見出し画像

読書日記 2023年10月・文学フリマ大阪11で買った本の感想①

9月の文学フリマ大阪11で買った本たち。
少しずつ読んでいます。
すべてではありませんが、感想を書いておこうかなと思います。
まずは小説系から。

『稲麻竹葦』第九号 「妃たちの壬申の乱」

「稲麻竹葦」表紙は瀬田の唐橋

古代の歴史を扱っているこちらの同人誌、第九号のテーマは壬申の乱。
特に印象に残ったのは、小説「影に見えつつ忘らえぬかも~倭姫王」(芦原瑞祥さん)でした。
天智天皇の正妃・倭姫王(やまとひめのおおきみ)が主人公。
実はこの方、(私にとっては)とても印象が薄くて。
里中満智子さんの漫画『天上の虹~持統天皇物語~』を愛読していたのですが、その作中にもこの方はちらっとしか出てこなかったような。
天智天皇の正妃ではあるけれど、子女はおらず、政治や歌の世界で才能を発揮した、という感じもありません。
この時代、強い個性を放つ女性たちがたくさん揃ってます。
壬申の乱に関係する女性たち、と限ってみても、鸕野讚良皇女(のちの持統天皇)、十市皇女、額田王……などがまず頭に浮かびます。
そういった有名な女性たちではなく、この倭姫王を主人公に?と意外の感を抱きつつ読んでみたら……。
思い切り、泣かされてしまいましたー!
この作品の中で、倭姫王は忍耐強く、怜悧な女性として描かれています。
父・古人大兄皇子を殺した相手に心ならずも娶られることになり、心ひそかに復讐を誓っている。
しかしその相手・葛城王子(中大兄王子。のちの天智天皇)もそれはお見通し。
自分のことを恨んでいるなら「俺の命は貴女にやろう」、ただし「この国にとって俺が必要でなくなるときまで待ってくれ」と告げます。
この時代、まだ国は内外ともに治まらず、葛城王子の政治的力量がなければ立ちゆかないことを倭姫王もわかっている。
今すぐ殺すわけにはいかない。
さらに葛城王子は「貴女に大后(皇后)になってもらうつもりだ」からと、それにふさわしい女性となってもらいたいと帝王学の勉強をさせます。
二人が政治の話を語り合うパートナーとなってゆき、次第に心をも許し合ってゆく過程が読みどころ。
けれど、やがて葛城王子は病に倒れ、不穏の種を残したまま崩御。
倭姫王は後事を託され、壬申の乱においても奔走しますが、大きな歴史の渦の中、葛城王子の遺志を守ることはできず……。
ラストシーンは哀切極まりないものでした。
倭姫王が天智天皇に捧げた挽歌を、これ以上ないくらいに生かしておられる名場面。
印象が薄い、と勝手に決めつけていた(私だけかもしれませんが)倭姫王を主人公に、このようなドラマチックな物語を紡ぎ出した芦原瑞祥さんの手腕に拍手です。

そのほか、紀行文「楽浪の志賀、見れど飽かぬ吉野」も楽しかったです。
吉野は行ってみたいなと思いながら果たせないままの場所。
いつか行くぞ!と気持ちを新たに。
滋賀県のほうは私の実家近辺。
瀬田の唐橋や大津市役所裏の弘文天皇陵、三井寺に近江神宮……どれも懐かしく、馴染み深い場所です。
こうして歴史の舞台としてめぐっておられる文章を読むと、その風景も違って感じられますね。
ちなみに滋賀県民、京都府民や大阪府民に小馬鹿にされちゃった時などに「琵琶湖の水、止めたろか!」と言う……というジョークがありますが。
歴史クラスタはさらに心の中で「滋賀にも、昔は都があったんや! 大津と信楽に!」と思ってたりします。
(大津と信楽のそれは「都」というより「宮」レベルだった、という史実はまあ置いといて)

