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開幕1年前なのに万博が盛り上がらない「100の理由」/大阪府・大阪市のアンケート調査を読み解いて見えてきた傾向と対策 【開幕1年前企画・第1弾】

2025年大阪・関西万博の開幕まで、あと1年。税金が投入されている開催費用が膨らみ続け、「万博の華」である海外パビリオンは一部の国で開幕までの完成が危ぶまれています。

開幕に向けた気運は盛り上がるどころか、下落の一途。

このnoteでは3回シリーズで、その背景と今後の展開を先読みしていきます。第1弾では大阪府と大阪市によるアンケート調査を振り返り、第2弾では会場デザインプロデューサーであり、あの「リング」を考案した建築家の藤本壮介氏にインタビュー。第3弾では社内のZ世代座談会のもようをご紹介します(連日公開予定!)

さて、大阪府と大阪市は、万博への興味関心がどこにあるのかを探るため、定期的に大規模なアンケート調査を実施しています。

多岐にわたるアンケート項目を細かく追いかけると、「なぜ万博は盛り上がらないのか」という傾向と、「盛り上げるためのヒントはどこにあるのか」という対策が、おぼろげながら見えてきました。

アンケートを実施するための費用も、元をたどれば大阪府民・市民が支払った税金です。アンケートを一緒に読み解くことで、万博の在り方を考えていきましょう。


■ 「行きたい」「どちらかといえば行きたい」は33.8%、開催近づき機運低下?

まずは、昨年12月のアンケートの概要を伝える共同通信の配信記事を見てみましょう。

数字は正直です。万博に「行きたい」「どちらかといえば行きたい」を合わせた人の割合は33.8%にとどまっています。調査を始めた2021年以降、下がり続けており、府市が機運醸成の重点期間と位置付けた2023年10-12月をまたぐ2回の調査では、期間中に開催費用の増加や海外パビリオンの建設遅れなどについてニュースが相次いだことも影響したのか、下落幅はより顕著となっています。

大阪府の吉村洋文知事はよく「万博のコンテンツが明らかになっていない今の段階で、3割もの人が行きたいと言ってくれるのは御の字だ」と強弁しています。しかし、開幕まではあと1年強しかありません。いつまでも「あとは来てのお楽しみ。乞うご期待!」で引き延ばせる状況は、とっくに通り過ぎているのではないでしょうか。3割という数字もそうですが、本来は近づくにつれて高まるはずの機運が下がっている事実は動かせません。

さて、一般的に新聞記事に書かれている内容は、その記事が扱うテーマのエッセンスに過ぎません。新聞紙面には物理的な限りがあるという都合上、記事には入れることができなかった情報がたくさんあります。

■ 6000人アンケート分析は61ページ分

今回の新聞記事の基になったアンケート調査はこちらです。https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/43352/00000000/qa2023-2.cleaned.pdf

PDFで61ページ分もの膨大な情報が詰め込まれています。今回の投稿では、新聞記事では伝えられなかった情報を順を追って拾い上げ、より万博への理解を深めてみようと思います。

6000人の内訳は、大阪府内4000人、府外2000人です。

■ 「万博開催を知っている」88.6%、ライバルの首都圏はスルーか

さっそく具体的なアンケート結果を10ページから見ていきましょう。
万博自体の認知度は大阪府内で91.6%、府外でも82.7%あります。「悪名は無名に勝る」ということわざもあるように、万博関連ニュースが連日報道されるため「大阪で万博が開催されるらしい」ということは、全国的に浸透しています。認知度が最も低いのが人口が多く、大阪がライバル視する首都圏というのが気になるところです。

