とんかつコンテンツ論 第2回「失ったとんかつ屋はもう戻ってこない」~平和軒ときららファンタジアの終わり~
はじめに
あるカツカレーの終わり。
2022年11月末。とある町中華が閉店した。
……いや、おかしくないか?
なんで見出しはカツカレーなのに中華料理の話をはじめたんだ。この記事のタイトルはとんかつコンテンツ論だろ。主題はどうなってるんだ主題は。
まあまあ、話を聞いて欲しい。その長い歴史に幕を閉じたその店の名は、平和軒。閉店日にはこの店を愛した客が押しかけ、平日の昼間から長蛇の列が形成されていたことからも、その人気がうかがえる。
そして、この店の人気メニューこそ、何を隠そうカレーライス。
とりわけ、カツカレーは一般的なそれとも違う趣があり、ソウルフードとして愛する人たちがいるというのも納得である……。
平和軒のカツカレー、それ自体は「学食のカレー」を思い出す質素さだ。だが、この存在感ある肉とタマネギがその「学食のカレー」にボリュームを与え、質素どころか贅沢な気分に浸らせてくれる。
カツもカツカレーのカツにしては厚めで、この手のカツにありがちなボソボソ感も無く、肉も衣も楽しめる。ただし、カレールーだけではカツとライスの両方を覆う事は出来ない為、必然的に卓上のソースも併せてカツを攻略していくことになる。そして、それを見越してか添えられている、千切りキャベツのおかげでカレー感とソース感をリセットしつつ食感と味の変化を交互に楽しむことが出来る、というわけだ。
その印象とは裏腹に、様々な世界を楽しめるカツカレー、長年地域の人々を虜にしてきたことも頷けるコンテンツであった。
だが、このカツカレーも今はもう食べる事は出来ない。
というわけで、今回もれっきとしたとんかつとコンテンツの話だ。
どんな店にも終わりは来る
惜しまれ終わる店
平和軒は、多くの人に愛されてその幕を閉じた。閉店当日は多くの人たちによって行列が出来上がり、筆者も列に並んでから件のカツカレーにありつけたのは二時間後のことだった。
良い店が終わりを迎えるのは悲しいことだが、それでも平和軒の終わりは幸せな終わりだったと言える。そして、筆者としてはその終わりに立ち会えたこともまた、客にとって非常に幸せな体験だったと感じる。
だが、そのような幸せな終わりばかりに出会えることはむしろ希だ。
これはとんかつ屋に限らない話だが、飲食店ほどテナントの入れ替わりの激しい業種も無いように見受けられる。筆者の学生時代の話なのだが、大学の最寄り駅からキャンパスの間には多数のラーメン屋が立ち並んでいたが、在学から卒業までの間に、多くの店が現れては消えてを繰り返していた。
当時はあれはラーメン屋特有の現象のように感じていたのだが、昨今の様々な事情を観ていると飲食店全体で起きていることのように感じられる。
そう、とんかつ屋もまた、日夜生まれては人知れず消えている。
人知れず終わる店
平和軒のある学芸大学方面には筆者もよく足を運ぶのだが、この近辺にはとんかつ屋は本当に数えるほどしかなかった。ところが、ここ数年になって数々のとんかつ屋が彗星のごとく現れ、お気に入りの店も出来るなど、ある種のとんかつ新興国めいて喜んでいたが……今年になって、相次いで閉店の憂き目にあうことになった。本当に、いつの間にか終わってしまっていた。
どの店もとても美味しい店だった。本当においしかった。毎日とんかつを食べられる体だったなら、ローテーションを組んで通い詰めたかった。
だが、そういうわけにも行かず、たまに足を運ぶ程度にしか利用出来ないまま……久々に店を訪れた筆者を待っていたのは、閉店の張り紙であった。
どうすれば良かったのか? 言うまでもない。もっと通うべきだった。
結局の所、商売である。採算が取れない以上は、その商売は終わる。
故にその店の、そのコンテンツのファンがそのコンテンツに出来ることはとにかく金を落とすことだ。金を払うに勝る貢献は無い。無いのだ。
