考える時間なんて腐るほどあった
なぜ人は追い詰められてからでしか、はたと気づけないことがあるのだろう。なぜすぐ後ろが崖だと気づいてからでしか、頭を120%の速さでフル回転できないだろう。
そんな思いが週末の洗濯物くらいの勢いで脳内に溜まっていくだけのことはあって、脳裏には夏休みの宿題が山ほど積みあがっていた小学生の8月末の景色が浮かんでいる。
とりあえず頭のなかに散らかった洗濯物をまとめて洗濯機へと放り込み、カラッとした陽気が気持ちのいい日に干して、お日さまの匂いがたっぷりと吸い込まれたら、ていねいに畳んでいきたい。
絶対にスッキリするはずだから。
けっこう工程は多いけれど。
日食なつこさんの演奏を現地で観たのは、本当に偶然の出来事だった。
ずっと興味があった岩手県で一人旅をしたとき、どうしても訪れみたかったのが花巻にある「宮沢賢治童話村」。
宮沢賢治の故郷・イーハトーブの地でもある花巻で、小さい頃から馴染み深かった宮沢賢治の物語に触れたい。そう思っていた。
実際に「宮沢賢治童話村」を訪れると、懐かしいのどかな日本の原風景を舞台に、多彩な動物たちが登場するファンタジーな世界観が見事に再現されていた。
そんな場所でたまたま開催されていたイーハトーブフェスティバルで、ゲストとしてライブを行っていたのが日食なつこさん。
彼女自身も岩手県・花巻の出身であり、今年の活動15周年の記念ライブも岩手県で行っている。
広大な自然のなかに響く力強い歌声。ひとつひとつの言葉がはっきりと聞きとれるからこそ、歌詞がもつ一発の重みで心がずしんと音をたてる。
去年のM-1グランプリのプロモーションビデオでも流れていた「ログマロープ」は、まさに歌詞が聞こえてくるたび、弱音や言い訳もろとも殴りつけられたような気持ちになった。
〈不可能が牙を剥く 無事でなどいたくない〉と思えるくらい、ガムシャラに生きていたい。崖っぷちにしがみつくより、風を切って飛びこむほうがよっぽど気持ちがいい。
焦りや臆病さを勇気に変えてくれる、大切な曲。