
小田原城での思惟と眺め
◉本作は「歴史から学ぶとは?」「ヒント」をテーマとした作品である。
いつもの様に私は休日を利用して、高い所から外を眺めて過ごしたいと思い、財布とスマホをズボンのポケットに潜らせて家を後にした。
今回は、高層ビルではなく違った所で過ごすつもりである。
新宿駅に着き、小田急線で特急券を購入した。折角休日を満喫するのだから、移動のやり方も出勤に使う壁を背後にした座席の通勤電車ではなく、休日の実感と特別感を味わえる特急列車で行きたいのだ。
車内は、定員の半分もいないと思われ、微かに他の客の声が耳で確かめられるが、列車の進む音に簡単に呑み込まれてしまう…。私が何気無く前方に目を向けると、扉の真上には「次は 町田(OH27)」と、知らせの文字が光っていた。
軈て列車は小田原駅に着き、私は下車して、東口を通過し、北入口から入った。直ぐに、先生に連れられた、幼稚園と見える子ども達の縦列が燥ぎながら向こうからやって来た。その子達を後ろから見ていた若い二人の女性は、微笑ましいと思った様な表情を浮かべていた。
歩みを進めると、目的の小田原城は徐々に、視界の割合を広く占めて行く様になる。小田原駅東口からでも城は見れたが、大きいだけでなく、威圧感を浴びせられた感覚に纏われる。
言い方を変えるなら、遠くて見ると太陽の光でも有れば、眩くて白い美しい城であるが、間近で見上げると、物静かに佇む怪物と向き合っている様な感じを覚える。
これ程の威圧感が感じられるなら、かつて敵軍も突撃には躊躇ったのではないだろうかと思える。
私は入館料五一〇円を払い、城内に踏み込んだ。
中には、城主にして小田原を拠点にかつて関東一円を治めていた、北条早雲、氏綱、氏康、氏政、氏直の小田原北条氏の父子五代の肖像画が飾られていた。
実力でのし上がる戦国大名のファーストランナーである早雲は、武力や知略で二カ国を朝廷から奪ったというが、住民に対しては善政を施していた。それは、他国にまで善政が知れ渡り、早雲の統治下に移り住む人もいた程であった。彼は、民いてこその国という考えの持ち主なのだ。
私は、突然早雲の足跡は、この令和にも応用出来るのではないだろうかという考えが閃いた! ブラック企業で働いている、正義感と慈愛を備えた一人の社員が、遂に独立を決断して飛び出し、それに付いて行きたい仲間が一緒するというストーリーなのである。
改めて、歴史人の人物の思考、決断、実行、創出は後世の者達に、ヒントを遺していってくれると思える!
そんな事を考えている内に、私の足は展望台に進んでいた。南側に向かうと強くて冷たい風が絶えずに吹いて来る。もう少し春が近付いてから来れば良かったかと思いながら、遠くに目をやると、相模湾の水面には夥しい細波が、細小な動きを演じ、色の濃淡が生じている。その遥か後方の鯨みたいに横長い伊豆大島は、水色一色にしか見えず、黙って海原の真っ只中に存在していた。
私は、強風を浴びないで済む東側に映り、小田原市街地や三浦半島を見通し、下の本丸広場を見渡しながら、もしも出来る事なら、今働いている会社から脱出して、一人でも信じて付いて来てくれる仲間がいれば、歴史人の人物に一寸でも近づけるのではないだろうかと、考えた。 完