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「事実は小説より奇なり」の生みの親!『バイロン詩集』を読んで

十八世紀末から十九世紀初頭にかけてのヨーロッパは「近代」を生み出すための「陣痛」の時期、ロマン主義。

イギリスではワーズワース、バイロン、キーツたちが現れます。

ふと手にとったバイロン、読むとその「人」に俄然興味がわくのでした。

人生の境遇と作品が決まっていたかのように絡み合っている。さすが事実は小説より奇なりの生みの親です。

バイロンとは

イギリス生まれ、大伯父の死でわずか10歳で「男爵」の称号を得る。家族生活は波乱に富んでいた。その影響で自我意識が強く、愛憎のはげしい性格となった。

端正な顔立ち、社交界ではモテモテ。作品が世に受けて一晩にして有名になるも、女性関係が原因で社交界(実質、イギリス)から追放されてしまいます。

ヨーロッパを転々としながらも多作なバイロンは作品を生み続けます。晩年はギリシャ独立戦争に参加するも病で倒れ、36歳の生涯を閉じます。

詩集

初期から後期までの作品をピックアップして収録。単独で読める作品を優先して選定しているので自分のような初心者にとって親切なつくりとなっています。

好みのものを2つほど引用します。

あらゆる悲劇は、死をもって幕を閉じ
あらゆる笑劇は、結婚とともに終る
その二つの後の状態は信仰の問題となり
作者どもも、そこに出現する世界を描くのを恐れるが
それは、ともすれば悪く書きすぎ、また善く書きすぎ
双方の世界からその失態を罰せられるからだ

「ドン・ジュアン」抜粋
「時」は恋の倦怠を生み出し
慣れてくると恋は消え失せる
翼を持つ少年「恋」は
結局、少年むきのものさ―

「『恋』がいつまでも」抜粋

追放が生んだ「マンフレッド」

イギリスを離れたバイロンはスイスへ。各地を巡遊するなかでインスピレーションを受けたバイロンは、アルプス山脈を舞台とした『マンフレッド』を書き上げます。

精霊を召喚できる超人的な人物・マンフレッド。彼が忘却を求めて自我と向き合い、死に至るまでのその葛藤が描かれます。

マンフレッドがどんな名誉や欲望よりも自己忘却を願うのは、愛しい女性を自分の責任で亡くした記憶を持つため。

その女性・アスターティは自分とそっくりの美人という設定。これはまさにイギリス追放の直接原因となった異母姉オーガスタがモデルにほかなりません。

逆説的にいえばイギリスでの出来事がなければ「マンフレッド」は生み出されていなかったともいえますし、シューマンが感動して泣くことも、チャイコフスキーふくめて作品に昇華されなかったかもしれません。

ちなみに本書には「オーガスタに寄す」と題する作品も収録されています。熱烈なラブレターというわけでなく、オーガスタがバイロンにとって心の支えであった本音が綴られています。

マンフレッドを読んでから再読すると、ちがう景色が広がります。

というわけで以上です!


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