あゝ日本のどこかに 私を待ってる人がいる~読書note-19(2023年10月)~
灯台巡りを始めた。8月に読んだ主人公が灯台巡りをする「灯台からの響き」(宮本輝)に思いっきり感化されて。とりあえず、日帰りで行ける所ということで、「塩屋埼灯台」(福島県いわき市)、「日立灯台」(茨城県日立市)、「犬吠埼灯台」(千葉県銚子市)と10月は3つ回った。あとは、泊りがけじゃないと行けないなぁ。もう少し、会社を立て直して余裕出来てから、南房総と三浦半島は一泊二日で行ってみよう。
まぁ、10月は前半の週末は灯台巡りしたり、会社経営で悩んだり、後半はずっと体調不良だったりで、4冊しか読めなかった。
1.アンと愛情 / 坂木司(著)
「和菓子のアン」シリーズ第3弾が文庫本になってたので購入。「和菓子のアン」「アンと青春」を今年の春に読んだので、早く続きが読みたかった。デパ地下の和菓子店「みつ屋」のアルバイト・アンちゃん(本名は杏子)が主人公の、和菓子を題材にしたミステリー。と言っても、殺人事件が起きる訳でもなく、来店してきたお客様が抱えている謎を解き明かしていく。
表題に「愛情」とあったので、ついにアンちゃんと乙女男子・立花さんとの関係に進展があるのか、と期待してみたが、まぁそうなるよね。アンちゃんは「花より団子」というか、恋愛を描き辛いキャラではある。でも、第1章では成人式もあり、大人になった訳だし、立花さんだけでなく、お向かいの店「K」の柏木さんもアンちゃんを慕っている状況で。まぁ、本作でも微妙な三角関係っぽいところは、垣間見れる。そこは今後の楽しみにしとくか。
今回も、様々な和菓子の由来や歴史だけでなく、食文化の歴史まで凄い知識と取材力だと感心する。自分が住む足利市ではお馴染みの「すあま」が関東限定だと初めて知ったし、山椒の活用法は早速、しょうゆせんべいとチーズを買ってきて試してみた。ワインにも日本酒にも合って美味しかった。
第3章「あまいうまい」はアンが金沢に旅する。この前のTVでやってた「城下町総選挙」でも2位だったけど、金沢は行ってみたい街だなぁ。昼は品のある和菓子屋を巡り、夜は海鮮を肴に地酒を呑みたい。あの辺、灯台あったかな?
2.夜明けのすべて / 瀬尾まいこ(著)
瀬尾まいこさんの作品は、数年前に読んだ「そして、バトンは渡された」以来か。本屋で「松村北斗✕上白石萌音、W主演にて映画化」という帯が目に入り、「えっ、大好きだったカムカムのコンビじゃん!!絶対、映画見たい!!」と思ったので、その前に読んどこうと即購入。
「知ってる? 夜明けの直前が、一番暗いって。」という帯にある文言を見て、暗い話からのハッピーエンドなのかなと読み始める。PMS(月経前症候群)で月に一度感情が爆発する藤沢さんとパニック障害になり腑抜けのように生きる山添君の二人が主人公、同じ栗田金属という二人以外はベテラン社員ばかりのノンビリした零細企業に勤めている。
藤沢さん主観と山添君主観の章が交互に展開され、大変な病気を持つ者同士、いや同志の親近感や思い遣る心で、徐々に二人とも互いの存在が救いとなっていく。読み進めるうちに、やっぱあの「バトン」を書いた瀬尾さんの文章だ、と気付かされる。描かれている状況は辛いけど、何とも温かい物語だ。
難病に苦しむ人は多かれ少なかれ人生に絶望を抱いた経験はあるだろう。難病ではないが、自分も7年前に人工股関節にした時、大好きなサッカーもマラソンも登山も出来なくなる残りの人生に絶望したもん。でも、人生は苦しくとも、人や物に救われるものなんだなぁと改めて思う。まぁ、何とか俺も頑張ろう、と気持ちが前に向く本だった。
3.錦繡 / 宮本輝(著)
