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芸人さんのエッセイには言葉の面白さが溢れている
数あるエッセイの中でも、特に好きなのが
様々な芸人によって綴られたエッセイ。
漫才、コント、そしてバラエティの平場で、時には体を張って笑いを取り、時には話術を駆使して爆笑を掻っ攫う、そんな芸人さんたちへのリスペクトは止まるところを知らない。
さらに言うと、そんな芸人さんのセンスを余すことなく堪能できるのが、このエッセイと言う分野だと個人的には思うのだ。
言葉一つで、エピソード一つで
ここまで人の感情を揺り動かすことができるのだから。
と言うことで、これまで自分が読んできた中で面白かった芸人さんのエッセイを紹介していこうと思うので、ぜひご覧あれ。
僕の人生には事件が起きない/岩井勇気
M-1グランプリで何度も決勝へと勝ち上がった実績のある芸人コンビ「ハライチ」のネタ作りを担当する、岩井勇気さんのエッセイ。
このエッセイでは、タイトルの通り、突飛な出来事が起こるわけでもなければ、辺鄙な場所で事件に巻き込まれるわけでもない。
組み立て式の家具に悪戦苦闘する。
珪藻土と名のつく物にハマる。
ショッピングモールを満喫する。
どれも、日常の中で誰もが経験したことのある話で、自身の頭の中だけで過ぎ去ってしまうような出来事に過ぎない。
それなのに、素直な気持ちで感じたことを言葉にして、ちょっとした疑問の分だけ物事の見方を変えてみると、こんなにも魅力的なエピソードに生まれ変わる。
もしかすると、世間の人が岩井さんと聞いてイメージするのは、どこかひねくれた考え方をしている気難しい人なのかもしれない。
でも、この本を読んでみると、起きた出来事に対しての率直な疑問だったり、ある意味ストレートな物事の捉え方だったり、いつもテレビで見る姿とは違った一面を知ることができる。
特に「段ボールを解体するエピソード」は、謎の臨場感とハラハラ感が渦巻く中で、冷静に状況を分析しながら作戦を練っていく姿が妙に様になっていて面白かった。
表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬/若林正恭
「オールナイトニッポン」でのラジオも人気を博している芸人コンビ「オードリー」のツッコミ担当である若林正恭さんのエッセイ。
若林さんのエッセイはいくつか刊行されているけれど、この本はその中でも珍しく、キューバ、モンゴル、アイスランドに旅行した際のエピソードを中心とした紀行文風のエッセイとなっている。
旅行先としては珍しい国々を巡る旅の道中で感じたことが赤裸々に綴られているこのエッセイでは、至る所で若林さんのワードセンスが炸裂していた。
もともとひねくれているイメージがあった若林さんだけど、この本を読んでみると「ひねくれすぎて、むしろ一周周って素直なんじゃないか?」と思えるぐらい、その時々で感じた事を言葉にして表してくれている。
骨があるだけで生死のコントラストがくっきりしてくる。
あと、言葉の選び方や比喩表現がとても秀逸。
その言葉とその言葉をくっつけるんだ、と驚かされる。
事細かに状況を説明しているわけではなくて、何となく頭で想像できるぐらいの絶妙なラインを攻めてくるので、自然と目の前に情景が思い浮かぶし、納得感もあればギャップを感じさせることもあって、自然と顔が綻んでしまう。
とりあえず「アイスランドでオーロラを見た時のエピソード」は初めて読んだ時に死ぬほど笑ったので、ぜひ一読してみて欲しい。
きれはし/ヒコロヒー
「国民的地元のツレ」として、今やテレビで引っ張りだこの女芸人、ヒコロヒーさんのエッセイ集。裏表紙がオシャレで好き。
YouTubeで配信されていた「ヒコロヒーの金借りチャンネル」を面白おかしく見ていた頃から考えると、とんでもない出世スピードに改めて驚いているけれども、このエッセイでは、世に出る前の下積み時代のエピソードを中心に構成されている。
このエッセイに登場する
彼女を取り囲む人々を私たちは知らない。
何度も出てくる、同居人のつるちゃんの顔さえ知らない。
それにもかかわらず、つるちゃんや顔も知らない個性豊かな登場人々に対して、まるで友人や親戚のような親しみを感じるのは、ヒコロヒーさんの人物描写によってコミカルに仕立て上げられつつも、どこか人並みの温もりを宿して描かれているからだろう。
また、このエッセイでは、笑える話の他にも、彼女が心の奥底に秘めている想い、曲げられない芯のような部分を垣間見ることができる。
特に印象的なのは、芸人として生きていくことへの覚悟をこれでもかと書き綴った最後の章。もはや生々しさすら感じさせる文章は、生半可な気持ちで口出ししようものなら、真顔でぶん殴られるんじゃないかと思うぐらいの殺気を放っていた。とくとご覧あれ。
一旦書かせて頂きます/伊藤俊介
最後に紹介するのは、漫才コンビ「オズワルド」のツッコミ担当、伊藤俊介さんによるエッセイ集。
家族や地元の友達、同期芸人や先輩芸人との面白エピソードがふんだんに詰め込まれていて、いろんな角度から彼の交友関係を覗き見ることができる本作。
その上、登場する人々の良いところもダメなところも、訳の分からないところさえも、全て一緒くたにした上で魅力として引き出してしまう。とんでもない文才。
特に「たかしの背中」に登場する「トレンディエンジェル」のたかしさんのエピソードは、彼の人となりが目一杯に凝縮されているので、ぜひとも読んでほしい。禿げているからと言って、侮らないで欲しい。
そして、何を隠そう、自分がnoteを書き始めようと思ったきっかけが「オズワルド」伊藤さんのnoteを読んだことだった。
この本にも収録されている「イタリアの匂い」というエピソードをnoteで読んだ時、流れるように展開していくスピード感のある情景描写と、様々な言葉の表現のバリエーションに驚かされた。あと爆笑した。
何度も妹に心の中から語りかける伊藤さんの健気さと図太さ。両方を兼ね備えているからこそ、滑稽にも思えるし、愛おしくも感じる。
また、どのエピソードでも、畳み掛けるように矢継ぎ早に言葉が飛んでくるので、笑う準備をしている間に次の笑いに巻き込まれる。
そして、思わぬ方向から飛んでくる言葉も、頭の中であの独特の声質で再生されると、笑いを堪えきれずに噴き出してしまう。
本当にそのままの声で再生されるから。
ぜひ、体験してみて欲しい。
最後に
いかがだったろうか。
思ったよりも長くてびっくりしただろうか。
自分もびっくりしている。
最後に、何と言っても自分が好きなのは、エッセイの中で綴られている様々な面白おかしいエピソードはもちろん、その話を肉付けする言葉や表現の部分。
実際の筋書きとは関係ないかもしれない、余計な部分に詰め込まれた言葉や表現にこそ、他のエッセイにはない、話芸を生業としている芸人さんたちが操る言葉の面白さが隠れているし、隠しきれないほど溢れている。
是非とも、一度は読んでみてほしい。
ひとしきり笑ったあと
きっと文章を書きたくなるはずだから。