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『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス)を読んで

ヤニス・バルファキス著『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』を読みました。

著者はなんとギリシャの元財務大臣の方。読み終った感想としまして、よくある、むずかしいことをやさしく的な解説本と一線を画しています。

もちろんわかりやすくて身近なたとえ、ギリシャ神話や映画を引用した語りは明快で、夢中で読みました。

1章ではおもに、著者も述べてますが、ジャレド・ダイアモンド的な切り口でまず歴史から紐解いて格差の本質を明らかにします。

ひと言でいうと、気候、地理的な問題が起点であり、たまたま。人の優劣なんて関係ない。

じゃあ、どこから格差がはじまったのか。

交換価値と経験価値

交換価値を反映したものが市場価格。売り物ではないプライスレスなものが経験価値。ここのくだりでは、トムソーヤの壁塗りの話を思い出しました。

本来は罰の壁塗りを「経験価値」とみせることで周りに魅力を感じさせてしまいます。挙げ句の果てにはモノをもらって壁塗りをさせてあげるという「交換価値」へ昇華させたトムソーヤ。

グローバル貿易が始まり、いつの間にか何でも交換価値に置き換える市場社会が始まってしまいました。交換価値>経験価値という扱いになってしまった。

経験価値と交換価値は、対局にある。それなのに、いまどきはどんなものも「商品」だと思われているし、すべてのものに値段がつくと思われている。世の中のすべてのものが交換価値で測れると思われているのだ。

農業から工業化。余剰が借金を生み、借金クレジットを元手に利益をつくり出す株式会社へ。ますますテクノロジーは発展してゆく。AIがひとの仕事を奪うなんて話も出てきました。

未来はスタートレックかマトリックスか

人間の創造力や設計する力などすべて機械にとって代わったとします。ロボットが人間に必要な雑用のすべてを管理してくれる社会。

そうすれば、ソクラテスたちのように毎日広場で侃侃諤諤おしゃべりしていればいいわけです。

ピカード艦長の宣言のように、欲望や飢えから解放されるのでしょうか。落合陽一さんも機械にはここに期待していると思います。人はヒマになるはずだ。

その一方でマトリックス的な世界もあり得ます。マトリックスは機械がすでに地球を乗っ取ったあとにまだ人間を生かし続ける社会を描きました。

人間は自分が奴隷になっていることに気づかないまま、機械のエネルギー源として搾取され続けます。これをメタファーだとすると、われわれはもしかするとテクノロジーに支配されているかもしれません。

テクノロジーが発達しているはずなのに、仕事は増えるばかり、生活の不安はつもるばかり、これはなぜなのか。

すべての民主化を

著者はテクノロジーの民主化を強く主張します。市場社会において、巨大企業は利益独占が一義であり、誰も働かずに済むような社会の実現とはなっていない。

つまり、機械が生み出す利益をひと握りの人たちが独占しているという指摘です。

すべてを商品化すべき!すべてを民主化すべき!著者は後者の立場です。民主化の一つを分配だと考えるとすると、ベーシックインカムの流れも自然なのかもしれまん。

とてもおもしろく読みました、というわけで以上です!

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