猿川西瓜さんの評論「十市皇女をめぐって」と小説「フナの腹」も面白く読みました。
十市皇女の突然の死に「高市皇子によってその神聖を穢されるようなことがあったから」という説があることは初めて知り、驚きました。
私は高市皇子の挽歌「山吹の……」がとても好きで、高市皇子から彼女への思いは「叶わないまま終わった美しい初恋」といった風に捉えていたので、正直、「ええ~、そんなぁ」という気持ちもあるのですが(笑)
そういう説もありえるのか……歴史は奥深いですね。
小説「フナの腹」は十市皇女が主人公。
この彼女、キリッとして意志が強く、下々の宴にこそっと紛れ込んでしまう大胆さがあったりして、とても新鮮でした。

いつも読みごたえのある『稲麻竹葦』、次号のテーマは何になるのでしょうか。
楽しみにしています。

『第九会議室』創刊号

「第九会議室」

こちらは大阪文学学校の修了生たちで結成されたサークルとのこと。
私もかつて大阪文学学校に三年間通い、その時のご縁で同人誌『カム』も所属しています。
文校からはいくつも同人誌が生まれていますが、最近ではめずらしいのでは……と応援の意味も込め、創刊号を買わせてもらいました。
9名の作者さんによる16作品が収録されています。

通して読んでみた印象は、「なんだか懐かしい!」
作中に文校の合評の様子が出てくるわけでは全然ないのに、なぜか当時の記憶がよみがえってきてしまいました。
不思議ですね。
小説の長さやテーマ、ジャンルもみんなバラバラ、というごった煮感が、あの教室の熱気を思い起こさせたのかもしれません。

それぞれ個性的な作品が多かったのですが、特に印象に残ったのは2作品です。
下鴨神社の糺の森で、ひとりの女性がかつての夫の思い出をたどる「ひゃくぶんのいち」(本多あにもる)
未来から届くメールにより事故を未然に防ぐ活動をしている警察官たちと、そのメールを送り続けている孤独な男を交互に描いた「神様にでもなったつもりかい?」(筒井透子)
どちらも工夫やたくらみがあるお話で、面白く読みました。

『&YELLOW』(ZUMA文庫・東蒼司さん)

「&YELLOW」

文フリでお隣のブースになったご縁で購入。
(ちなみに拙作『人形参り』をお読みくださり、とても嬉しいご感想をくださいました。ありがとうございます~!)
小さい判型と、鮮やかな色使いのキャラクターの表紙が可愛いです。
タイトルの通り、YELLOW(黄色)が出てくる短編小説が4編。
(と思ったんですが、実は一編はどこに黄色が出てくるかわからなかった……読み込み不足ですみません)

「ジャネケピス」
(タイトルの意味がわからずググりました。こ、こんなのがあるのか……)
「鉄槌、ご愁傷様です」
「カナリア冒険譚」
「ブロンドの彼女と僕の行く末は」

話の内容は4編それぞれ、ヴァラエティに富んでいます。
どの作品もテンポが良く、文章の切れ味が素敵でした。
特に好みだったのは「カナリア冒険譚」。
高校の教室に迷い込んできたカナリアを飼うことになり、生物委員として渋々世話をすることになった主人公。
黄色いカナリアは「しおだれ」と名付けられるんですが、なんで「しおだれ」なのか。忘れられないネーミングセンス。
しばらくお世話をしていたら、このしおだれ、意外と可愛い。
と思い始めたところで、うっかり窓から逃がしてしまい、ほのかに好意を寄せていた女子から「クソ陰キャ」「クソ眼鏡」と罵られるかわいそうな主人公。
そして、その罵倒女子含めてクラスの数名とともに、しおだれ捜索におもむくことになり……。
大きな事件(カナリアの闖入と脱走、事件といえば事件ですが)は起こらないのに、文章力と主人公の妄想力とで、とても楽しい一編に仕上がっていました。

ちなみにZUMA文庫さん、拙作『人形参り』をお読みくださり、大変嬉しいご感想をくださいました。
あらためて、ありがとうございます~!

今日のところはこのあたりで。
その他の文フリ購入本についても、また少しずつ感想を書けたら……と思います。
(了)











いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集