新聞整理のオキテ④~続続・見出しとは
日々、みなさんのお手元に届く紙面。毎日、別の記事が各紙面を飾ることで、それぞれの面でニュースの格付け判断が行われ、紙面編集のルールに沿い、見出しの工夫や紙面のアレンジなどが施されて、その日一度きりの紙面が作られていきます。この欄では、紙面編集にまつわる約束事や禁じ手などを通じて、読者のみなさんに新聞紙面に親しんでもらいたいと思っています。
前回の記事はこちら
見出し編・その2
この稿もはやくも4回目。始まったのが、京都新聞noteリニューアル後の今月からですから、11月だけで4回も新聞整理についてお話していることになります。よくもまぁ、そんなに書けるもんだと個人的には思うのですが、まだまだお伝えしたいことの半分も書けていないのが実情です。体力勝負で頑張ってまいりましょう。
余談が過ぎました。今回も見出し編を続けます。まずは、下の画像をご覧ください。
和歌山県で「かつて陸上生活をしていたころの名残りとみられるヒレを持ったイルカが見つかった」という記事です。見出しはズバリ「イルカ、なごり足」。説明不要でしょう。シンガーソングライターのイルカさんが歌ったヒット曲「なごり雪」に引っ掛けた見出しです。前回の阿久悠さんの歌のタイトルで埋めた紙面もそうですが、国民的ヒット曲は読者のみなさんへの共感を呼びやすいのでしょう。そういう意味では、全世代に響くヒット曲が生まれにくい昨今では、なかなか難しいかもしれませんね。
生き物系は見出しにしやすい
上記のイルカもそうですが、生き物系は見出しに遊びの要素を入れやすくなる傾向があるようですね。その理由としては、生き物なら多少、遊びの要素を入れたとしてもハレーションを呼びにくいからなのでしょう。なんといっても、報じられた生き物たちが、怒ってくることがおそらくないでしょうから。というわけで、下の画像。
もう、見たまんまですね。メイン見出しの「イカ検定イカが?」だけでなく、2番手の見出しも「合格でイカした特典」とかぶせています。おそらく、担当の記者は、メイン見出しだけではあまりおもしろいと思えなかったのでしょう。もうひとつ、「イカ」を見出しに取ることで、読者のみなさんを引き付けることにチャレンジしています。
生き物系、つづいてまいりましょう。下の画像です。
モリアオガエルの産卵は、その奇妙な泡のような卵塊と枝にすがるカエルの様子が興味を引くことから、いわゆる季節ものの「スケッチ」(写真で見せる記事)となることがあります。そうした記事には、「この写真はなんだろう」と読者の皆さんに思ってもらい、読んでもらうという意図を込めた見出しを付けることがあります。上の記事では、卵を「命の泡」と表現し、複数のモリアオガエルが集っているのを、「みんなでモリモリ」としています。本来なら「モリアオガエル、産卵ピーク」みたいな見出しが「教科書どおり」なのかもしれませんが、そうしたルールを逸脱させることで、興味をひきつける試みです。
七五調 眠る感性 呼び起こす
上記のスケッチ記事では、いわゆる花鳥風月が題材となることが多くあります。「サクラ満開」「紅葉見ごろ」「十五夜の満月くっきり」のような写真メインの記事をご覧になったことはあるかもしれません。かつては、そうした記事の見出しを五・七・五の17文字で、一句詠んでしまうベテランの記者がいたりしました。最近は、あまり見かけません。まぁ、流行みたいなものもあるのでしょう。というわけで、これ。
毎年、おなじみの「サラリーマン川柳」の人気投票結果を紹介した記事です。ご覧のとおり、見出しが五・七・五になっています。日本人は、五・七・五で文字が並んでいると、自然に「俳句か川柳か標語かな」と認識できるようになっているため、こういう試みが成立するのですね。なお、この見出しの川柳の出来栄えについては「上手とか 判断できる 素質ない」ので、筆者からの論評は控えます。
評価が分かれる傑作も
最後にご紹介するのは、下の画像の見出しになります。毎年、1月に地元の児童や男性たちが、下帯姿で五穀豊穣を祈念するお祭りなのですが、なんたって1月、むちゃくちゃ寒そうなのです。そのため、担当記者は祭りの掛け声「頂礼(ちょうらい)」を、「福ちょうだい」と「服ちょうだい」のふたつの意味にひっかけています。これ個人的には、素晴らしい見出しだなぁと思うのですが、一方で「神事や伝統行事にこうした見出しをつけるのはいかがなものか」という、意見もありました。みなさんは、どのようにお感じでしょうか。
というわけで、2回に分けてさまざまな見出しをご紹介してみました。記者のセンスがにじみ出るような見出し、みなさんも、日々のお手元に届く紙面でも探してみてください。さて、次回からは再び、紙面での約束事などについてご説明していこうと思います。それではまた、次回。
京都新聞note編集部