたら、先祖代々、馬と心を交わすことができるのではないか…そんな風にすら感じてくる。
👇Youtubeにもマルワリ種の馬のサイトが!
後日、浦河町の調教師や厩務員に話を聞いたところ、先祖代々マルワリ種の馬を育てたことがある者もいれば、元々農業をしていたが、自分はインドの競馬業界でサラブレッド馬を世話するようになったという者もいた。つまり、全員が、代々このマルワリ種の馬を扱っていたわけではないようだ。
それでも、皆が口をそろえて教えてくれたこと。
「農家でも一頭飼っていることも多いし、インドでの僕たちの生活では、馬はとても身近な存在なんだ。」
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