卑怯者たちについて
俺はバカだからわからねえけど、と前置きをする人
素朴さに居直る人
人を殺したりレイプをしたりする自分を想像しない人
他者に特定の認識を禁じたり強制したりする人
内心と発話が直結するのは自然であり無謬な行為とみなす人
成田空港に初めて降り立ったとき、地中海とは違う匂いを感じた。湿度が高く、鼻腔の奥を刺激することなく、ただそこにじんわりと滞留し続けるような、あれは微弱な海藻のような香りだった。
電車を乗り継いで渋谷に着いた。人々が何層もの柵のようにならぶあれの奥が、ナポリではユキオ・ミシマの小説に名高いスクランブル交差点だ。
渋谷駅前ビジョン・DHC・Q's EYE・グリコ──それぞれの大型ビジョンを繋いだ構造体(「いき」の構造)はそれぞれの法線ベクトルの方向を守護している。燃える金閣寺は、この「いき」の構造のサーフェイスボリュームの中心点に虚数回転をしながら落ちている。
これが人と車の共生の折衷を保っているらしい。
たしかに、スクランブル交差点の歩行者数と交通量のわりには事故は少ないように思える。(ハロウィンは外来のまつりごとなので、あまり馴染まず、そのときだけは摂理が狂う。)
私をその日案内してくれるのはSkypeで仲良くなった大学生だった。東横線で駆けつけてくれたその人は、スクランブル交差点の人の多さに目を丸くしている私の様子に対し、苦笑しながら言う。
曰く、渋谷や新宿に来るといつも「人酔い」をして気分が悪くなるらしい。
それは嘘松だと私は瞬時に看破した。
捉えどころのないある種の深みを印象付けようとするそれ。
湿っていてヌルヌルと滑り、なにかをつんざくことはただの一度もない。
海藻の香り。
部屋にAKIRAを並べているがあらゆることに対する態度を保留し続けている人
私が初めて買われたのは、その後に入ったカフェ人間関係でのことだった。
mancini