
『ブッシュマンの民話』まえがきのまえがき|想像しかねる遙かにある世界で...【新人読書日記/毎日20頁を】(15)
「ブッシュマンの民話」、まえがき、読了です。
著者の田中二郎先生は25歳から半世紀をわたり、100%自然にのみ依存した生活を送っている狩猟採集民ブッシュマンの住むカラハリ砂漠へ通い、調査を行ってきました。80〜90年代にテープレコーダーで録音した現地の人の語った民話(神話、寓話、怪談など)を日本語に翻訳し、この1冊になりました。
お話の中に登場する動物や植物、神様まで、絶えず人間の姿になり、人と同じように振る舞うという、著者の紹介文を読むと頭の中にすごく不思議なシーンが浮かんできます。
近代化によって、ブッシュマンの生き方もかつてより激変しました。食料を探すため、移動し続けなければならない狩猟採集民も、政府からの救済を受け、定住化しつつあります。音声で記録された民話は変化していくブッシュマンの歴史の貴重な一部でもあり、著者田中先生自身が現地で調査を行った頃の思い出でもあるでしょう。
次回から本文に入ります。
お楽しみに。
田中先生のアフリカ探検物語も面白いですよ。
半世紀の見聞をこの1冊に!
1960年代以降,日本は,アフリカを舞台にした霊長類学と生態人類学において特異な業績を挙げ注目された。その最初期,未だ戦後復興期の日本から,アフリカの最も奥地カラハリ砂漠の真ん中に赴いたのが,田中二郎である。太古以来の狩猟採集生活を送るブッシュマンに密着し,実は植物に強く依存するその生活の実態を明らかにし,子育てや労働と遊びなど,新しい狩猟採集像を示し世界を驚かせた。一方で,遊牧民,農耕民,霊長類研究へと,アフリカ研究の拡大を組織し,国家による近代化政策の中で急速に変貌する伝統社会の問題を鋭くレポートしてきた。
その半世紀におよぶ成果を,400枚以上のカラー写真とユーモア溢れる文章で纏め上げたのが本書である。社会変貌の中で,今は全く見られなくなった狩りや物質文化,伝統社会と近代のせめぎ合い,道も無いブッシュでのサバイバル・ドライブの技術等々,多くのコラムも配置し貴重なデータを提供する。
田中二郎(たなか じろう)
1941年京都生まれ。京都大学理学部卒業。東京大学大学院社会学研究科博士課程中退。理学博士。京都大学霊長類研究所助教授、弘前大学人文学部教授、京都大学アフリカ地域研究センター、アジア・アフリカ地域研究研究科教授を歴任。京都大学名誉教授。
専門は人類学、アフリカ地域研究。狩猟採集民ブッシュマン、ムブティ・ピグミー、遊牧民レンディーレ、ポコットなどを対象とした生態人類学的研究をおこなってきた。主な著書に『ブッシュマン、永遠に。——変容を迫られるアフリカの狩猟採集民』(昭和堂、2008年)、『アフリカ文化探検——半世紀の歴史から未来へ』(京都大学学術出版会、2017年)などがある。