『時をかけるな、恋人たち』の世界観を彩る2つの楽曲
今年、憂鬱な火曜日を楽しく過ごすことができるようになった理由の一つに、あるドラマの存在があった。
それが、火曜日の夜11時から放送されていた『時をかけるな、恋人たち』というSFコメディ作品。
本作では、吉岡里帆さん演じる現代人の廻と、永山瑛太さんが演じる未来人でタイムパトロール隊員でもある翔の時空を超えた、前代未聞の恋愛模様を描いている。
脚本はヨーロッパ企画の上田誠さんが担当しており、これまで多くの森見登美彦作品の映像化を手がけた手腕を遺憾なく発揮していた。
個性豊かな登場人物たちが織りなすストーリーは最後まで波乱の連続で、30分というコンパクトな時間設定も相まって、全11話があっという間に過ぎさっていった。
今回はそんなドラマの世界観を彩る、2つの楽曲にフォーカスして紹介していこうと思う。
OP曲 ドキドキする/PEOPLE1
物語の始まりを告げるオープニング曲を歌うのは
新進気鋭のポップバンド『PEOPLE1』
PEOPLE1は以前、書いたnoteでも余すことなく語っているように、テーマに合わせて変幻自在に歌詞を操ることができる、とんでもないバンド。
そんな彼らが手がけた『ドキドキする』という楽曲は、『時をかけるな、恋人たち』のオープニング曲として、未知の世界に飛び込むワクワク感に胸を躍らせ、瞬間的な切なさが心に響くナンバーとなっている。
冒頭から、誰もが抱える欲望を打ち明けたかと思えば、軽快なテンポで繰り出されるメロディに心が浮き足立っていく。
また、『時をかけるな、恋人たち』では、作品の舞台となる場所の細部にいたるまで、世界観を彩るためのこだわりが詰めこまれている。
実際、拠点となる場所は、最先端の未来像ではなく、少し懐かしくなってしまうようなレトロな秘密基地が再現されていた。
そんなドラマの世界観に対して、「アバンチュール」や「ターンテーブル」など、過去と未来のギャップを感じさせる言葉が歌詞にはちりばめられていて、シュールかつコミカルな1曲に仕上がっている。
しかし、物語のなかでは、過去を改変してはいけない、過去人と未来人が結ばれてはいけないといった、タイムトラベル作品の永遠のテーマと言われる事柄についても描かれている。
『ドキドキする』という楽曲でも、コミカルなサウンドが展開される曲中に不意に現れる、ひとときのロマンスを求める決死の逃避行を匂わせるフレーズはドラマと重なる部分だった。
SFコメディの世界観を1曲のなかに作り上げながらも、ロムコムな展開を待ちわびる登場人物の気持ちを後押しする、この作品にぴったりな楽曲。
ED曲 I like you/Chilli Beans.
そんな『ドキドキする』に対して、一途で夢うつつな歌詞が印象的な楽曲を演奏しているのは、スリーピースガールズバンド『Chilli Beans.』
彼女たちが歌う『I like you』は、はたから見るとのぼせてしまいそうなほど、ストレートな愛を歌った一曲。
公式サイト内のコメントのなかで「大事な人を想う気持ちをそのまま描きました」とあるように、浮かんできた感情に手を加えることなく言葉にした歌詞は、この作品の根幹となる感情を歌っている。
特に「君の嘘が好きだよ」という言葉は、残酷なほどに愛おしい気持ちが込められていて、一緒にはいられないとわかっていても愛さずにはいられない、登場人物たちの想いを代弁しているかのようだった。
ストーリーの序盤では、毎話ごとに、様々な理由で未来から過去に舞いもどった違法トラベラーたちが、現代で騒動を巻きおこす。
最終的につじつまを合わせることで事なきを得ながらも、決して万人が受け入れられるハッピーエンドが待っているわけではない。
実際、曲中でも、恋をしていた時間に想いを馳せながら、現実を受け入れることのできない心境が綴られている。
また、一見、廻に対しての、一途な翔の想いを歌っているかのように思えるが、このドラマに登場する人物たちは例外なく、皆がそれぞれ思い思いの愛の形をもっている。
「I like you」が流れるエンディングのシーンでは、時空を超えて恋をした登場人物たちそれぞれの後日談が描かれていて、彼らの行く末に歌詞の一つひとつが彩りをもたらしていた。
最後に
あいもかわらずタイアップソングが好きだということを再確認できたのは、ひとえに、この『時をかけるな、恋人たち』の世界観を彩る楽曲たちに魅了されたからだった。
異なる角度からドラマを照らすこの二曲は、様々なジャンルを内包した作品をいっそうキラキラと輝かせて、未知なる世界観へと誘ってくれる。
ぜひとも、ドラマを見終わったあとは、歌詞を見ながら2つの楽曲を聴いて見てほしい。
個人的には4話が好きだった。
エピローグが最高なんだ。