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理想と好き
「ゆで卵」と「焼いただけのオムレツ」、両方にケチャップをかけて食べる。わたしは幸運にも、この二つの味の違いが分かる。でも、理由は分からない。
熱を加える前に混ぜるか、それとも混ぜないかの違いだけ。それだけで大きく変わるこの不思議に、決着をつけること無くここまで生きてきた。たぶん理由なんて、赤ん坊の頃にみんな通るであろうテイスティング行為(とりあえず口に入れる行為)をしっかりと行ったからかもしれないし、あるいは壮大な勘違いをしているだけのことで、数値化したら「全く同じです」なんてことになるかもしれない。だけど、ゆで卵をぐちゃぐちゃにマッシュして白身と黄身を一体化させようと、それはゆで卵のままなのだ。
当たり前に大学を卒業して、当たり前に就職した。
好きだったアルバイトを辞めて、好きでもなんでもない仕事に就く。その会社には楽しい人たちが沢山いて、特に嫌という毎日ではない。
わたしは、ホットケーキが食べたいと言うと「ちゃんとご飯を食べなさい」と怒られる家庭で育ったのに、ホットケーキを朝食に作ってくれる父親がいる国で育った彼と仲良くなった。
彼と会うまでのわたしは、メロンパンとカルピスウォーターがどこにでもあるのは当たり前だと思っていたし、コーヒーをスターバックスで買うと美味しい気がしていた。
彼はファミマのメロンパンが1番だと嬉しそうにはなし、挽き立ての珈琲が安く飲めるコンビニは素晴らしいと笑った。
わたしはその時、急に不思議な国に住んでいるような気分になった。
この国には、英語が苦手な国民たちが大勢いる。その人たちは恥ずかしいから、母国語の中に英語をどんどん混ぜて話す。そして、母国語がどんどん進化するから世界でいちばん難しい言葉と言われることもあるらしい。
不思議な国に住むわたしは、考える。
今週もハードな一週間になりそうだ。週末は、マッサージに行ってリラックスしたいな。そうだ、今日のランチは、たまごサンドを食べよう。
社会人一年目のわたしが、もうすぐ終わる。やっと、ため息と深呼吸の違いがわかった。自分で決めればいい。
一息、ふぅ~と深呼吸する。
不思議な国での1日が、今日もはじまる。
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