興味深いのは11ページです。一口に万博と言っても、内容は多岐にわたります。それぞれの項目別に「知っているか」を聞いた結果です。

■ 項目別認知度1位はミャクミャク! プロデューサーの存在感に難あり

ダントツの認知度1位は、公式キャラクター「ミャクミャク」で、88.3%の人が知っていました。大阪府内に限れば90%を超えています。2022年に、3万3千件もの応募の中から命名されたミャクミャク。脈々と受け継がれている歴史や文化、といった意味が込められています。大阪府内では、駅のデジタルサイネージから路上のマンホールまで登場しており、ミャクミャクの姿を見かけずに1日を過ごすことは不可能に近い、というのが住んでいる者の実感です。目にする機会が増えれば、認知度や親近感が上がっていくのは、万博も(恋愛も?)同じなのかも知れません。もちろん、中身が大切なのは万博も(恋愛も?)同じです。

次いで、60%前後の認知度がある項目には、海外・企業パビリオンや会場を取り囲む木造の巨大屋根「リング」、垂直に離着陸できる電動の乗り物「空飛ぶクルマ」などがあります。

いずれも「万博会場に足を運べば見たり触れたり体験できたりするもの」です。海外パビリオンに行けば、飛行機を使わずとも160カ国もの国々の文化、伝統、芸術などのエッセンスが詰まった展示を目の当たりにできそうです。共同通信のnoteでは、海外パビリオンなどの情報を先取りしたマガジンも作成し、随時更新中です。ぜひ下記リンクからご一読下さい。

企業パビリオンは、50年後の未来社会では当たり前になっている技術の最初の第一歩がお披露目されるかも知れません。実際、1970年万博で現在のNTTが展示した「ワイヤレステレホン」は、いまは世界中で使われているスマートフォンの原型でした。

木製リングは、完成すれば世界最大級の木造建築物です。1周2キロ、高さは最大20メートルで、上に登ると会場内や大阪湾が一望できるそうです。もちろん、それが果たして350億円という巨額の整備費用に見合うものかどうかの判断は、実際に見た人に委ねるしかないのかも知れません。今はまだ、知名度の上昇率だけがその存在感の証しです。

2024年2月撮影

空飛ぶクルマは、乗客から料金をもらって乗せる商用運航の実現を目指していますが、機体の安全性を保証する手続きが進んでいない現状があります。このあたりが万博盛り上げの鍵を握ってくるのでしょうか。

万博での商業運航を目指し、2023年3月に大阪城公園で行われた「空飛ぶクルマ」の実証飛行

開幕まで1年を残した今の段階で、興味・関心の大前提となる認識すら進んでいないものもあります。それは、認知度は30.2%にとどまっている、8人のプロデューサーが企画するシグネチャーパビリオン(テーマパビリオン)です。

8人のプロデューサーはこちらの「テーマ事業プロデューサー」です。

いずれも、既にさまざまな業界で活躍していたり、メディアで露出したりしている有名人ばかりですね。それなのに、この8人がそれぞれパビリオンを企画・展示することすら、多くの人が知らないのが現状です。取材をしていても、各パビリオンがどのようなものになるのかはあまり見えてきません。

8人が多忙を極めて準備が進んでいないのか、あっと驚く展示を開幕直前まで出し惜しみしているのかは分かりません。ただ、これだけ価値観が多様化し、娯楽の在り方も人それぞれの時代において、何かに興味関心を持ってもらうためには、戦略的なプロモーションが必要不可欠です。万博に逆風が吹いているからこそ、8人が持つ発信力を惜しみなく投入するべきではないでしょうか。

■ 若者ほど万博を知らない…

12ページのデータはなかなか深刻です。

各種のパビリオンや空飛ぶクルマなど、万博で披露されるさまざまな項目のほとんどで、年齢が高い人ほど認知度が多いという事実です。裏を返せば、若者ほど万博を知らない、という事実です。いつの時代も、流行を作るのは若者です。今回の万博も、テーマに「未来社会」を掲げていますが、その未来社会を形作る若者に振り向いてもらえないのは、なぜでしょうか。今は、疑問を投げかけたまま資料を読み進めることにします。

■ 来場のきっかけになり得るのはやはり空飛ぶクルマや海外パビリオン?

