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つくり手と読書をつなぐお約束ゴトを知る!『ギガタウン 漫符図譜』(こうの史代)

「ガーン」と表情を曇らせると顔に斜めに線が数本入るし、駆け回るように走れば下半身はグルグルする。そして何かにぶつかれば頭上に星が生まれて「ピヨピヨ」となぜか音がする。

なんとなくイメージが湧くけれど、これっていつの間に浸透したのか?

本書は漫画特有の表現記号である漫符に着目した、本邦初(おそらく)の漫符事典。

伝え方にも工夫が凝らされていて、各漫符をテーマに4コマ漫画が描かれる。しかもモチーフは日本の漫画の原点ともいえる鳥獣人物戯画!粋な演出です。

著者は『この世界の片隅に』のこうの史代氏。的確に表現するそのタッチは温かく、どのページから読んでも楽しいつくりになっています。

ほのぼのした漫画を通じて「こんな表現あるある」とニヤニヤしながら読める一冊。

漫符はお約束ゴト

漫符とは、物語を伝えたい漫画家とそれを楽しむ読者をつなぐお約束ゴトではないか。

誰が決めたわけでもなく、先人たちの表現の蓄積によって共通の暗黙知が生まれる。「シーン」というような独特な擬音表現とセットで漫符も進化してきたのだろう。

たとえば授業中に寝ている生徒を描写したい場面があったとして、机に突っ伏しているだけでは伝わりにくい。

そこで「Z」を重ねて「寝ているってことにしよう」とする。つくり手の意図を読者は「OK!」と承知するわけです。

そうしたコードは略図的原型にも通じていて「寝ているっぽい」表現を知らぬうちにわたしたちは理解している。

犬の鳴き声が「ワンワン」と「バウバウ」など国ごとに異なるように、日本における漫符は独特な略図的原型なのだろうなあ。海外でどれくらい通じるのか気になるぞ。

知の共通基盤としての漫符

「ジョージ・ポットマンの平成史」によれば年々、漫画における汗の量は減っているらしいけれど、「焦っている」記号はいまだ共通な気がします。

目がハートになっていれば自分を見失うほど惚れている様が伝わるし、お金に羽がついていれば散財を意味していると受け取れる。

そうしたお約束ゴトを逆手に取ってぶち壊したのが赤塚不二夫なのかもしれないけれど、どこかなつかしくて古いのは、これら表現がやっぱり先人たちの蓄積の上に成り立っていて古典的価値を持つからなのだろうなあ。

漫画家の発明や工夫の結晶を、別の漫画家が使い始めることで一般化していったのか。そこに読者はどう介在したのか。

100年以上も前、宮武外骨はなぜ人は困ったときに頭をポリポリ掻くのか問題にしました。こうしたふるまいとセットで漫符の歴史プロセスを知りたいと思ったのでした。

というわけで以上です!


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