
言霊の幸う国で
雑誌『ちくま』の特集と書評を見て図書館で借りて半分読み
手元に置くことにした『言霊の幸う国で』
大学生のとき『かがみの孤城』ではじめて泣いて以来の涙をこぼした言葉
年末にやっと「この本が読みたかったんだ」という本に出会った
所謂“ 少数派 ”に属する人びとはわたしの周りにもたくさんいる
いろいろに葛藤しながら わたしも少数派だなと思う要素はいくらだってある
図書館という場所の
個人の尊厳を守るさまや、誰しもをそのまま許す姿を愛している
そしてわたしも図書館のような人間でいたいと思っている
それでもこの星は、ここに暮らす人びとは、
皆
わたしの知らない世界を持っていて 静かに胸を痛めたりしていることを知っている
口を開くたびにわたしは 気づきもせず誰かを排除しているのだという
そんな事実に苦しむことだってある
そういえばそんな苦悩を此処noteに書いたこともあった
だから、
わたしと差別者とがその議題に関して心を交えるなんてことは
できないのだろうと思っていた
そう思っていたのに
わたしも差別者であった
読み進めるごとに 先のページで小さく抱いた感情が刺さる
その事実から逃れることもできず 直視するしかない
桜庭一樹さんと李琴峰さんとの対談で桜庭さんが話した
“ エモーショナルな文句に飛びつく人びと ”にわたしは普段冷たい視線を送っている
彼らの優しさは自己肯定感の餌でしかないと思っている
そして、被差別者たちから見たときのわたしはその人びとのひとりだった
さらにわたしをも巻き込んだこの人びとは差別者と何ら変わりない集団であった
でも、それでも、
わたしも「他人と違う」という側面において疎外感や孤独感に苦しむことはある
この感情は、個人の内側から取り出してほかの個人のそれと大きさを比較するものではないと思っている、自分に限らず誰と誰とであったとしても。
心のうちにその寂しさがある
それがすべてだと思う
十人、いや五人でいいから、現に苦しんでいる、あるいはかつて苦しんだトランスジェンダー当事者と面と向かって、話を聞いてみることをおすすめする。
私はただ、迫害されず、差別されず、生まれつき背負わされた属性のせいで,性の可能性を奪われることを恐れることなく、ごくごく普通に暮らし、恋をし、働き、平穏に歳を重ねていきたいと思っているだけだ。私がこれまで出会ってきた素敵な人たち──女性、同性愛者、トランスジェンダー、障害者、在日など、生まれつき背負ってしまったマイノリティ属性のせいで不均等かつ不当に悲嘆と苦悩が分配されたが、それでも日々を何とか生きようともがいている素敵な人たちが、少しでもその苦しみから解放されることを、願っているだけだ。こんなにもちっぽけで、当たり前の願いは、決して理解し難いものではないはずだ。
皆が同じ願いで生きているはずなのに、と思わずにいられない
わたしも彼らのことを知らなければいけない
彼らがこの世界で受けているさまざまな厄災を知らなければいけない
要するにホワイト・フェミニズムの特徴は、自分が受けている抑圧には敏感なのに、自分より弱い人たちが受けている抑圧、あるいは自分が積極的に加担している抑圧には無頓着だ、ということである。
なんでこんなことになったのだろう?なんでこんなふうに傷つかなければならなかったのだろう?すべてネット上の卑劣な差別者のせいだ。しかし、彼らは一体どんな人たちだろう?なぜそこまでして人を傷つけようとしているのだろう?
傷ついたことのないつるつるの心だから、他者の痛みを感知することもできないのだろうか?傷だらけのぼろぼろの心だから、あらゆる痛みに対して鈍感になっているのだろうか?他者の痛みに気を配る余裕もなくなっているのだろうか?
捨て台詞を残して去っていっためぐは、心がぼろぼろに見えた。Lの心と精神ももう、ぼろぼろだった。Lもめぐも悪い人ではない。悪い人ではないのに、なぜこんなふうに傷つけ合わなければならないのだろうか?
一方ではマイノリティ当事者であるのに、もう一方では当事者になれない
これだけ等しく傷ついていながら 人びとは
当事者にならなければ相手の傷みを感知できないのか
学生のころずっと思いながら過ごしてきたことがある
どうして私の周りにはこんなにも“ この人も傷ついている可能性 ”をすっ飛ばしてしまう人ばかりなのか、と
だけれど、類は友を呼ぶとか友だちというのは自分の合わせ鏡だとか言われる
わたしとこの人たちとは同じようにひとの傷を見ているのだろうか
わたしはこんなに苦しいのにこの人たちも同じだというのだろうか
その事実がほんのすこし救われるために大学に通ったようなものだった
教育の世界には「困った子どもは 困っている子ども」という言葉がある
差別者という困った人たちはきっと何かに困っている人だと信じたい
わたしは個人的な思いがマイノリティであることは多いけれど
社会的に弱い立場である要素はいまのところ女性であるということくらいで
この性別は弱い立場ではあるけれど、マイノリティだとは思っていない
そしてわたしはこの本の主人公Lのように 文学に救われて生きてきた
知識と文学の力があれば、Lは生きていける。これまでもそうやって生きてきた。
だからわたしは
どれだけ理解しあえなくても
この言霊の幸う国で
すべての人を許したい
自分の中に居場所がない人びとは 自分の居場所のために
そのほかすべてを切り落としたくなる
Lが大切に思っていためぐちゃんのように
あのころ居場所の不在に苦しんだわたしのように
わたしは今でも
居場所を持った人びとは 世界を許すことができると信じている
居場所が見つからないから 刃を振り回しながらしか生きていかれないのだと。
わたしが平和のためにできることはほかにないと信じている
差別者という困った人たちが 何に困っているのか知りたい
被差別者という困っている人たちが 何を望んでいるのか知りたい
差別者の困りごとのために 被差別者が迫害される世界は間違っている
だから 少しずつ変えていかなくちゃいけない
差別者たちの困りごとをひとつずつ解いてあげなければいけない
でも、そんな力がわたしにはない
けれど
だから
彼らを救うことはできなくてもわたしは ただ
すべての人の 居場所でありたいと思う
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