金沢発、最終サンダーバードに乗ってみた!(粋な車内放送ご紹介します、音声・文字起こしあり)
『この場を借りて、さようならではなくありがとう北陸線、ありがとうサンダーバード。これからもよろしくお願いしますと伝えさせていただきます…』
静かながらどことなく高揚感のある車内に、車掌のアナウンスが響き渡る。
■ 延びる北陸新幹線
こんにちは。大阪支社経済部の木村遼太郎です。皆さんは北陸新幹線が3月16日に、金沢(石川県金沢市)から敦賀(福井県敦賀市)まで延伸開業したこと、知っていますか?
2015年、北陸新幹線は長野から金沢まで開通しました。東京から金沢に向かう場合、従来は上越新幹線の越後湯沢で乗り換え、金沢まで在来線特急「はくたか」を利用していましたが、新幹線の直通により所要時間を大幅に短縮しました。
そして9年後の2024年3月16日。
これまで、金沢から大阪までは在来線特急「サンダーバード」が直通していましたが、途中の敦賀までを北陸新幹線にバトンタッチしたのです。
■ ラストランに乗りたい!
ここで少し、昔話をさせてください。
2015年に石川県の大学に進学した私は、地元が関西ということもあり、サンダーバードにはとてもお世話になりました。琵琶湖の案内放送にときめきながら金沢に向かった入試前日にはじまり、帰省や旅行、就職活動など、大学時代は常にサンダーバードと共にあったと言えます。
入社後も、同窓会や旅行で利用しました。遠くに白山を望む車窓は、北陸新幹線の高架橋建設が進み、刻一刻と変化していったものです。「最終列車には是が非でも乗りたい」。そう心に刻みながら、2月15日を迎えました。
プッ プッ プッ ポーン…「午前、10時を、お知らせします…」
ッターン…カタカタ…
駅係員が顔をあげ、にやり。「お客さん。座席取れましたよ」
JRではちょうど1か月前の午前10時に指定席切符の発売が開始されます。ですから、ラストランや臨時列車など人気の列車については、多くの鉄道ファンらが切符を求め、駅の窓口に集結する。時報とともに全国の駅係員が機械を操作し、少ない指定席券を争うのです。これが俗に言う「10時打ち」です。「お客さん…」は、私とその前にいた男性客が、最終サンダーバードの切符を手にした瞬間だったというわけです。
■ さらば、金沢
そして、3月15日の午後8時過ぎ。金沢駅はサンダーバードやしらさぎへの乗車や、ラストランを一目見ようと集まった鉄道ファン、新幹線の切符を買い求める乗客らで大混雑していました。
新幹線改札口の前には「新幹線開業まであと1日」と、誇らしげに電光掲示がかがやいています。改札口やみどりの窓口の前には「ありがとう北陸本線」、利用者のメッセージもたくさん掲示してありました。行き先表示板に流れる「特急」の文字、北陸線の案内板、全てが明日、変わる。そう思うと、さみしさがこみあげてきます。
とにかく、乗車するためホームにあがります。入場規制がかかっていましたが、セレモニーの開催される先頭車両付近は恐ろしい人混みで近づけません。
ホームで列車を待つ客と話をしてみました。
大回り(たとえば敦賀から米原まで、通常の北陸本線ルートではなく金沢、東京、名古屋を経由するように、一筆書きできるルートで遠回り乗車すること)乗車が好きだという「乗り鉄」の男子大学生は
「よく北陸本線には乗り、お世話になりました。最速の在来線特急が北陸路から消えてしまうのは名残惜しい」
母親と見送りできて、手作りの旗を振った園児は
「サンダーバードが大好き。さみしい」
一方「仕事でやむなくこの列車に乗るが、まったく切符がとれなくてね」
と苦笑いする男性も…
■ 出発、最後の北陸路へ
いよいよ、金沢発大阪行きのサンダーバード50号が金沢駅に入線しました。後方の指定席車両に乗り込みます。
午後8時47分、セレモニーの出発の合図と共に、列車はゴトリと動き出します。大勢のファンらに「ありがとうー!」と見送られながら出発した列車は、数分間何の放送もなく静かなままです。
どうしたのかな、と思っていると待望の(?)放送が入りました。
直通する最後の特急列車、という言葉をかみしめると同時に、この車掌さんも最後の北陸本線の乗務にどう臨んでいるのだろうと思いながら、アナウンスは続きます。
