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#144 コングロマリットは「ディスカウント」か?「プレミアム」か?
ソニーや、総合商社といった、多くの事業を抱える企業(コングロマリット)は、従来「コングロマリット・ディスカウント」があると投資家から指摘がありました。でも、ニューノーマルの中では、もしかしたら「コングロマリット・プレミアム」になるのかも、というメモ。
1、コングロマリット・ディスカウント
コングロマリット・ディスカウントとは、様々な事業を多角的に行っている企業グループにおいて、それぞれの事業を単体で経営した場合と比較して、市場からの評価が低くなっている状態を言います。
つまり、3つの事業を持っている場合で、1+1+1が3以下にしか評価されていない状態で、別々なら株価が3になるので、株主からはバラバラにしろ、という圧力がかかる、というわけです。
この点で昨日の日経新聞に(個人的に)面白い記事がありました。
シーメンスのジョー・ケーザー社長兼CEOとHISの沢田会長兼社長のコメントが並んで載っている記事です。
まず、右のジョー・ケーザー社長兼CEOのコメントの一部。
大きな変革に踏み切った。
シーメンスを3つの上場会社に分割したことだ。2018年に上場させた医療機器のシーメンス・ヘルシニアーズ、9月に連結対象から外した発電用タービンなどのシーメンス・エナジー、そして工場のデジタル化などのシーメンス本体だ。
次に、左の沢田会長兼社長のコメント
苦しいことは何度もあったが、過去最大のピンチだ。この苦境で海外旅行一本では危ういと痛感した。現在は複数の柱となる事業を育てている。将来は売上高に占める旅行事業の割合を現状の9割から2割に下げる。
いかがでしょう?
一方は、事業を分割し、もう一方は、事業の多角化が必要だ、としています。
正反対です。
2、コングロマリット・プレミアム
欧米では機関投資家からのプレッシャーや意思決定のスピードアップなどを目的として事業を分離する企業も多くありました。シーメンスもその一つです。
一方、ソニーを初め複合企業であることを続ける企業も多くあります。
富士フィルムと旭化成もそういった複数の事業を持つ企業です。
それぞれのトップがコメントしている記事も興味深かったので引用します。
富士フィルムHD助野社長
本業がなくなる危機に直面し、技術のたな卸しを軸に経営改革を進めていった結果が今の事業体制だ。一見、各事業はばらばらにみえるかもしれないが、すべて根っこは共通の技術でつながっている。(中略)
コロナ禍で改めて思うのは事業の多角化がリスク回避につながったということだ。投資家目線ではよく『コングロマリット・ディスカウント』といわれるが、当社の各事業は技術シナジーが大きく『コングロマリット・プレミアム』と自負している
旭化成小堀社長
これからの新たな生活様式などを考えると『マテリアル』『住宅』『ヘルスケア』の3領域で多くの経営資源を持つことは強みになる。(中略)それぞれの領域の良さがもっと結合できる状況が望ましい。
質をともなった多くのコアテクノロジーと、多様なマーケットチャネルを理解する『人財』がいて、それらがうまく『コネクト』するとおもしろい事業が創り出せるのではないか
助野社長からは「コングロマリット・プレミアム」、小堀社長からは「強み」とそれぞれ複合企業であることを強みとして認識されていることが分かります。
3、まとめ
一般的には「悪いこと」とされてきた、コングロマリット(複合企業)について見てきました。
複合企業であることが、ディスカウントにつながるのか、プレミアムにつながるのか、は1+1+1が3以上になるシナジーを生み出せるか、ということにかかっています。
単に、多角化が危機に強い、という理由だけで、シナジーが効きにくい、野放図な多角化(ちょっと前に投稿した新日鉄の多角化のように鉄鋼メーカーが下着を売るとか…)ではもちろん「ディスカウント」となってしまうでしょう。
一方で、富士フィルムHDの助野社長、旭化成の小堀社長、が、「シナジー」、「コネクト」と表現している通り、各事業の相乗効果が「プレミアム」を生むことにつながるのだと思います。
以前ご紹介したアイリスオーヤマの大山会長が著書の中で述べられている以下が端的に表しています。
自社の強みを広げるかたちで、分散する戦略を取る。(中略)「集中」と「分散」のバランスです。
自社のコアとなる価値は何で、だからこうなんだ、という確固たるものがなく、時代や外野(株主は外野ではないですね;)の声が大きくなるとふらふらと方針を変えてしまうようではいけない、ということですね。
一方で過去の成功体験が強くて頑迷になるのもいけませんし…
経営って、奥が深いです。
…なんか、人にも言える気がしてきました。自分のコアは何で、そこからどのように派生した興味やスキルなどでシナジーを生み出しているのか、いくのか…
こちらも奥が深いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
何か参考になるところがあれば嬉しいです。