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書評集「Read, watch n sleep well.」

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本・映画・ドラマ・アニメのレビュー。書評中心に週2~3ペースで更新中
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#エッセイ

病んでから、何年もずっと小説が読めなかった―ハン・ガン『菜食主義者』

ハン・ガンと私の病と ハン・ガンの作品の最高傑作、いや韓国の現代文学すべてにおける金字塔と名高い『菜食主義者』を読んだ。 しかし、私にとってこの作品は最高傑作以上の意味を持っていた。 というのも以前『ギリシャ語の時間』を読んだとき私は閉鎖病棟にいて、しかも措置入院中だった。拘束され一切身動きが取れない中数日を過ごした後、処置室から閉鎖病棟に移った私は、論文や『十二国記』全巻とともに『ギリシャ語の時間』を読んで、三か月にわたる入院期間を過ごした。 『菜食主義者』は、突如

今日の読書『歌詞のサウンドテクスチャー うたをめぐる音声詞学論考』

最近のJ−POPの曲、と言われて、皆さんは真っ先にどんなアーティストを想像するだろうか。 米津玄師、星野源、YOASOBI、藤井風、Official髭男dism、Ado、あいみょん……。共通するのはドラマ・アニメ・CDといったタイアップ曲が非常に多いことだ。 とりわけ「歌詞のレベルが高い」という評価がなされるアーティストは「歌詞の(タイアップ先のコンテンツに対する)解像度が非常に高い」ことが求められる。 売れるコンテンツにはそれを象徴する歌詞の曲がつく。逆も然りで、売れる曲

『休養学―あなたを疲れから救う』を読んで実際に休養してみた

『休養学』を読んで わたしは体質としてとにかく疲れやすい。 感覚過敏をはじめとする発達障害特有のストレス、メンタルのもろもろの不調などで、ふつうの人よりはあきらかに人生を「休養」に費やす必要があった。 SSRIや抗不安薬、睡眠薬にお世話にならないと長年「休養」という概念を体が感じ取ることすらできないほどの状態だったが、ちょうどこの本に書いてあるようなことを1年ほど実践することでかなり体調がよくなってきた(別の記事でも書くが今は断薬のフェーズに入っている)。 この本がほか

野木亜紀子脚本「フェンス」はすべての日本人に「今」を突きつけるドラマである

はじめに可能ならば、このブログでは美術に関わることのみ言及しようと思っていた。 自分が今、ここで、真摯に向き合いたいことが美術だったので、そうしてきた。 しかし私は邦ドラを愛するひとりの人間として、WOWOWにて放送中の「フェンス」を全力で推薦する記事を書くことにした。 後述するが、私はいろいろな理由から初報の段階から「フェンス」に興味があり、見ると決めていた。 ただWOWOW放送なので、試聴のハードルが高い。映画好きなのでU-NEXTやネトフリなどに月額結構つぎ込んでい