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『現代経済学の直観的方法』(長沼伸一郎)を読んで
かつて浅草キッドの水道橋博士が言っていたお話。ビートたけしがテレビで格闘技をみていたときに相手と自分の「強さ」を比較していて驚いたと。
その道でトップになると、ジャンルは違えど共通した「強さ」が見える。本にもその「強さ」のようなオーラがあるんじゃないかなと思っています。
さあ、本書の「はじめに」から漂う「強さ」。静かなる自信といいますか佇まいといいますか、絶対的な安心感といいますか。
入門書の体裁で一般の読者にわかりやすくおもしろく、だけど深くて本質をつくような後に残る名著。まさに本書はそんな一冊です。
第1章 資本主義はなぜ止まれないのか
第2章 農業経済はなぜ敗退するのか
第3章 インフレとデフレのメカニズム
第4章 貿易はなぜ拡大するのか
第5章 ケインズ経済学とは何だったのか
第6章 貨幣はなぜ増殖するのか
第7章 ドルはなぜ国際経済に君臨したのか
第8章 仮想通貨とブロックチェーン
第9章 資本主義の将来はどこへ向かうのか
目次だけでワクワクしますね。
ここではいま起きている資本主義の「現象」とその「構造」について備忘録として少々ふれます。おそらく何度も読み返す一冊です!
「縮退」という概念
いま起きている世の中の現象の説明しながら「縮退」という新しい概念をこの記事では紹介します。
まず、いま日本はグローバル資本主義のもと(高齢化社会による人口減なども影響しているけれど)小さな街の商店街ではシャッターだらけ、といった光景が増えている。ここまでは感覚としてわかります。
一方でGoogleやAmazonといった巨大企業が席巻しているわけですが、世界経済をそれらだけの統計でみれば繁栄しているともいえるはずです。
この一筋縄にはいかない状況を、著者は「経済が(巨大企業に)縮退している」と表現します。
縮退のメカニズムを数学モデル(作用マトリックス)で表すと、そもそもそれぞれの相互作用が適切な値で保たれることってむずかしいとわかる。※図は本書に掲載
で、だんだんと相互作用の強い者が絞られてゆき、限られた二者だけで回るようになってくる。じつは想定されるパターンもこっちの方が多い(そうなる確度が高い)。
一部だけが繁栄して他の弱小種は生態系に無視されるかたちで衰退する。まさにこれが「縮退」であり、重要なのは一度「縮退」の状態となると元に戻すのは極めてむずかしく、いわば不可逆的に進行していくことです。
長期的願望と短期的願望
こっからさらにおもしろいのですこしだけ。著者はここから人間の「願望」に焦点を当てます。
願望は時間のスケールに応じて二種類存在する。長期的願望という名の「理想」と短期的欲望という名の「欲望」です。
たとえば手元のタバコに手を伸ばしたいのが「欲望」で、禁煙して健康になりたいのが「理想」。ふむふむ。
一般的に両者は矛盾します。どおりで人は欲との葛藤に悩まされるわけだ。
で、この話と「縮退」にどういう関わりがあるかというと、現代の資本主義において人の「願望」がどんどん短期化してきているということです。
つまり、人々の願望に短期的に応えることによって、一握りの企業が繁栄しているという事実。奇しくも楠木建さんは「品格とは、欲望に対して行為の遅いこと」とおっしゃっていました。
では不可逆的な「縮退」という状況に対して、我々はどのような打ち手を取るべきなのか。なぜ見誤ったのか(ここで物理が出てくる!とかとか)ぜひ本書をお読みください、考えるヒントは与えてくれます。
資本主義を手放せない理由
そもそも論です。だったら資本主義から離別すればいいのではないか。でもそう考える人だとしても、心のどこかでは資本主義は「相対的な最善」と感じてはいませんか?
それはチャーチルが「民主主義は最悪の政治形態らしい。ただし、これまでに試されたすべての形態を別にすればの話であるが。」といったように。
本書の前半には現代社会が資本主義を手放せない理由を3つにまとめています。ここも膝を打ったので、こちらを引用して終えたいと思います。
①軍事力の基盤を確保するための資本主義
②アメリカン・ドリームの舞台としての資本主義
③他国の資本主義から自国を守るための資本主義
こと日本において、資本主義を手放せない本質は③だと著者はいいます。
日本の場合は伝統的に、安定した農村社会こそ安住の地と考える傾向が強いが、それが19世紀の産業社会の到来によって、このままでは身ぐるみ剥がされてしまうという恐怖から、それに対する対抗策として半ばやむを得ず資本主義を導入したのである。
要するに日本の資本主義を駆動する精神とは「心配」であり、この点を理解しない限り日本の資本主義というのものを理解することはできない。
ふと思い出したのは丸山眞男。たしか内田樹氏の本で紹介されていましたが、丸山眞男は日本人の外来に対する精神態度を「きょろきょろ」という擬態表現でアイロニカルに喝破しました。まさに同じことを言っているのがおもしろかった。
どうやら本書のベースは30年前にすでに完成されていたよう、おそろしい本です。
というわけで以上です!
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