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キスに煙 -Kiss and Cry and Lie-
本の概要
タイトル:キスに煙
著者:織守きょうや
発行日:2024.1.30
発行所:文藝春秋
評価:★★★★☆
感想
以前読んだ『花束は毒』が面白かったので、こちらも読んでみようと思った。
わたしは、面白い本を読んでいるときほどよくしゃべる。
この本は、「なんだこれは!」「すき!」とか散々独り言を言いながら読んだ。
娘が近くにいたら「ママうるさい」と言われたと思う。
あぁ、よかった。今は平日の昼間。娘は学校に行っている。
フィギュアスケートの選手だったが、引退し、今はデザイナーをやっている塩澤(しおさわ)は、今でもトップスケーターで親友の志藤(しどう)に、恋をしている。
この男とセックスできたら死んでもいいとまで思っている相手を亡くしても、塩澤は、生きていく意味を失ったりはしない。生きていたって、志藤とセックスなんてできない。生きていても死んでいても、片想いが続くだけだ。
志藤のスケートに、特に惚れている。
リンクの上にいてくれ。
自信に満ち溢れた王者のままでいてくれ。おまえのままでいてくれ。
手が届かなくてもいいから、見えるところにいてくれ。
志藤の回復を心から願っている。けれど、その祈りは自分のためのものだった。
これは本当にミステリーか?
恋愛小説を読んでいると錯覚してしまうくらい胸がきゅんきゅんする。
だけど、そのきゅんきゅんの奥に、ずーーっとざわざわしたものがある。
章と章の間にある「offstage」を読むたびに、ざわざわは大きくなった。
塩澤は強いな、と思った。
自分の軸というか、芯がちゃんとある人だと思った。
それなら、自分らしく滑れるうちに、終わりにしようと決めた。志藤と同じ場所にいるために無理をして、自分が歪むことは許せなかった。
今までBLを読もうと思ったこともなかったし、読んだこともなかったけど、うっかりBLにハマりそうになるくらいには面白かった。
そういう表現があるわけじゃないのに、なぜか官能小説を読んでいるような気分になった。
それはたぶん、塩澤の、志藤を想う気持ちが深いからだと思う。
この小説は、男の人にはあまりウケないかもしれない。
これがミステリーだとしたらイマイチだけど、恋愛小説だとしたら最高だと思った。
むしろ、織守きょうやさんに、ちゃんとしたBLを書いてほしいと思った。