愛するコンテンツが終わってから後悔してももう遅い。コンテンツを存続させる為に必要なことは、とにかく金を払うことだ。
平和軒の一件から、今年終わってしまったとんかつ屋たちに想いを馳せてみたが……思い至ったのは、そんな当たり前のことであった。
どんなコンテンツにも終わりは来る
きららファンタジアの終わり。
2022年12月11日。この日が何の日か知る人は少ないと思うが、筆者を知る人間なら何の日か知っているだろう。そう、スマートフォンアプリ・きららファンタジアがリリース5周年を迎えたのだ。そして、筆者を知る人間ならこのアプリがどういう状態かも知っているだろう。
残念ながら、このアプリはまもなくサービス終了を迎える。
きららファンタジアとは、芳文社の誇る漫画雑誌・まんがタイムきららのキャラクターたちが異世界に大集合、というコンセプトのアプリだ。
かつて一世を風靡したゆるふわ青春バンド4コマ「けいおん!」
オフシーズンキャンプの魅力を描き、実写化もした「ゆるキャン△」
終盤に向けて今期最高潮の盛り上がりを見せる「ぼっち・ざ・ろっく!」
そうした有名作品のキャラクターたちが原作者描き下ろしのイラストで、しかもアプリ限定の衣装で、ここだけのフルボイスシナリオまで楽しめる。
それぞれの作品のファンの方々にとっては、夢のようなコンテンツであるきららファンタジアだが、11月に残念ながらサービス終了が発表された。
このサービス終了が発表されるまでの流れは決して唐突ではなく、ファンにとっては半月ほど胃の痛くなる出来事が立て続けに起きたのも語り草だ。
前述のぼっち・ざ・ろっく!はアニメに併せて今年の10月に参戦したが、なぜか7月に完結したメインシナリオ第2部の外伝シナリオが同時に追加されアプリのプレイヤーたちにとっては突然の過密スケジュールとなった。
と、思いきや、10月下旬には毎年恒例のハロウィンイベントの告知がいつまで経っても発表されず、それどころか11月頭には謎の虚無期間が発生。
オマケに、アプリの看板でもなるオリジナルメインキャラの声優である、楠木ともりと高野麻里佳について、立て続けに体調不良が発表され、アプリの存続が危ぶまれる中、その不安は最悪の形で的中したのであった。
そんな訳で、状況証拠とも呼べる情報があまりにも多すぎたせいでアプリ
の終了理由も様々な憶測が飛び交うことになったのだが。ここで断言する。
長年続いたアプリが終了する理由は「採算が取れなくなった」以外無い。
コンテンツを愛するなら金を払え
きららファンタジアに参戦している作品群には多くのファンがいる。
だがファンがいるだけではコンテンツは続かないのだ。コンテンツが続く条件は、ファンがコンテンツに金を払ったかどうか、だ。
きららファンタジアに限らず多くのアプリが今年もサービス終了の憂き目に遭ったが、近い例として話題に挙げたいのは「東方ダンマクカグラ」だ。
ここ数年、東方Projectの二次創作ゲームアプリが大手ゲームデベロッパーより次々とリリースされていたのは記憶に新しいが、その中でもこのアプリは毎日十数万人がプレイしていたと運営サイドも発言していた。
筆者も仕事柄この手の数字を見ることは多いのだが、この十数万人という数字は正直に言って、常識的にサービス終了アプリの数字ではない。一般的にはこの後も一年以上は普通にサービス運営を続けられる数字だ。
そう、一般的には、だ。
ダンマクカグラの公式から発表されたプレイヤーデータによると、その6割が未成年。1/3が高校生ですらない。このあたりの数字を元に、実効的な課金ポテンシャルを持つユーザー層がどの程度いたのかを推測していくと、その数字は途端にサービス終了ラインに片足どころか両足を突っ込んでいたことは想像に難くない。うう、生々しい数字が見えてくる……。
このあたりの東方ダンマクカグラの事情は検索すれば運営のインタビューなどが色々出て来るため、詳しく知りたい方はそちらを調べていただきたいのだが……要するに、ファンの数はコンテンツ存続の理由にならない。
