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戦争と国に翻弄される人々
草は繁茂し木の枝は伸び、虫がぶうんとなって飛んで、水鳥のオオバンが鳴く。空も大地も生命力に溢れていた。ただ人間だけが死にかけていた。(p.274)
ベルリンは晴れているか/深緑野分
第二次世界大戦で敗れたことにより連合国軍の統治下に置かれたドイツで、17歳の少女は殺された恩人の死の謎を解くために、陽気な男を引き連れてベルリンから旅立つ、深緑野分の長編ミステリー。
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ずっと読みたかった本なので、文庫化されたと聞いてすぐに購入。
文庫版になっても表紙がハードカバー版と同じだと、なんか嬉しくなる。
深緑野分さんの作品を読むのは「オーブランの少女」「戦場のコックたち」「この本を盗む者は」に続いて4作目。
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1945年、ナチス・ドイツの敗戦により、米ソ英仏の統治下に置かれたドイツは、戦争が残した数多くの爪痕が刻まれたまま、未だに人々は癒えない傷を抱えていた。
そんなベルリンの街で、アメリカ軍の従業員食堂で働いていた主人公の少女アウグステは、恩人であった男の不審な死に関わったとして疑いの目を向けられるが、とある計らいから、その男の訃報を「ある人物」に知らせて欲しいと依頼される。
彼女は知らせを届ける道中、戦争が生んだ多くの犠牲と歴史、そして、幼き頃から今までの人生に対して思いを巡らせる。
ナチス党によってねじれていく国と人々、ユダヤ人に対する迫害、戦争の始まり、大切な人々との別れ、そして、17歳となった彼女に残された記憶。
物語の背景として描かれる歴史の中では、実際に起きたとは到底信じられない残虐非道な出来事が平然と行われていて、一瞬の高揚を求めて染め上げられていく思想は瞬く間に国中に広がっていった。
戦いから解放されても、それは自由を意味するわけではなくて、悪と敵対しているものが正義だとも限らない。翻弄されるのはいつの世も、国に取り残されたマイノリティたちだった。
深緑野分さんが描く物語と背景に流れる歴史は、決して吹いたら飛ばされそうな軽いものではなくて、ソファにどしっと深く腰掛けた時のような、のしかかってくるような重圧を感じる。特に、DPキャンプでのユダヤ人の描写は忘れられない。
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今まさに、始まってしまった戦争。それは、不意に現れたものではなくて、根深く突き刺さったまま誰も抜く事ができずにいただけで、ずっとそこにあった。
だからこそ、自分たちは知らなければいけない。
積み重なった歴史と戦争の引き金となった出来事を。
嘆き悲しむことができるのは、現在も戦いの犠牲となっている国民と、それに関わる人々だけだから。