記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

時の重さに流されそうになった時でも~読書note-11(2023年2月)~

2月も4冊しか読めなかった。気持ちの浮き沈みが激しかったり、それに伴う用事があったりで。先月のnoteに書いたように、長男の就職が決まった歓喜と共に、大きな傷心があった。

地元(足利市)の大切な同級生の友が亡くなった。5年前に胃がんが発覚し、ステージ4との診断で余命数ヶ月と宣告された。でも、抗がん剤の効用もあり、その後、何と5年も頑張って生き抜いた。昨年、下のお嬢さんが就職して、肩の荷が下りてホッとしたのかもしれない。俺だって、先日ようやく長男の就職が決まって、ホッとしたもの。まだ次男が残っているけど。

友は小学生の頃から生え際がM字に薄かったため、育毛剤の名称である「カロヤン」とのあだ名で呼ばれていた。俺もずっと40年以上、「カロ」と呼んでいた。でも、それは決して揶揄ではなく、愛情をもって皆にそう呼ばれていた。ホント、誰からも愛され、周りを和ませ、その場を明るくする、太陽のような男だった。

同じ中学の野球部時代、嶋大輔の「男の勲章」が流行っていて(1982年だから中2か)、辛い練習の最中、おふざけ好きの同級生がサビの「ガキのころ~♪」と歌うと、仲間が間髪入れず「〇〇〇ひろし!!」(カロの本名)と叫ぶ、という謎の遊び(からかい!?)が流行った。何故それが流行ったのか、何故そんなこと覚えているのか、よくわからない。これぞ、中二病ってか!?


1.号泣する準備はできていた / 江國香織(著)

実は江國香織さんの著書は初めて。去年読んだユーミンアンソロジー「Yuming Tribute Stories」の中の一篇は読んだけど。その時の「夕涼み」に凄く良い印象を持ってたので、手始めに直木賞受賞作の短篇集を買う。12編もあるので、ちょっとした空き時間にスッと読めた。

全て女性が主人公なので、男としては共感出来ない部分もある。でも、恋や人生が上手く行ってなかったり、こじれたりしている人物には心惹かれる。ラストの4作品「どこでもない場所」「手」「号泣する準備はできていた」「そこなう」が好きかなぁ。

「手」に出てくる、主人公・レイコが落ち込んでいると聞き、ウォッカを持っておでんを作りに来てくれた、学生時代からの「友達以上恋人未満」のたけるを見て(読んで)、会社同期の女友達Hさんを思い出した。お互いに「30過ぎても独身だったら結婚してあげるよ」と言い合う、数少ない何でも話せる異性だったが、二人とも30前に結婚してしまった。彼女はバツが2つ付いたようだが。近くに住んでたら、愚痴漏らしながら一緒に飲んでたかなぁ。

それと、あとがきにグッと来た。

たとえば悲しみを通過するとき、それがどんなにふいうちの悲しみであろうと、その人には、たぶん、号泣する準備ができていた。喪失するためには所有が必要で、すくなくとも確かにここにあったと疑いもなく思える心持ちが必要です。

「号泣する準備はできていた」(江國香織) あとがき―号泣する準備

たぶん、俺には号泣する準備ができている。


2.花の鎖 / 湊かなえ(著)

著者が読後嫌な気持ちになるミステリー「イヤミス」の女王と呼ばれているとは知らなかった。確かに、「告白」しかり、「母性」しかり、話が暗すぎるなぁとは思っていたが。(実際、「母性」は途中で読むの止めた。)ただ、行きつけの本屋でやたら推してて、裏表紙に「驚きのラストが胸を打つ、感動の傑作ミステリ」とあったので購入。

梨花、美雪、紗月という3人の女性が主人公、全体が6章から成り、それぞれの章で、「花」「雪」「月」の節に分かれて、3人それぞれの物語が進む。昨年、「月の満ち欠け」(佐藤正午)を読んでいたので、途中でこの物語の仕組みがわかってしまった。まぁ、発表されたのは「月の満ち欠け」が2017年で、「花の鎖」の方が2011年なので古い訳だが。

ラストもあの横山秀夫先生のアレかな、とミステリーファンなら想像できてしまうが、全てが繋がった時は感動するものだ。著者の作品の一貫したテーマである「母と娘」、「告白」とは違った母の強さ、親子の絆が感じられる。それに、著者の三大好物という!?「花」「きんつば」「山」が、ストーリーに広がりと深みを出してくれている。(著者はこの3つを題材にした作品を前から書きたかったのだと。)

そうか、小説書くなら、まずは自分の好きなものを題材に書けばいいのか。俺なら、「サッカー」「おはぎ」「山」か。話繋がる?