8月に20数年ぶりに宮本輝さんの作品を読んで、また読んでみたいなぁと思っていたところ、SNSでフォローしてる読書インフルエンサーのきりんさんが以前紹介していたのを思い出し、本屋で石田ゆり子さんの帯が付いている新装版を見つけて即購入。名作なので「昔読んだことあったかも?」と思ったが、家に帰って蔵書を見たら持ってなかった。
勝沼亜紀と有馬靖明という、かつて夫婦だった二人が十数年ぶりに、紅葉に染まる蔵王のゴンドラリフトの中で再会する。その後の二人の計14通の手紙のやり取りだけでなる小説。こういう小説を「書簡体小説」と言うらしい。昔からある(「若きウェルテルの悩み」、「あしながおじさん」等)一つの小説の形式で、手紙という大きな制約がある中で、物語が展開されて行く。
往復書簡により二人の過去や現在が明かされて行くとともに、悔恨や絶望に苛まれた暗いトーンの様だけでなく、「生と死」について二人とも考えを巡らせるようになる。でも、二人には前を向いて生きなければいけない理由がある。亜紀には障害を持った愛息を一人前に育てあげようとする覚悟、そして、靖明には養ってもらい、新たな仕事へと導いてくれた、連れの令子への報い。最後には少しだけ明るいトーンとなり、未来へと歩み始める。
手紙の文章って、こんなにも美しいものだったのかと。LINEの短い文章の意思疎通に馴れてしまった今だからこそ、手紙で思いの丈をぶつけてみたい。別居中の妻に手紙でも書いてみようかな。亜紀や靖明の最初の手紙のように、悔恨と謝罪だけで埋まってしまいそう。でも夢見てる未来も自分の中にはある。妻は読んでくれるだろうか。
4.パーフェクト・ブルー / 宮部みゆき(著)
タイトルの爽やかさからは想像できぬ、暗い話だったなぁ。
宮部みゆきさんは6月に読んだ「理由」以来か。「理由」も古い作品(1998年)だったが、本作はもっと古い1989年の、何と宮部さんの記念すべき長編デビュー作。でも、そんなに古いって感じはしなかった。
この作品もストーリーテラーが二人、というか一匹と一人。主人公の元警察犬・マサが語る三章の合間に、製薬会社社員・木原が語る二つの幕間(インタールード)が入る。それぞれの物語が最終的に合わさるって、上の「夜明けのすべて」はじめ最近読んだ本にはこんな構成が多いなぁ。「錦繡」もそうか、元夫婦の手紙が交互に交わされるし。目線(語り手)を章ごとに替えるというのは、小説を飽きせずに最後まで読ませる有効な手段か。
人体実験の話はどうも苦手だ。カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」(人体実験というかクローン人間だが)とか、アメリカのTVドラマの「コールドケース」にもあったよなぁ。でも、上述の構成の妙と最後の謎解きの衝撃で嫌な感じも少しは薄まったか。タッチは軽いのだ。蓮見探偵事務所の長女・加代子、殺害された高校野球のスターの弟・進也少年、すしてマサが謎を解くため奔走する様は。如何せん、テーマが…
タイトルは、その人体実験の薬を評した色のこと。まぁ、青という色は淡いうちは明るいが、濃くなるに連れ暗くなるもんね。
谷村新司さんが亡くなった。「秋止符」や「遠くで汽笛を聴きながら」の柔らかで憂いある歌詞が好きだった。中でも、百恵ちゃんが歌う「いい日旅立ち」の今日のタイトルにつけたフレーズは、当時(小4だった1978年)いじめを受けていて絶望感に包まれ、ましてや恋や愛が何たるかも分からぬ自分でさえも、「あぁ、日本のどこかに俺を待ってる人もいるのかな」と未来に淡い期待を抱いたものだった。
果たして、別居中の我妻は私を待ってくれているのだろうか。そうでなければ、日本の端々でじっと風雪に耐えながら待ち続けている、背の高い白い恋人たち!?に、会いに行くだけが楽しみな余生を送るしかないのかな。