アラウンド・ 19teen 忘れえない一瞬 【短編小説】 #創作大賞2022
小学生の時、課外活動という名の放課後授業があった。その授業に通い夏の間は毎日、毎日泳いでいた。
そのため自分は、泳ぎに苦手意識がなく、中学生のころ、皆が嫌がるクラス代表100メートル自由形リレー選手に選ばれても特に苦も無く引き受けていた。
なんとなく自分は泳げると思っていたので大学1年の夏、としまえんのプール監視員のバイト試験を受けた。
周りは体育会系なガチな人の中、ナーバスになりながらもさっそうと飛び込んだ。飛び込んだものの、しばらくして、いや、すぐに泳げなくなっている自分に気付いた。
泳げていた時の感覚、水の上をすべる感覚がまるでなかった。
ガチな人たちが前方はるかにいる時、ほとんど犬かき状態になっている自分(まだ泳いでいるつもり)に、試験官からプールから上がるように指示された。
屈辱というより情けなさが込み上げてきた。
ああ!だいぶブランクがあったとはいえこんな自分になっていたなんて。
試験監督から事務室に通され、気まずい時間が始まった。
「一応、救助できる泳ぎが必要だから・・」
試験監からそう言われるまでもなく、百も承知で情けなかった。
少子化なのか、なんなのか人手不足らしく、サービス業は疲弊して求人していた。「ほかのバイトもあるので、好きなの選んで」
そう試験監が言うと、としまえん内の物販やら、なりやらの求人票を見せてくれた。
夏のバイトを決めたかったが、一刻も早くこの場を離れたかった。
「条件違うので。。。」
私はボソッとつぶやき、帰り支度をしてその場を離れた。
もちろんそれ以上、引き留められることもなかった。
家に帰り、泣きはしなかったがクーラーを必要以上に利かせ半ば放心状態で崩れた。
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水の上をつるつる滑る感覚を取り戻したい。
しかしバイトも決まらず、金もなかったのでどこか安く泳げるプールはないかと探したが近くには公営プールくらいしか選択肢はなかった。
公営プールはほとんど中学生以下の子供ばかりで大学生は場違い感が半端なかった。
恥ずかしかったし、なによりプールは浅く練習になるのかと不安になった。
しかし方法はない、中学生がゆらゆら揺れる中で水を掻くのではなく、水の上をすべる感覚を取り戻そうと
何日も通った。
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夏の季節は早い
盛夏という言葉がぴったりだった日々は過ぎ、何となく晩夏というか秋めいた日差しも日に日にも肌に感じるようになってきた。
あれだけいた小中学生も数が減り、私はさらに目立っていった。
結局のところ売店の何人かのアルバイトも売店で暇を持て余し、監視員も退屈そうであった。
私もアルバイトとよく間違えられては苦笑していた。
そんな中で彼女と出会った。
「出会った」というのもおかしな話で、相変わらず気落ちした私がとぼとぼとプール際を歩いているとき前方から彼女がすたすたと歩いてきた。
当然小柄なバイトの彼女が利用者である自分を避けると思いぼーっと歩いていたのだが彼女は直進してきた。
私がぼうっとしてたこともあり、彼女も急いでいたのだろう、事故にこそならなかったが軽く接触してしまった。
今でこそシンデレラ体形の細い子が好きなのだが、当時はぽっちゃり気味で高校を卒業したばかりでいかにもアルバイト用の地味な水着をきた彼女がとてもキュートに感じた。
「すみません・・・」お互い軽く謝ると足早に去った。
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もともとお互い名前も知らないが、目立った存在の私と彼女が打ち解けるのは長くはかからなかった。
覚えているのは売店でフラッペを注文すがら「昨日はすみません・・・」と声を掛け合った記憶だ。
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もともと暇を持て余していたのだろう。休憩時間に、いつものように客席に座った彼女とたわいもないことでも何でも話すことができた。
ここのプールに来るようになったきっかけ・・
バイトの試験に落ちたこと。。そのショックといたずらに過ごした日々・・
なんにでも楽しそうに笑い、かつ時には真剣な眼差しを向けアドバイスをくれる彼女に魅かれない理由はなかった。
そんな日が幾日も続き夏休みも終わり、プールの終了日も近づきつつあった。
遅くはなったが意を決して思いを伝えよう、そう朝から考えてタイミングを考えているうちに彼女の休憩時間はおわった。
「じゃあ」いつものようにバイトに戻る彼女のはず、だった。が今日はもう終わりらしくその足で駐車場に向かったようだ。
狭い敷地なのでプールから見える目の前の駐車場から車を出す彼女。
彼女は車を運転していなかった。
車を運転していたのはいつも見ていた顔、日に焼けていたプール監視員のKだった。
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恋愛でもなく恋心ですらなかった消えた日々・・
あっけにとられる私を、彼女は見透かしたかのように、ゆっくりと走る車の窓を開け意味ありげに、私に軽くウインクした。
気がした。
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May the Force be with you.