金を払われなかったコンテンツはどれだけファンが居ても終わるのだ。
もちろん、きららファンタジアにも金を払うファンたちは居た。サービス終了発表後、ツイッター上では多くのファンが自分の課金額がいくらなのか運営に問い合わせたスクショを貼るなど、一定の太客がいたのは確かだ。
だが、運営が継続出来るだけの数は居なかった。残念ながら。
実際、きららファンタジアはサービス終了が発表された後も、その最期を見届けようとプレイを続けるファン、思い出を語りあうファンなど、決して人気の低いアプリでは無い。先に挙げた東方ダンマクカグラや、同じパブリッシャーからリリースされた歌マクロスのようにサービス終了に向けて何かイベントが開催されるといったことも無いが、それでも確かにファンの愛を感じるアプリである。しかし、それでも終わらざるを得ない。
商業のコンテンツである以上売上という概念とは切っても切り離せない。
だからこそ、この記事を読んだ方。どうか、愛するコンテンツに金を払うことを惜しまないでいただきたい。終わってからでは遅いのだ。
おわりに
金を払ってもらえるコンテンツを
以上、コンテンツについて考えた時、いずれ向き合わなければならない、行き着く先……そこで望まぬ終わりを迎えないために何が必要を考えると、愛するコンテンツには金を払え、ということを語らせていただいた。
とはいえ、これはファンの視点、ユーザーの視点の話である。
ならばコンテンツを作る側、届ける側に視点を変えるとどうなるか。それすなわち、金を払ってもらいたくなるコンテンツを作れ、という話である。
その為には、どうすれば金を払ってもらえるのか、それも、継続するコンテンツと言う文脈で考えれば、一回限りではなく、何度でも金を払ってもらうためにはどうすればいいのか、というところを考えなければならない。
そして、そのヒントこそとんかつにあると筆者は考える。
そう、すなわちとんかつとはコンテンツ。とんかつコンテンツ論である。
本来であれば、前回の記事の流れでとんかつをコンテンツたらしめるその魅力を語りたかったが、最近あまりにも多くのコンテンツが終わりを迎える場面に遭遇してしまった為、今回はそれらに想いを偲ばせつつ、コンテンツの魅力を追求する意味を再確認する記事とさせていただいた次第である。
ちなみに、前回の記事とはこちらである。
とんかつに金を払うこと、高いとんかつを食べることにどのような魅力があるか、そのひとつとして「メインコンテンツの魅力が高まるから」という話をラーメンなどと比較しながら語らせていただいてる。この記事を読んでとんかつに興味を抱いた方には、是非とも前回の記事も読んで欲しい。
そんなわけで、次回は本旨に戻ってとんかつの魅力をまた語りたい。
次回の記事が挙がるまでに、ここまで読んでくれた読者の方には是非ともどこか一店ほど、美味しいとんかつ屋に足を運んで欲しい。
そして、そのとんかつ屋にまた通いたいと思えたのであれば、この記事が語るとんかつコンテンツ論第3回も是非とも読んで欲しい。
今回の出典
きららファンタジアは2023年2月末にサービス終了すると発表されたが、なんとオフライン版のデータを残すことが出来る。
ただし、あくまでプレイヤーの進捗を元にオフライン版データが作られるため、少しでもきららファンタジアの思い出を手元に残すためには少しでも多くのプレイが推奨される。この記事を観て興味を持った新規および過去にプレイしていた方は、是非ともまたログインしてはいかがだろうか。
まだ読んでないシナリオ、入手してないキャラクターに触れてみることでまんがタイムきららの知らなかった一面を知ることが出来るかもしれない。
筆者が様々な店を渡り歩く事でとんかつの意外な一面を知ったように。
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