愛しさひとつ取りこぼさないように
さっき読み終わった、瀬尾まいこさんの『君が夏を走らせる』。
せっかくなら夏に読みたいと取っておいた小説は、かつて不良だった16歳の少年が、先輩から託された2歳の赤ちゃんの世話をすることになる、ひと夏の子育て奮闘記。
子育てをしたことのない自分から見ても、自由奔放な赤ちゃんに翻弄されっぱなしの主人公の少年は、危なっかしくて、あれこれと手一杯で、それでも一生懸命に子育てと向き合っているように見えた。
短い日々のなか、ほんの少し違う姿を見せるだけで、心がウキウキして自然と笑みが溢れてしまう。
少年のひとつひとつの言動に込められた気遣いや優しさが、文章の節々から伝わってきて、ふたりのたどたどしいやりとりが何よりも愛おしいと思える。
たとえ、2歳のころの記憶が忘れられてしまうものだとしても、彼が小さな子どもと駆けぬけた夏の時間は、これから先の人生を燦然と照らしてくれる。
Hump backは大学生の頃に出会って、そのアグレッシブで力が漲る演奏に魅せられたスリーピースバンド。MCも熱い。何度もコピーした。
そんなHump backでギターボーカルを務める林萌々子さんが、亡くなった愛犬を想って書いた曲と言われている「LILLY」。
胸が苦しくなるほど、歌詞から溢れでる想いが、名残惜しく過ごした日々を思い返すように歌われる。
今日、この曲を聴きながら夜に走っているとき、どこか『君が夏を走らせる』のストーリーと重なった。
〈いなきゃいないとで静かだし〉〈明日の天気を気にしてる 君が君が可愛かった〉という歌詞が、どこまでも主人公の気持ちを代弁しているように思えた。
そんな存在が近くにいたのなら、愛しさひとつも取りこぼしたくないと、そう思えて仕方がないんだろうな。