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世間にとっての「普通」とは?

今回は本紹介。

芥川賞受賞作である『コンビニ人間』という本だ。

この本は、18か国語に翻訳されており、ページ数も160ページほどで、読書初心者の方でも読みやすいと思う。インターネットで本のタイトルを調べると、色んな方々があらすじの紹介をされている。

主人公について


この本に出てくる主人公は、36歳の独身女性。仕事にも就いていない。というか、就くことができていない。幼少期のエピソードも書かれているが、幼いころから、世間から「なんで?」と思われるような言動をしていたようだ。自分では当たり前だと思っていた。しかし周りからは、警戒・疎外される。「異端児扱い」という言葉が似つかわしいのかもしれない。

転機の訪れ


そのような主人公が、コンビニエンスストア(以後コンビニ)でアルバイトを始める。このコンビニでは、マニュアル化された仕事内容をこなしていけばよい。

制服を着る。身だしなみをきちんと整える。挨拶をする。商品を陳列する。誰が店員になっても同程度の内容ができるようにする。

それがマニュアルというもの。これが、主人公にとっては願ってもない好都合のことだった。それを表している1節がある。

・・私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。

『コンビニ人間』より一部抜粋

今までのけ者扱いされていた主人公にとって、自分という存在を認められた空間は、言葉では表しがたいほど優越感に浸れるものだったのだろう。

恋人との出会い


そんなある日。主人公はある男性とコンビニで出会う。この後、よくあるようなハネムーンのシーンはない。その男性もアルバイトを始めるが、働く態度がすこぶる悪い。従業員からの評判も悪く、最終的には辞めさせられた。その後、たまたまコンビニの外で主人公と男性が出会い、「他人に干渉されたくない」という利害関係のもと、同棲することになる。

心身はずっとあの場所


主人公は、出会った男性をきっかけに再就職することを決断する。コンビニを辞めた、就職面接までこぎつけた。しかし、面接直前に立ち寄ったコンビニで主人公の心は揺れ動く。コンビニの働き方、生き方に主人公はどっぷり浸かっていたのだ。主人公にとっての聖地はコンビニだった。最後、就職面接に断りの電話を入れ、コンビニに向かって歩みを進めたのだ。

世間にとっての普通とは?


さて、私はこの本を数回読んだが、読むたびに考えさせられるテーマがある。それは「普通」というキーワードについてである。
「いい加減、普通の生き方をしてよ。」「世間の普通ってのはね。。。」そのようなセリフがたびたび登場する。
世間一般では「普通」の常識として次のようなステレオタイプがはびこっているかもしれない。
・大学まで学業をした後、男性は会社に就く。そして生計を立てる。女性は家庭を支える。
・30代半ばにもなって、アルバイトで生計を立てているようではおしまい。

この本は、そのようなステレオタイプに対してメスを入れている。主人公は、世間一般の「普通」の生き方ではない。しかし当本人は、コンビニで過ごす時間を求めていて、満足している。自分らしく過ごせる環境だからだ。

多様性という言葉


また、私たちはよく多様性という言葉を聞く。「1人1人を個として受け止める」「いろんな生き方がある」と言われるようになった世の中では、「多様性」は現代社会にぴったりとあてはまる。しかし、この物語で語られているように、人はどこかで「多様性」といった外向きではなく、「普通に」という内向きにベクトルを向けているのではないかと感じる。きっと心のどこかで「安定」「計画的」といった固定観念、圧力があるのだろう。世間一般の常識を疑ってみる。そんな疑似体験ができるのも読書の魅力であると感じる。

まとめ


この本は、「普通」とは何かを問う少し変わり種な小説である。話自体も分かりやすいし、すぐに読み終えることができる。更に、世間一般の常識に向けてメスを入れている内容もあり、読んだ後は非常にいろんなことを考えされてくれる作品でもある。ぜひ手に取って読んでみてほしい。では。


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