新聞整理のオキテ③~続・見出しとは
見出し編その2
日々、みなさんのお手元に届く紙面。毎日、別の記事が各紙面を飾ることで、それぞれの面でニュースの格付け判断が行われ、紙面編集のルールに沿い、見出しの工夫や紙面のアレンジなどが施されて、その日一度きりの紙面が作られていきます。この欄では、紙面編集にまつわる約束事や禁じ手などを通じて、読者のみなさんに新聞紙面に親しんでもらいたいと思っています。
第2回はこちら
見出しは事実だけのもの?
さて、第3回となりましたこの稿ですが、少しルールや禁じ手といった分かりにくい話から離れてみたいと思います。今回のテーマはズバリ、「見出しはニュースの内容を即断的に伝えているのか」というものです。前回を読まれた方は「ニュースを分かりやすく伝えるために字数を削ってでも、伝えているのだろう」とお感じかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。それでは、以下は京都新聞のスポーツ面の見出しを例に解説していきましょう。
「決まっていた」見出し
上の画像をご覧ください。2013年9月23日付の京都新聞朝刊スポーツ面です。読売ジャイアンツが、プロ野球セ・リーグのリーグ優勝を決めたことを伝えています。夏以降、首位を譲ることなく圧倒的な強さで独走し、優勝を決めたことを「進撃の巨人」と表現しています。もちろん、このたとえはこの年に大ヒットした漫画・アニメの「進撃の巨人」から取っています。
この面を編集した記者(巨人ファン)は「自分が担当の際に優勝を決めたら、この見出しにしようと決めていた」と話していました。この年のセ・リーグは巨人の優勝はほぼ決まりで、あとはいつ決めるかという状況でした。京都新聞の場合、面の編集者は毎日、ローテーションで変わることになっていますので、この記者は虎視眈々(こしたんたん)と狙いを定めながら、自分の担当日に巨人が優勝することを願っていたのでしょう。
「記事に書いていない」のに見出し
次は上の写真。これは2008年北京五輪の紙面です。男子ハンマー投げの室伏が5位に終わったことを伝えている紙面ですが、主見出しの「求道者に悔いはない」という文言。記事には、実は「求道者」とも「悔いはない」とも書かれていません。これは記事の内容とハンマーを投げる室伏の後ろ姿から、面の担当者がイメージを膨らませてつけた見出しとなります。
今から思うと、室伏選手に聞いたわけでもないのに「悔いはない」は飛躍し過ぎではないのかとも思いますが、でもまぁ、読者のみなさんにも納得してもらえるものではないかなぁとは考えました。あ、ちなみにこの見出しは、筆者によるものです。
「これしかないやろ!」という見出し
3つめは上の画像。もう20年以上前の紙面となります。データベースにある画像がモノクロです。今年のプロ野球日本シリーズの覇者となったオリックスバファローズの前身、近鉄バファローズがパ・リーグの優勝を劇的サヨナラ弾で決めた内容ですが、もうこれは紙面を横でぶち抜いている「白字黒ベタ」(白い字で背景が真っ黒)の見出しが全てです。
9回裏満塁の場面で代打に指名された近鉄・北川が、逆転サヨナラ満塁ホームランを放ち、優勝を決めたという状況です。ちなみに対戦相手はオリックスブルーウェーブ。当時、ろくに仕事もできないのに必死に紙面を作っていた筆者は、スポーツ面を編集している現場から響いた絶叫を聞きつけ、走っていきました。そこで目にしたのが、テレビから流れるこの場面のリプレーでした。
面の担当者は筋金入りの近鉄ファン。席を立ちあがって大興奮しながら、「これしかない、これしかない!」と見出しを手元の紙に書き殴っていたのを思い出します。ちなみに、近鉄はここまで12球団で唯一、日本シリーズで優勝経験のないチームだったのですが、この年も日本一はかないませんでした。「バファローズ」が初めて日本一となったのは、今年の10月と記憶に新しいところです。なお、この面の担当者は現在の、ニュース編集部長。時代は巡りますね。
傑作といえばコレってやつ
最後は、下の画像をご覧ください。2007年8月2日の朝刊スポーツ面です。この日、朝刊1面には昭和を代表する作詞家・阿久悠さんの訃報が掲載されていました。それを受けてのスポーツ面。たとえば投手・下柳の独り相撲で敗れた阪神は「勝手にしやがれ」、プロ初完封の投手には「熱き心に」、猛攻の巨人打線には「どうにもとまらない」と、阿久さんのヒット曲が見出しに取られています。それが見事にピタリとはまり、無理が生じていません。
断言します。こんな紙面、作ろうと思って、できるものではありません。阿久さんの曲を、読者の皆さんとすべて共有できなければ意味がありませんし、しかも試合内容と合致しないといけません。稀代のヒットメーカーが最後に編集者に残してくれたプレゼントのような気がします。ちなみに、高校野球の記事には「君よ8月に熱くなれ」の見出し付き。芸が細かい。
こんな風に、いろんなアイデアを尽くしながら記者たちは見出しをひねり出しています。スポーツ面はほかの紙面と比べて、記者の思いやアイデアが反映されやすくなっています。シビアな事件や政治・経済の記事に、あまりくだけた見出しをつけては、読者のみなさんに誤解を与えかねないので、事実を伝えるべきところは事実を伝えることに徹しているのです。とはいえ、そればかりでもありません。次回は、スポーツ面以外でのいろんな見出しを見てみることにしましょう。ではでは、また次回です。
京都新聞note編集部