防災用品を見直してみよう その3…水
災害でライフラインが途絶えたとき、一番困るものって何?
不可欠なものばかりですが、
あえて選ぶとすれば、
私は水です。
あるときは救助活動として、またあるときは調査活動として、
様々な被災地の現場に立った私ですが、必ず用意したものは水でした。
最近では、水の重要性が啓発されていることもあり、備蓄をしているご家庭も多いでしょう。
今回は、どのように水を確保すればいいのかを考えてみたいと思います。
1日に必要な水の量は?
私たちの身体の約60%は、水分が占めていると言われています。
もし水を摂取することができなかったら、
体調を崩すことは容易に想像ができます。
では、どれほど摂取したらいいのでしょうか。
厚生労働省のデータによると、
1日2.5リットルが必要だとのこと。
この図で注意しなければいけないのは、
飲み水での摂取量が1.2リットルとされている点です。
ここだけを見ると、水の備蓄は1日当たり1.2リットルでいいように思えてしまいますが、食事で1.0リットルの水分が摂取されていることを前提にしている点を見逃してはいけません。
日本食は比較的水分が多い食事だと言われています。私たちは意識せずに水分を摂取しているのです。
パン類を主食とする欧米人は、食事からの水分摂取が20~30%というデータがあります。40%に達する日本食とは大きな違いがありますね。
つまり、食事内容に応じて飲み水の必要量が変わってくるのです。
災害時に乾燥した非常食を食べるとしたら、普段より多くの飲み水が必要になってきます。
別の視点から考えてみましょう。
炊飯や汁物をつくるには水が必要です。
災害時も普段に近い食事をしようとした場合、調理用の水も確保する必要があるのです。
こうした点を総合的に考えて「1日当たり3リットル」が推奨されています。
何日分が必要?
ライフラインの復旧状況によって水の必要量が変わってくるのですが…。
このグラフを見ると、10日経っても半数以上が復旧していないということになります。
安心するには1箇月分以上が必要ですが、
そんな備蓄スペースは、普通の家庭では無理…。
ならば、潔く諦めよう――なんて思わないでください。
1箇月分というのは自給自足を前提にした数字。
支援物資が期待出来れば、もっと条件が緩やかに。
一般的に言われている「最低3日分、できれば1週間か10日分」というのは、支援物資をどれくらいで手に出来るかを考慮して算出された数字になります。
発災後3日間くらいは、大半の防災機関が、人命救助や被害拡大防止に注力しなければならず、物資調達には手が回らない。だから3日間は何が何でも自給自足しなけらばならない。
1週間くらいすれば物資供給の拠点が形成される。徐々に物資が届くだろうが、大半の世帯に行き渡るには10日以上かかるだろう。
実際にやってみると、10日分を備蓄するのは大変なはずです。水だけでなく様々な必需品もありますから。
いきなり10日ではなく、まず3日分を備えてみてはいかがでしょうか。
それができたら、置き場所の工夫などして、7日分、10日分と増やしていきましょう。
効率的な備蓄方法
「備蓄」というと長期保存可能な飲料水を保存しておく方法が思い浮かびます。確かに大規模なマンションでは、この方法で倉庫保存されているケースが多いようです。
一度購入して置けば、管理が楽なように思えますが、長期保存可能とはいえ、いずれは期限が来てしまいます。ついつい忘れがちになり、いざというとき期限切れというケースも多いはず。(期限切れだからと言って必ずしも使用不可とは言えませんが)
そこで、一般家庭にお勧めなのは、ローリングストック方式です。
ここ数年、いろいろなメディアで紹介されているので、耳にされた方も多いでしょう。
「非常時専用」にこだわらず、普段使うものを多めにストックし、災害時に有効活用するという方法です。
ただし、普段からペットボトルの水を多用する家庭なら問題ないのですが、水道水を主に使う場合は、馴染みにくいかもしれません。
とはいえ、災害時を考えると、平時の習慣も見直す必要があります。
実際、我が家では、ローリングストックと言いながら、ペットボトルの水を使う習慣がなかったため、期限切れが多発。
そこで、お茶やコーヒーなどを淹れる際に使用したり、水をそのまま飲んだりするなど、少し生活習慣を変えただけで、無理なくローリングストックが回るようになってきました。
浄水器を使うと?
アウトドア用や防災用として、様々な浄水器が販売されています。
雨水、井戸水、川の水などをろ過して飲み水として使用できるとのこと。
一般的な特徴として、
フィルターの種類により除去できる物質が異なる
高性能なものは高額でメンテナンスも必要
汚染物質によっては除去できない場合もある
しかし、災害時は、地下水や川の水も普段とは異なります。上流の状況次第では除去できない物質が含まれていることも危惧されます。
こうした点から、浄水器を飲料の主力にするのはお勧めできません。あくまでも最終手段と考えるべきでしょう。
水道水を溜めておけば?
ペットボトルの水を買わずに、水道水を溜めておけばいいのでは、という声も聞かれます。
実際、水道管の途中にタンクを取り付けて備蓄できる設備も存在します。
次の図のように常に水が循環しているので、水が腐敗する心配もありません。
この方法では多量の水が確保できるのですが、
断水と同時に残留塩素が低下していき、数日するとそのままでは飲料水として使用できなくなります。
また、タンク内の水を取り出すために空気で圧送するシステムも必要となるため、一般家庭では導入しづらいかもしれませんね。
飲み水だけではない
これまで飲み水を中心に話を進めてきましたが、
私たちに必要な水は、それだけではありません。
入浴、洗濯物、食器洗浄などのほか、
トイレにも水が必要です。
防災用として、それらを代用するアイデアがあるものの、
やはり水があった方がいいですよね…。
「中水」という言葉をご存じでしょうか。
文字通り上水と下水の中間に位置するものです。
下水ほど汚くはないが、上水ほどキレイではない水。
この中水を災害時にどう活用するかで、
被災生活が大きく変わってきます。
具体例として、雨水、井戸水、川の水などです。
トイレにはそのままでも使えそうですし、
それ以外のものでも、前述の浄水器で簡易にろ過すれば十分使用できるでしょう。
普段は上水道だけに依存しがちですが、非常時に中水を利用する方法を考えておいた方がいいでしょう。
外出時にも
自宅にいるときだけを考えておけばいいのでしょうか。
私は、外出時にペットボトルの水(500cc)をバッグに入れておきます。
外出先で被災した場合を想定しているからです。
もちろん、500ccでは足りないかもしれませんが、
ある程度の急場はしのげるでしょう。
私は「清涼飲料水」ではなく「水」にこだわっています。
飲料だけでなく、傷口や汚染物を洗い流したり、
様々な活用ができるからです。
大切なこと
今回ご紹介したのは、
私の経験に基づくものが中心であり、
他にも有効な方法があるでしょう。
ただ、大切な点は共通しているはず。
「生活になじむこと」です。
そうでないと、平常時の生活に無理が生じ、長続きしません。
暮らし方は多様です。それぞれの生活様式にあった方法をアレンジしてみてください。