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涙で感情に気付いたあの日もっと美味しい物を食べなきゃと思った

友:体力残ってたら会いに行く
友:当直が明けた朝にまた連絡する
※友人のこと、これ以降【友】と表記

いつも通り必要最低限の内容が書かれたLINEの文面を見て【寝不足だろうし、私が行くよ】と返信した。しかし一分以内に返ってきた友からのメッセージには【久しぶりに電車に乗りたいから】と書いてあった。

相変わらず嘘が下手だなと思う。寝不足でふらふらなのに電車を楽しむ余裕なんてないだろうに。それでも私は彼女の不器用な優しさに甘えることにした。

友【駅着いた】
友【駅ビル内で迷子】
友【今横断歩道。ちくわ発見】
友【変顔するから見てて】

私の姿を見つけてからも目の前に来るまでLINEの一人実況は続く。横断歩道の反対側で待っている私を笑わせようと渾身の変顔を次々に披露しながら渡ってくる友は周りの視線を集めまくっている。それも含めて面白いと分かってるのがズルい。まんまと大笑いしてしまう。

「寝れた?大丈夫?」
「急なオペ入ったけど四時間くらい寝れたから大丈夫」

オペ室看護師の当直時の仮眠として四時間が普段と比べて多いのか少ないのか私には全く見当がつかない。いや、普段と比べてとか関係なく眠いだろうな。そう改めて思って「来てくれてありがとう」と言うと「ランチには早いから、とりあえずファミレスでも入ろ」と、私の言ったことが聞こえたのか分からない言葉が返ってきた。

平日だというのに駅前のサイゼリヤは朝から賑わっていた。若者が多い。ドリンクバーを二人分頼むと「三杯はおかわりして元を取ろう」彼女はそう意気込んで立ち上がった。

ここのグラスを見ると、いつもマヨネーズの袋を思い出す。私だけだろうか?そんなことをぼーっと考えていたら「えっ!ちょっと待って、水の部分しか出てこないんだけど」と友が叫んだ。指差すほうへ視線をやると野菜ジュースのボタンを押したはずなのに、いつもなら二方向から勢いよく出てくる液体が透明の一筋しか出ていない。結局ただの水が完成して二人してカラカラ笑う。

席についてから近況を報告し合った。互いの子どもの成長、仕事、最近出かけた場所、実家の家族のこと。

昔から知っている気を許せる数少ない友達。彼女といると、自分を大きく見せる必要など何もなくて本音も弱音も愚痴もフルオープンになる。

「最近は書けてるの?」グラスを口に運びながら友が私にそう聞いて「あー。うん、書けてる……と思う」と曖昧に返事しながら気付けば瞼から涙が溢れていて、自分で驚いた。

「え?何?なんかあった?」
「いや、ホッとしたんだと思う。あと、友はやっぱりすごいなと思って」
質問の答えになっているかは到底分からない。でも、それが本音だった。

この日はnote創作大賞の中間発表翌日。結果を残せなかった自分には友が物凄く眩しく見えた。

note創作大賞に応募したこと、他の応募者の作品を読んで自信を無くしたこと、自分の作品は中間選考に残らなかったこと、受賞したい気持ちがあること、結果が出るか分からない未来に時間を使って良いのかと考えてしまうこと。それらを彼女に一気に話した。

中間に残らなくても、精一杯頑張ったからスッキリしたと思っていた。でも違った。無理やり思おうとしてたのかもしれない。本当は悔しかった。私は、ちゃんと悔しかったんだ。涙がこぼれて初めて自分の感情を知った。

幼馴染の前でホッとして自分の奥に潜んでいた気持ちに気付くなんて厄介だ。「ごめん」と謝ると「今日でスッパリ書くの辞めたら?」と鋭い一言が返ってきた。

「それは嫌」
「なんで?」

私の言葉を待たずに「今、頭に浮かんだことが全てだよ」と彼女は優しく笑った。

「よし!!今の私たちに足りないのは美味しい物を食べることだ」ワントーン明るい口調で友は言って鞄からスマホを出すと【人気店 肉 〇〇駅前】と猛スピードで検索し始めた。

「ある。ここから五分のとこに。しかもめちゃくちゃ美味しそう」口コミには高級そうな肉の写真と高評価の星が並んでいた。夜はなかなかの値段だがランチは、お値打ちに提供しているらしい。彼女はテキパキと焼肉屋に電話して、あと二席空いていると私に告げた。急いで会計を済ましてダッシュする。

しかし、アラフォーの猛ダッシュも虚しく「すみません。たった今満席になってしまって。一時間ほどお待ち頂きます」と入り口で告げられた。目の前で毛並みの良い牛の背中が遠ざかって行くのが見えた。

それでも、あの日。私たちは貪欲だった。「落ち込んでいる暇はない」【人気店 〇〇駅前 ランチ】と再検索し、次は魚自慢の店がヒットした。

到着するなり魅力的なメニュー表が私たちを迎える。そして数分後には新鮮な青魚の刺身に舌鼓を打っていた。ふと、目の前で友が美味しそうに鯵を食べる姿を見て気付く。

「あれ?お刺身苦手じゃなかった?」
「克服したんだよね」
「あんこは?」
「あんこも好きになった」
「炭酸は?」
「炭酸も見事にクリア」

「のびしろだねぇ~」二人してニヤけた顔で乾杯する。“カン”と響く音に続いて「一年後に牛肉リベンジだな」と友は言った。「また創作大賞の話聞かせてよ」と。

書きたい。
書き続けたいと思った。
今日みたいな愛おしい日を。

とにかく美味しい物を食べよう。大好きな家族や友達と。日々を愛おしみながら、そして必死に。それを私は丁寧に言葉にしたい。その為にひたむきに努力して表現を磨く。そして何より創作を楽しむ。

そんな毎日を積み重ねながら、その結果何かを掴めたのなら、こんなに嬉しいことはない。

来年の今頃、牛肉を食べながら友と話す日を私はまたこのnoteに綴るだろう。この記事を書いている今の自分に胸を張れるように。迷った時はこの記事にときどき力をもらいながら。

歳を重ねるごとに美味いと感じる青魚


追記:ちなみに友はコチラの記事で登場した小三で出来た友達です。


たおたおさんの企画「創作大賞2025年に向けて」に参加させて頂きました。

ここからの一年、迷った時にはこの記事に返ってくると思います。今この瞬間の自分の気持ちに向き合う機会を下さった、たおたおさんにとても感謝しています。ありがとうございました。

【さいごに】
1ヶ月ほどnoteをお休みしていましたが本日11月1日よりnote再開したいと思います。以前のように基本的には火金で記事を投稿する予定です。

皆様の記事を読み、改めて皆様とコメントでやりとりができるのを楽しみにしています。お休み前に「待っているね」とコメント下さった方、記事を読んで下さった方、本当に嬉しかったです。
今後ともよろしくお願い致します。

青空ちくわ

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