全体として、来場意向度が下がり続けているのは冒頭の記事の通りです。アンケートは、そこから一歩進んで「何が来場のきっかけになり得るか」(27ページ参照)を聞いています。機運醸成の反転攻勢になるヒントが隠れていそうですね。

来場のきっかけになり得る第1位は33.5%の人が挙げた空飛ぶクルマです。電車に乗ると、小さな子どもが先頭車両から見える光景に釘付けになっている様子を時々目にしますね。人間は、遺伝子レベルで乗り物への興味・関心が組み込まれているのかも知れません。空飛ぶクルマも、鳥のように空を舞い、航空機のような空港がなくともビルの屋上ほどのスペースがあれば離着陸し、地上を走るタクシーで遭遇する渋滞も無関係で、数十キロ先まで10分足らずで行けるという絵姿には、とても夢があります。

ただ、万博ではその搭乗券は「プラチナチケット」になりそう。1970年大阪万博では、米国の月探査船アポロが持ち帰った月の石を見るために、何時間も並びました。コスパ(コストパフォーマンス)だけではなくタイパ(タイムパフォーマンス)が重要視される時代に、万博での空飛ぶクルマがどれだけの人を納得させられるかは、心許ないのが正直なところです。

次いで高いのは、26.4%の海外パビリオンです。一つの会場で半年間、160もの国・地域が集まる機会は、そうそうありません。とはいえ、格安航空会社も普及し、海外への距離は昔と比べてずいぶん低くなりました。当然ながら、海外パビリオンに足を運ぶよりも、実際の現地へ行った方がより多くのことを感じられるでしょう。それでも、その奇抜な外観を含めて、海外パビリオンは見るものを「ワクワク」させるポテンシャルを秘めています。

その代表格となる各国が自前で建設する「タイプA」は、複雑なデザインに伴う難工事などが日本の建設業界に敬遠され、一部の国では建設スケジュールが遅れています。建設を間に合わせるために、あの手この手が考えられているようですが、万博の理念やテーマに沿った形の解決が望まれます。

18-29歳では、他の年代とやや異なり、プロデューサーのテーマパビリオン、ジェンダーやSDGs関連、デジタルサービスといった項目の順位が高い傾向があるという分析があることにも留意する必要があります(29ページ参照)。

■ 「なぜ万博をやるのか」熱量のある発信を

アンケートの詳細分析もいよいよ佳境です。人々は、どのような手段で万博についての情報に触れているのかの分析です。

圧倒的なのはテレビです。73.3%もの人が、テレビから万博の情報を得ています。インターネットのニュースサイトや新聞が続きます。

一方で、インスタグラムやX、YouTubeなどは10%前後しかありません。

ここに、「若者が振り向かない万博」の一つの要因があるのではないでしょか。若者が情報を入手する主要ツールであるSNSを通じた情報発信が、圧倒的に不足しているのです。

政治家の中ではかなり強い発信力を持つ吉村知事は、万博に逆風が吹く中、自身のXで万博関連の投稿を繰り返しています。しかし、トレンドを作る若者に、万博は「映える」と思ってもらうのは容易ではありません。

万博の開催意義に見合うコンテンツを提供するのは大前提です。その上で、「なぜ万博をやるのか」について、それを見る人・聞く人を引きつける熱量のある言葉で、多様な情報伝達チャンネルを通じて発信し、若者にリーチすることが必要なのではないでしょうか。

見出しに書いた「100の理由」には足りませんが、そろそろ万博1年前3回連続企画の第1弾を終えようと思います。不足分とそれを解決する答えは、リングを生み出した藤本壮介氏にインタビューした第2弾(6日午前7時更新)と、共同通信大阪支社のZ世代記者が万博にもの申す第3弾(7日午前7時更新)に譲ろうと思います。ぜひご一読下さい。(丸)