金木犀の頃
旅の記録の合間に少し季節のお話
ふわりと香る
その主を探すとかなり離れたところから漂わせているのが分かる
姿は見えずともその香りで惹きつけ
近づけばむせかえるような甘い香りに抗えず
奥底に眠る記憶を引き摺り出して
その正体を探さずにはいられない
懐かしい思い出も辛い過去も甘い記憶も苦しい想いも
急に弾けたように蘇る
今年は少し遅いのか今が満開で
去年の今頃はもう花が落ち地面をオレンジ色に染めていた
北海道には金木犀が無いらしい
子どもの頃から慣れ親しんだこの香りは当たり前のように秋のものなのかと思っていたけれど
金木犀の香らない土地もあるのかと思うと
とても不思議な感じがした
旅行の記録を書き始めてもう1週間が経つ
あっという間だ
忘れてしまう前に早く書かないと
今日はとても涼しくなって
こちらでも北海道にいた時の気温くらいになった
そんな風にして時が経ち日々が過ぎて季節も変わる
傷ついたふりをして傷つけていたのだろう
結局分からないままいつか薄れて
断片的で曖昧なものになり
日常に紛れていつの間にかどこかへ消えていく
変わることもあれば変わらないこともあって
変わり映えのしない同じような毎日を送っているようでも同じ日なんて一日だってなくて
昨日とは違う自分がここにいる
歳を取るのもそうだけど時間は止まらないし過ぎて行った日々は戻らない
今日も生きてるね、と言い合える仲間がいることのしあわせに心から感謝する
晴れだと言った天気予報は嘘つきで
グレーの重たい空が延々と続く
そのうちには雨粒をぼつぼつと落とすのかもしれない
雨に濡れた金木犀はその小さな花をひとつずつ零し
次は冬の番だよと言うのだろう
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