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風になりたい、風になれないわたし

わが社は一年を二分し、半期ごとに従業員の働きぶりを評価し、評価に応じ給与が決定される。

毎期末には、半期で一番活躍した人物を表彰するというちょっとしたイベントがある。
私は前期、ここで表彰をされた。
もちろん認められ褒められるのは普通に嬉しく、副賞である寸志も雀の涙ではあるがちょっと嬉しかった。
え?昇給幅?何それ聞こえなーい(子どもの小遣い程度)

で、今期である。
先日今期の表彰があり、今回私はノミネートすらされなかった。
当然である。
ぶっちゃけてしまうと、私は今期「頑張りすぎない」をモットーに働いたのだから。

私は気を抜くとすぐに頑張りすぎてしまうタイプの人間で、気が付くと常にがっちがちに肩に力が入って呼吸が浅くなっている。

半期を全力疾走で駆け抜けると、ゴール直後の爽快感たるやすさまじいものがある。この爽快感、高揚感、全能感は私のような人間を病みつきにする効能があるように思える。

この一瞬の感覚を味わうためだけに半期、老体に鞭を打って働いたのだとさえ思う。

ただこの強すぎる高揚感は悲しいほどに一瞬で消え去り、次にやってくるのは虚脱感である。
簡単に言うと、燃え尽き症候群である。
よくあるパターンにきっちり乗っかる律儀な私。

もう一歩も動けない、何も考えたくない。
灰になった私が十分に心身の回復をする間もなく、カレンダーの数字が翌月1日になった瞬間に会社は朗々と告げる。

新しい半期が始まりました!!
さあさあ皆さんスタートラインに立って、ゴールまで駆け抜けましょう!!

終わりの無いこの繰り返しに、いつしか心身ともに疲弊していることに気付く。
期初の気の重さたるや。

それで、前期の表彰後、今期は頑張りすぎないという裏目標を設定し過ごしてみた結果、当然のことながら今期の表彰を逃した。
するとどうだろう。

頭では「受賞しないのは当然だ」と理解しているのに、なんだかもやもやするしテンションも落ちるのだ。
人間って、いや私ってなんて面倒な生き物なのだろう。

自分でそれを選択したくせにちょっと落ち込む。

しかし良いこともあった。

燃え尽きていないため、期初を迎えるにあたりあまり気が重くない。ニュートラルな状態で期初に対峙できたのは頑張りすぎなかった効能だと言えよう。

正直に言うと昔から私は人に認められたい、価値ある人間だと思われたいという気持ちが強い。多分、私のような人って結構いると思う。
会社という小さな世界で生きていると、いつの間にか会社が世界の全てになってしまう。
会社での評価がそのまま自分という人間への評価だとつい思い違いしてしまいそうになる。

当たり前のようにスタートラインに立たされ、他人と競わせられることで、負けず嫌いな私はついつい心身を酷使し頑張ってしまう。少々の不調は見ないふりして。
その結果、ほとんど残っていない余力だけで仕事以外の日常を回そうとする。

あれ?私にとってより大切にしたかったものはどっちだったんだっけ?
家族と過ごす、子供と過ごす、自分の趣味に費やす日常は、疲れすぎないように、仕事に差しさわりが出ない程度に加減して省エネでやりくりすべきものだっただろうか。

近年、「やりがい搾取」などという言葉が市民権を得てきたが、企業というものは本当に上手く人を使うものだと感心してしまう。
一列に並ばされ、「よおい、ドン!!」など言われるとつい「負けたくない」「勝って褒められたい」「最後尾だけは嫌だ」と思い私は走り出す。

一度走り出したらゴールテープを切るまでは止まれない。

でもちょっと待ってくれ。
一度走り出したら本当にもう止まることは出来ないんだっけ?
そもそもそのレース、私が望んで出場したものだっけ。

ゴールした達成感は確かにあるし、褒められるのはいつだって嬉しい。
でも、その気持ちに付け込まれていないだろうか。

なんだか家畜のレースみたいだな。

強い高揚感から醒めた後、胸に残るざらりとした感触は、もしかしたら、他人の思惑に乗せられてしまった敗北感ややるせなさを自分自身がうっすらと感じ取ってしまっているからかもしれない。

いやいや、仕事ってそういうものでしょう?
それが嫌なら自分で起業するなり、自営するなりしないとね。
そう言われたら「甘ちゃん言ってすんませんっ!」と言って謝るしかないし、こういうことを考えちゃう人間が企業側にとっては大変面倒なものであるということも分かっている。

一従業員として、給料をもらっている以上、これからも及第点は出し続けようとは思っている。

ただ、やはり、自分の人生は自分でハンドリングするのだという当たり前の決意を折に触れ新たにしなければならない気がする。
人生には心身削って仕事に打ち込むことが必要な時期もあるし、多少おざなりにして「遊ぶ」を優先したほうがいいタイミングだってある。

仕事での評価はイコール自分という人間、自分の生き方、自分の人生への評価ではないという至極当たり前のことをいつも忘れないでいたい。

成果を出して認められたいと力んで心も体も固くして生きるのではなく、風のように軽やかに自由に生きたいといつだって心から望んでいるのに、風になるのは本当に本当に難しい。




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たいたい
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