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短編「夜明けのLukta-Gvendur」
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カチンと
Zippoの金属音が響く。
暗がりのガレージでライターを灯し
すっかりと乗らなくなったオンボロ車のエンジンをかけてみる。
ようやくキー穴を探し
セルを何度か回してみたが
エンジンはかからない。
(ダメかな?)
諦めかけた時
ふいにカーステレオから懐かしいジャズが聴こえてきた。
(バッテリーは残っていたんだな。)
すっかり銀髪になっている彼は遠い日を想い出していた。
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なんとなく気恥ずかしくもあったけど
初めて君の手を握って
二人で踊ってみたあの夜
君は伏目がちにたゞ俯いて
僕の服の裾をつまんでいた
覚束ないながらも
足取りを確かめて
スウィングに身を委ねてみる
若かったあの頃
暗闇でダンスを踊る
二人の間だけに感じた
胸に灯火を点すような
君への温かな想いが
脈打つ蔦のように絡まっていったあの夜
今ではすっかり銀髪となった
久しぶりのLukta-Gvendur
青春時代の想い出に光を灯すようだ。
「ブルルル. . . . 。」
いつの間にかオンボロ車のエンジンが動き出した。
(こいつ. . . まだくばってないぞ?)
ガレージの扉を開けると
すっかりと朝焼けの空が白み始めている。
彼は愛車をゆっくりと転がしていく。
今日というかけがえのない
新しい一日の始まりに向かって。
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