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少年の「可塑性」は更生に繋がるのか【天使のナイフ・不可逆少年】
2024年は月ごとにテーマを決めて、小説を通して出会った興味を深掘りしてみようと思い、2月もnoteを書いている。
2月に選んだテーマは「更生」。
このテーマについて学びたいと思ったのは、社会派ミステリのなかでもたびたび登場する「少年法」の是非、そして、子どもが生まれながらに宿している「可塑性」について、きちんと向き合ってみたいと思ったからだった。
[可塑性]強い力が加わった時に、形が変わってしまい、そのまま元に戻らない性質。
どんな少年にも「可塑性」は存在しているのか
『天使のナイフ』という作品を読んだとき、初めて「可塑性」という言葉と出会った。
妻を殺された主人公の男が、4年後、犯人の1人が殺されたことで疑惑の男になりながらも、闇に隠された真実を追い求める、薬丸岳さんの社会派ミステリ。
主人公の妻を殺したのは、当時13歳の少年たちだった。
少年法によって、どんな罰を犯したとしても刑罰を科すことのできない「刑事未成年」と定められた、満14歳に満たない少年。
「殺してやりたかった。でもおれは殺していない」
この物語では、現代の少年法に潜む問題点を、決して一方の視点からの意見として故意に描くのではなくて、賛否両論を交えながら丁寧に掬いあげていく。
そして、作中ではどんな過ちを犯したとしても、正当な教育を施せば更生して社会でやりなおすことができると、少年が備える「可塑性」に言及している場面がある。
しかし、最近、読んだ『不可逆少年』と呼ばれる五十嵐律人さんの長編ミステリでは、また異なるカタチで「可塑性」という言葉が登場していた。
幼い少女が起こした重大な事件が発端となり、登場人物たちが抱えてきた過去の傷が新たな事件を巻きおこしていく本作。
この物語では、少年法を支える理念である「可塑性」に真っ向から争う存在が描かれている。
それが、監禁した大人たちを次々と殺害して、その様子を生配信する前代未聞の事件を起こした、狐の面をつけた13歳の少女。
「可塑性」という言葉を全面的に否定するように「不可逆少年」と名づけられた彼女について、理解しようと思えば思うほど、主人公は現実で起きている出来事との乖離に苦悩していく。
「可塑性」を信じなければならないのは誰か
そんな『不可逆少年』の参考文献としても記されていたのが、宮口幸治さんの『ケーキの切れない非行少年たち』という本。
この本では、少年犯罪を起こす子どもたちが抱える「認知の歪み」や「感情統制の弱さ」に焦点をあて、更生や再犯の防止策について、いくつかの提言をしている。
初めて知る事実が多くあって、今まで見ようとしていなかった人々、誰にも打ちあけられない悩みに苦しむ子どもたちの存在を、否が応でも認めざるをえなかった。
そして、この本を読みおえたとき、非行少年たちの更生に対してかすかな希望を持つことができたのは、最後に記されていた第7章を読んだからだった。
家族、学校の先生、家庭裁判所調査官、そして少年院の臨床心理士のかたがた。みんなが犯罪を犯した少年に並々ならぬ覚悟で接して、更生のために尽力している。
「子どもの心に扉があるとすれば、その取手は内側にしかついていない」
しかし、どれだけ更生を願ったとしても、少年の「可塑性」を信じようとしても、本人がその可能性を閉ざしてしまう限り、本当の意味でやりなおすことはできない。
そして、不幸に慣れすぎた少年たちは、誰からも声をかけられることなく次第に道を逸れ、踏みはずしたことにも気づかないまま、取りかえしのつかない場所にまで歩みを進めてしまう。
『不可逆少年』に登場する、少年少女たちのように。
だからこそ、加害者となってしまった少年が「自己への気づき」と「自己評価の向上」を経て、自らの「可塑性」を自覚することは、更生への第一歩になるのだとあらためて感じた。
ときに『不可逆少年』のなかで、物語の主人公が発した印象的な言葉がある。
「やり直せるから、少年なんだよ」
加害者となってしまった少年たちに対面して、この言葉を届けられる人は、ほんの一握りしかいないと自分は思う。
実際のところ、いままで書いた文章も、第三者の視点だから言えることであって、立場が異なれば、ぜんぶ綺麗事だと吐き捨ててしまいたくなるのかもしれない。
それでも、やり場のない憤りや行き場のない悲しみが生み出すものが、更なる憎しみの連鎖だとするならば、誰かがどこかで断ち切るらなければならないものだと思ったのは確かだった。
最後に
正解のない重いテーマで、ずっと考えがまとまらずにいた。
それでも、いつかは向きあいたいと思っていたテーマだったので、この機会に少しでも触れることができてよかったと思う。
3月のテーマは「人工知能/AI」について。
とんでもないスピードで進化していて、今や現代の生活に欠かせない存在となっている最先端技術。
ずっと学んでみたかった分野なので、今から楽しみ。