3.傲慢と善良 / 辻村深月(著)

自分の中では湊かなえさんと辻村深月さんを割と同列に考えていて、区別は湊さんは「より暗い」、辻村さんは「よりファンタジー」というイメージだ。数年前に読んだ「ツナグ2」以来か。帯に「人生で一番刺さった小説との声、続出」とあり、なんて大げさなと思い、お手並み拝見という気分で購入。

これは、恋愛ミステリなのか、婚活ミステリなのか。まず、これほど「婚活」にスポットを当てた小説は、今まで無かったのでないか。婚活アプリで出会い、婚約までたどり着いた坂庭真実と西澤架(かける)の二人が主人公で、ある日、忽然と真実が姿を消す。以前から、真実はストーカーに付き纏われていると架には話していた。それが、失踪の原因なのか。

真実は数年前に群馬から東京に出てきた後、架と知り合う。群馬時代に何か手掛かりがあると考えた架は、真実の実家やかつての同僚、群馬で利用した結婚相談所の代表らと会い、真実の婚活での苦労や本性を知っていく。この本のタイトルは、その結婚相談所代表・小野里の言葉から来ている。現代の結婚が上手く行かない理由は、「傲慢さと善良さ」にあると。

現代は一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて傲慢で、善良に生きている人ほど、誰かに決めてもらうことが多過ぎて自分がないと。俺が婚活する前に、普通に恋愛結婚できたのは幸せなことなのか。それは昔は割と謙虚だったし、決断力はあった方だったからか。

いずれにせよ、傲慢ではないが善良過ぎる息子二人のことが心配だよ。結婚できるのかなぁ、いや、しないかなぁ。


4.言語学バーリ・トゥード Round 1  AIは「絶対に押すなよ」を理解できるか / 川添愛(著)

以前、音楽評論家スージー鈴木さんとの対談が面白かったので、そこで紹介されていたこの本を速攻でポチった。

言語学者の川添愛さんが日常にある言語学の話題を、ユーモアあふれる巧みな文章で綴る。表題から分かるように、かなりのプロレスファンなので、いきなりラッシャー木村の「こんばんは事件」から始まる。いや、まえがきにも橋本真也の「時は来た!」でこすってるし。いずれも、プロレスファンにはたまらない考察である。

他にも、スージーさんとの対談でもあった「恋人{は/が}サンタクロース?」問題、副題にもあるAIはダチョウ俱楽部の「絶対に押すなよ」を理解できるか等々、笑いながら学べるものが多い。ただ、ギャグ(特にプロレスネタ)をこれでもかとぶっこんでくるので、好き嫌いが分かれそうな文章だ。とにかく、比喩にプロレスネタが多過ぎなのだ。

でも、第13章の「ドラゴンという名の現象(フェノミナン)」は、プロレスネタだけど、膝を打つ話だった。何で藤波辰爾の技や行動!?に対してだけ、「ドラゴン」が付くのか、確かに不思議だもん。ドラゴンスープレックス、ドラゴンスクリュー、ドラゴンヘアカット(飛龍革命時に突如前髪を切り出す)、ドラゴンストップ(長州VS橋本の喧嘩試合を中断させる)等々。未だに現役を続ける藤波の試合をもう一度見たくなった。


しかし、余命数ヶ月と医師に宣告されたら、どんな気持ちになるのだろう。ホント、時の重さに流されそうになりながらも、歯を食いしばって耐えたんだなぁ。カロ、5年間よく頑張ったよ。R.I.P.カロヤン、君の笑顔は永遠に。

もし、自分が余命数ヶ月と宣告されたら、「時は来た!」と言おう。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集