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<小説/不倫・婚外恋愛>嫌いになれたらは、愛を信じてる裏返し(9)STAGE2・Test
私のズルズル続いた浮気相手は、大事にされることがない関係。都合がつけば会い、車の中で重なりあって、すぐ帰る。会った後は決まって、もの凄い自己嫌悪の嵐と、過剰な妊娠の恐怖で苦しんだ。でも、関係をやめることはできないでいた。
男性に必要とされてると一瞬でも感じられるなら、何でも良い。
直樹に出逢っていなければ、何も気が付かないまま生きていたんだと思う。過剰なまでに愛に飢えていた私。苦しさだってことにも気が付かずに……。
そいつとは二年前にはフィードアウトしていて、連絡がないことにも気が付かないほどなのに、直樹はその時のことを執拗に執着し嫉妬する。
その当時の私の行動や考え、話し方さえ、細かく一つひとつを否定をしてきた。
「その考えが良くない。今反省しろ!」
「遊ばれて喜んでるなんて……。これまでのことは、残念な女だったって自覚しろよ」
消すことはできない、修正することもできない過去の出来事を否定され続ける。私も嘘をつけば良かったのかもしれないけど、直樹にはそんな繕った自分ではいられなかった。
直樹も同じように、過去の女性遍歴を話してくれていた。この時の私は、過去のことはどうでも良く、直樹の過去を共有できることが嬉しくて仕方がなかった。でも、私のその態度さえ「どうして俺に嫉妬しないんだよ。俺を好きじゃないからだろう!」と責めたてる。
直樹は、毎日私を詰り急に怒り出しては手が付けられなくなって、激しいケンカに発展していく。
『愛しているからこそ、嫉妬をする。嫉妬は愛のバロメーター』
そうでなければならない。俺が嫉妬しなくなった時はを好芹香を好きじゃなくなる時だと。
感じたことのない大きな幸せと共に、私たちの関係は、どんどん歪んだ愛情に変わっていった。
お互いに執着も嫉妬も経験しないまま生きてきた。だからこそ、初めての感情を自分で消化できずにぶつけ合う。嫉妬=愛だと信じて疑っていなかった。
甘い時間はたった3ヶ月足らず。
直樹に責められ続けて、当時の自分はなんて愚かだったのかと自分に対しての嫌悪感を強くしていく。気持ち悪い。最低。私が私でなくなりたい。
直樹と自分の両方に責められる私。苦しくて苦しくて仕方がない。
「別れよう。もう無理だよ」
深く考えていない。その場のケンカの延長線上なだけ。でも、軽く多用してはいけない重く鋭い言葉の刃……。
私の言葉に、直樹は急に涙を流した。男性の涙は初めて見た。そして、男性が私に縋る姿も。
「ごめん。本当にごめん。こんな風になりたい訳じゃない。芹香を泣かせるところまで追い込んで怒らせているのもわかってる。でも抑えられないんだ。芹香が泣くと何やってるんだと自分を責めてもいる。苦しくさせてごめん。もう一度チャンスをくれないかな?」
それから、直樹は私と長く居ると責めてしまうからと、その場を逃げるように居なくなる。
「落ち着くまで時間が欲しい。今は一人で向き合わないとダメなんだ。また悲しませたくない」
でも、それは私にとっては「奥さんのいる家に帰りたい」にしか聞こえない。チクチクと心が苦しくなったけれど、仕方ないと思うしかなかった。
「家では何をしているの?」
「好きな本を読んだり何もしない」
直樹は「芹香にだけは嘘はつかない。これまでのように取り繕うことなんてできないって感じる」と言っていた。不安定な関係だからこそ、冗談なのか、本当なのか、嘘なのかもわからない。だから、直樹の言葉を疑わないと決めていた。
二ヶ月も立つ頃には、直樹の嫉妬や執着も落ち着いて笑って話せるようになっていた。他の男と軽々しく交わっていた私を、どうして直樹はこんなに好きでいてくれるんだろう?別れたくないと必死になることができるんだろう?
「好きでいてくれる?時々感じるよ。自分を下げる芹香。もったいないよ。もっと上から目線でいいのにさ。充分魅力的な女性だと思うよ。俺は、芹香と一緒に居る時、芹香を見る男の目線感じるけどね。全然わからないの?」
「目が合うなって時はあるけど、何か私の行動にイラついてるのかなって。だから、気が付かないふりをしてた」
若い時とは違う。声をかけられることもなくなったし。だから、私は前しか見なくなった。知り合いがいても、声をかけられるまで全然気が付かない。声をかけられると「はっ」となるくらい、一つのことしか見えていない。
「もったいないな!目を見てニコッと笑ってやればいいのに。もっと気丈に自信を持って。芹香は綺麗だよ」
「それに、芹香は脆くて強くて……。本当は、甘えたいのに、強くなるしかなかった。そうすることでしか生きて来れなかったんだろう?」
そう言って、直樹は笑った。
新しい感覚を次々と気付かせてくれる。そんな人はこの世に直樹しかいない。そんな直樹に私は益々のめりこんでいく。どんどん直樹しか見えなくなっていった。
不倫という状況ではあったが、私にとって『男性を好きになる』という感情自体が初めてのこと。これ程までに感情を揺さぶられた経験がない。この時は、『愛する』という気持ちが私にもあったんだと言う感情で、幸福を感じていた。
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