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28歳で始まったバンドの10周年| TENDOUJI ONEMAN TOUR|ライブレポート
「TENDOUJI」はずっとライブハウスで観たいと思っていたバンドだった。
聴いただけで心が奮いたって感情が高ぶってしまうサウンドと、いつの日か忘れていた童心を呼び覚ましてくれるノスタルジックな歌詞。
そして何よりも、28歳からほとんど初心者でバンドを始め、自分たちが信じる音楽から決してブレることなく、10年にわたって「TENDOUJI」が作る世界観をファンに届けてきたバンド。
自分は今年、28歳になった。
5年間勤めていた会社を辞めて、新しい一歩を踏み出したばかり。
だからこそ、彼らがバンドを始めたこの節目となるタイミングで、あの音楽を真正面から感じたいと思った。
場所は恵比寿lLIQUID ROOM。ライブハウスに集まった人々が、今か今かと開演を心待ちにしていた。
そんな熱気に包まれた会場は、昨年、自らのバンド名を冠して発売されたセルフタイトルアルバム『TENDOUJI』のオープニングナンバーでもあり、彼らのアンセムとなった『TENDOUJIのテーマ』で幕を開ける。
ひたすらにバンド名を連呼するキャッチーなメロディに合わせて、観客の掛け声が一際大きくなるなか、続けて披露されたのは『Kids in the dark』。
子どものころに感じた音楽へのワクワク感がそのまま抜け出てきたような楽曲は、ライブ会場で聴くと、より心が湧きたつ。
さらに、イントロで耳馴染みのある手拍子とチアホーンの音が鳴り響く『TEENAGE VIBES』は、自分たちの音楽へのスタンスを明確に定めたうえで、同じく戦う若者たちへの応援歌のように聴こえた。
巨大なサッカーボール風船が舞台に散らばり、背景のスクリーンではサッカーの往年の名試合が流れているフロアは、スタジアムと変わらない、いやそれ以上の歓声と熱気に包まれていた。
先日、目の手術を受け、眼帯をつけての参戦となったGt.Voアサノさんの「よろしくTENDOUJIです。踊って帰ってください」の言葉通り、最新アルバムから『NO!NO!NO!』『Black Star』が続けて鳴らされると、ダンスフロアと化した会場で、観客が想いのままに体を揺らす。
その後「10周年だから古い曲も」と演奏されたのは、2016年に発売された『Skippy』。ゆったりとしたテンポで響くギターリフは、どこか懐かしさを感じる響きで、気持ち軽やかに。
愉快なMVが特徴的な『DODA』では打って変わって、「What you wanna do that(何がしたいんだっけ?)」の歌詞の通り、息苦しい場所を抜け出して自由になりたいと叫びだしたくなる衝動に駆られた。
その後『Suger Days』『SHPP』『Jellyfish』と、自身が作詞作曲したナンバーに沿ってボーカルが入れ替わりながら、次々と最新アルバムから楽曲が披露されていく。
6月開催のライブに合わせて唄われた『June song』では、アサノさんの「辛いことでぱんぱんになっても戻れる場所に」という言葉を体現するように、じんわりと温かな歌声が会場内を満たしていった。
そんな多幸感に包まれた空間に、Gt.Voモリタさんが歌う『Song for you』が響きわたる。忘れたくないけど、忘れないとさよならできない。複雑な胸中が歌詞から伝わる一曲。
I can,t tell but singing song for you
I just say goodbye,this song for you
MCでアサノさんが「晴れバンドの称号をもらってもいい自信がついた」と言及するほど、梅雨の真っ只中にしては珍しい快晴のなか、モリタさんがマイク一本で『Just Because』を歌い上げると、最後は楽器を手にとり、ギターソロを披露する。
歓声に包まれるなか一瞬の静けさを経て、モリタさんの小刻みなバッキングから始まったのは『STEADY』。
『STEADY』は、自分が TENDOUJIを知るきっかけになった曲だった。
たまたまラジオから流れてきたのか、ネットで探し出したのか、あまり覚えてもいないけれど、一瞬で「あ、このバンド好きになる」と思った曲だった。
新曲出しました
— TENDOUJI モリタナオヒコ (@tendoujinao) March 19, 2021
"STEADY"
歌詞はこんな意味
自分はすごいバカでついつい大切な人の事とか反省した事忘れてしまう
聴いてみてほしい pic.twitter.com/SKsfdHaZlh
TENDOUJIの曲を聴いていると、友だちと過ごした馬鹿みたいな情けない日々と、それでもかけがえないと思える日常を思い出してしまう。
美化することもできない、ありのままの思い出が、走馬灯のように頭のなかを流れていく。
そんな感傷に浸りながら『I don't need another life』を聴いていたら、その後のMCで「そろそろスイッチ入れちゃおうかな」と言葉が聞こえてきた。
途端に、空気が切り替わる。
先の宣言通り、風貌も相まったアサノさんが「一番海賊っぽい曲」と評した『FIREBALL』が流れると、この瞬間を待っていたとばかりに、メラメラと燃え盛る観客から発される熱気がどんどんフロアに充満していく。
間髪入れずに始まった、バンドメンバーとファンへのありったけの愛が詰め込まれた『BIG LOVE』が、会場にさらなる一体感を生み出す。
一瞬、MVのわちゃわちゃ感に気を取られて、ストレートな想いに溢れた歌詞を見過ごしてしまいそうになる。何度も観たくなるMV。
興奮冷めやらぬまま、充満した熱気をさらに追い風にして『HEARTBEAT』が鳴らされると、会場のボルテージは最高潮に。
そこかしこで観客が踊りくるい、鼓動の高まりに感化され、音にまみれながら最前列に飛び込んでいく人もいた。
MCを挟んで演奏された『Peace Bomb』は、サビで数字を並べて歌うキャッチーなメロディに合わせて、観客の声が響く。
モリタさんが「今まで見たなかで一番小さいトルネード」と思わず口にしていたけれど、中央にできた小さな空間は瞬く間に埋め尽くされて、会場内を巻き込んで竜巻のように広がっていった。
楽しい音楽とは裏腹に、物騒な歌詞が印象的な『Killing Heads』でひとしきり盛り上がったあと、本公演も終わりに近づき、アンコールを除いて最後の曲に選ばれたのは『TOKYO ASH』。
疾走感のある曲に合わせるように「Lalalalala love」と彼らが歌えば、観客も呼応するように「Lalalalala love」と声を重ねる。
「クソッタレな東京にいる、美しい馬鹿たち」への愛が込められたメッセージソングは、モリタさんのハーモニカ演奏によって終わりを迎える。
音源では静かに奏でられていたが、ライブ会場では一際大きく、この日の名残惜しさも全て飲み込んで、観客のもとへと飛びこんでいった気がした。
アンコールは割愛。とんでもなく盛り上がっていたからこそ、せっかくなのでライブに足を運び、その音を体感してほしい。
最後のMCでモリタさんが28歳でバンドを始めた理由を述べていて、モテたかったのと、最高の友達とずっといっしょに居たかったからだと。
そんな純粋な想いで、初心者から楽器を手に取り、Drのオオイさんはドラムを知らないままドラムスになった。そして、友だちと過ごした日々の延長線上から始まった「TENDOUJI」は10周年を迎えた。
今では4人全員が作詞作曲を担当して、ギターもベースもドラムも関係なく、自分自身で作った曲を歌っている。
そんな彼らの曲が、聴いた人の心に届かないはずがない。
ありったけの元気と未来へ突き進むパワー、そして新しい場所に一歩を踏み出す勇気をもらったライブだった。