大学時代、色々な場所に遊びに行ったことを思い出します。隣の席には壮年の男性が座っています。この方も乗り鉄で、関東から訪れたそう。敦賀まで乗車し、明日の新幹線にも乗ると言います。男性は、ビールを飲みながら放送を肴に「うんうん」とうなずいています。そうそう、夜のサンダーバードはビールをカシュッと開ける音がよく聞こえていたものです。
やがて列車は小松駅に到着します。駅には携帯電話やカメラ、タオルを構えた人々が。出発後も放送が続きます。
■ さようなら、ではなくありがとう
今までありがとう。寂しいけれど、これからは北陸新幹線が関西、関東、そして北陸三県の懸け橋となる。うるうるする涙腺を抑えていると、男性客がビールをおごる、と申し出てくれました。頬が緩み、お言葉に甘えて…
「「北陸本線と、北陸新幹線に乾杯!」」
車掌さんが、検札と記念切符の配布でやってきてくれました。
「もう手に力が入らないです」
と笑う車掌さんに切符を示し、パチンと印を押して貰います。そしていただいた記念切符。サンダーバードのマークが入ったおしゃれなデザインです。
福井、敦賀と列車は西進します。どの駅も、見送りのファンがちらほら。駅名表示板も既にハピラインふくいのものに切り替えており、その上からJRのもののステッカーが張っているようです。そして敦賀では、明日の開業の準備でしょう、こうこうとあかりのともった新幹線駅舎が見えます。明日からは大阪や名古屋から来る特急列車は、あの駅舎の1階に入線するのです。
■ 水の都・大阪へ到着
湖西線を抜け、京都、高槻、新大阪と続きます。先行列車の遅れなどでやや遅延していますが、最後の車内放送が入ります。
大阪駅に降り立ち、乗車したサンダーバード号の回送を見送ります。ここでも鉄道ファンが撮影しており、見送りのあとはどこからともなく拍手がわきました。
■ 難易度高めな乗り換え
JR西日本によると、北陸新幹線の延伸により金沢から大阪までの平均所要時間は18分短縮され、2時間24分になります。福井から大阪は3分の短縮で、1時間52分となるということです。
ただ、敦賀では1階の在来線ホームから3階の新幹線ホームまで移動しなければならず、その標準乗り換え時間は8分です。直通していた区間で乗り換えが必須となり、不便さも指摘されます。JR西は抵抗感を減らすため、エスカレーターを多く設置したり床に案内を示したりなどの工夫をし「スムーズな乗り換え」をアピールしています。
金沢から敦賀までのJR北陸本線はその役目を終え、3月16日に第三セクターの「IRいしかわ鉄道」(石川県内)、「ハピラインふくい」(福井県内)に移管されます。これに伴い、この線区を駆け抜けた在来線特急「サンダーバード」「しらさぎ」などは、前日の15日を最後に、姿を消すことになります(2015年の開業時も、特急「はくたか」などが廃止されています)。
特急がなくなる代わり、ハピラインふくいでは普通列車を増発。福井から敦賀の間には快速列車も走らせます。IRいしかわ鉄道も新駅「西松任駅」を開業させるなど、地域に密着した運行や施策が期待されます。
■ 北陸と関西の結びつきはいかに?
自民党などの与党は2017年、福井県の小浜市から京都、松井山手を経由するルートを決定しました。ただ、京都府内を北部から「大深度地下」を通り抜ける計画に「恩恵が少ないのに工費を負担するのはおかしい」「地下水への懸念や工法への不安がある」と、地元では反対の声は根強いまま。私も前任地の京都支局で、市民団体の反対などの取材をしたことがあります。
実現性はいかほどか。このまま京都を縦断するか、湖西ルートか。北陸新幹線の敦賀より西、大阪方面への延伸には大きな壁が立ちふさがります。
思い起こすのは、明治期の鉄道整備です。
1869年、明治政府は京都から神戸間など4路線の鉄道建設を決定しました。そのうちのひとつが敦賀から琵琶湖湖畔です。当時の政府が日本海側と太平洋側の新規ルート開拓を重視していたことが分かります。開通後、北陸と関西は鉄道と琵琶湖の水運で結ばれることになりました。
そして今も変わらず、特に福井県は関西との結びつきが強い地域です。敦賀での乗り換えは、心理的に関西と北陸が離れてしまう要因にならないか…
一刻も早い北陸新幹線の全通で、両地域のさらなる交流活性化につなげたいですね。
木村記者はこんな記事も書いています。