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また、明日

少し前から、クランブルケーキというのが気になっていた。

私の記憶にあるクランブルケーキというのは、何やらしっとりモロモロしたものが上に載っていて、特別もう一度食べたいと思うものではなかった。この記憶は、いつのものか分からない。興味がなかったから目に入らないのか、大人になってケーキ屋さんで見かけたような気もしない。

自分で簡単なお菓子を作るようになって、クランブルケーキのレシピを目にすることはあった。でも、台を作って、フィリングを作って、クランブルをまた別に作って、と手間を考えただけで、却下していた。

最近、少し長いお話でも読むようになってきた長男のために、ドイツの児童文学「大どろぼうホッツェンプロッツ」を買った。3冊箱入りで、それには、物語に登場するクランブルの載ったプラムケーキのレシピが付いていた。長男、興味津々、作ってみたいという。プラムの季節でなかったこともあり、そうねー、またねー、くらいの気のない返事をしていた。

加えてここのところ、色々と余裕がなくて自分で作る気がしない。そんな時は、素敵なケーキの写真が載っていると、つい見てしまう。そんな中、いつも涎を垂らしながら見ている、すばらしいお菓子の作り手のみなさんのnote記事で、クランブルケーキについて書かれているのを立て続けに目にした。

中身はそれぞれだけれど、外側カリッと、中ジューシーな感じがする。…なんだか、私の記憶の中のクランブルケーキと違うんだけど。

そんな折、ニュージーランド産のJazzリンゴを買った。普段は、できるだけ国産(近場)の旬のものを食べるのを優先しているのだけど、買い物に出かけたスーパーに食べたいものがなかった。海外旅行気分でたまにはいいかと手に取ったが、やはり生食にはちょっと物足りなかった(量的にも)。次はないな、と思ったが、ふと、これはお菓子にはいいかも、と最後の2個を残しておいた。

野菜室で眠るリンゴたちを目の端に捉えては、もう食べてしまおうかな、いや、せめてジャムにでも、と思い始めたが、いやいや、せっかく置いといたんだし、とわずかに抵抗する気持ちが残っていた。そんな折、今週は雨が続いて気温が下がり、少し粉に遊んでもらう気力が出てきて、まずは簡単にパンを焼いた(もちろん、機械にセットしただけ)。焼き上がり時間の都合で、結局別のものも用意しなくてはならなくなり、お手軽にできるもの、とスコーンを焼いた(これもnoteで見て気になっていたものの一つ)。

勢いが出てきて、頭に浮かんだのがクランブルケーキだった。いい加減、リンゴもなんとかしてやらなくちゃ。さすがにその日は思いとどまったが、翌々日、たまたまぽっかり時間が空いた。手間がかかる、めんどくさそう、といういつもの囁きは何故か聞こえなかった。note偉大なり。いや、noter偉大なり。しずかさんのレシピを半量で作った。お砂糖は、いっぱい余っていたバニラシュガーを使った。

…というのが、一昨日。帰ってくると順々に、いいにおい! と目を輝かせる人たち。晩御飯の後のデザートに出した。チビさんが非常に気に入ってくれて、お代わりちょうだい! と真剣な顔で要求してきた。晩御飯後だったし、もう十分遅い時間だったから、また明日にしようと先に延ばした。かなり粘っていたけれど、出さなかった。

そして昨夜、夫に買ってもらったプリンを食後に食べる気満々だったチビさん、みんなは昨日のクランブルケーキの残りを食べると聞いたとたん、ケーキ食べる! と即答し、フォークをくれとも言わず、手で上から順にはがして食べだした。そんなにおいしかったのか、昨日の粘り様は中々だったもんねぇ、と、ちょっと呆れたようなびっくりしたような…。まだ食べたそうだったけれど、それで最後と聞くと、残念そうに引っ込んでくれた。

ところで、一日経つとやはり少ししっとりしてきて、記憶の中のクランブルケーキに近くなった。大昔よりは少し賢くなっている私、トースターで軽く焼いた。サクサクが戻ってきた。しかし、サクサクの層の下に、少しもっちゃりとした生地がある。これが若干残念な気がした。恐らくクランブルが隙間から落ちてしまって、リンゴの水分を吸って生焼けな感じになってしまったのだろう。これも味と言えばそうだが、できれば、もう少し減らしたい。隙間に落ちないように、フィリングの詰め方、クランブルの置き方に気をつけないといけないのかな、など次のことを考えているあたり、だいぶ気に入ってしまっている。次は、何を入れて焼こうかな。少し酸味のあるものがおいしそうだ。


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そんな幸せな夜のあと、今朝たまたまほぼ日のインタビュー記事を読んだ。奥野さんのインタビューはとても好きなので、あ、続きだ、と気軽に読み始めた。

中ほどより少し後に、カレーライスの話が出てくる。戦時中に材料をかき集めてカレーを作った。子どもがもっと食べたいと言ったが、また明日にしようと、先に延ばした。その後、空襲があって、子どもは亡くなってしまい、食べさせることはできなかった。

辛すぎる。

たまたま、ここのところのことと重なった。もし、チビさんに何かあったなら。あのクランブルケーキのお代わり要求の後に、何かあったとしたら。もう二度とクランブルケーキなんて作らなくなるだろうか。長男が作りたいと言っていたプラムのクランブルケーキを作らないままになるかもしれず。。。。。

もし、を言い出したら切りはない。無駄に恐れても仕方がない、とは思うものの、感染症のことやら、大雨のことやらなにやら、不安に陥ることもしばしばある。
明日が、今日の続きに何事もなくやって来ると信じられるありがたさを感じながら、今目の前にあることに丁寧に向き合いたい。ついついめんどうくさいと後回し、見なかったことにしてしまうことが、ここのところ増えているなと反省はちょくちょくしていた。しかし、無理に頑張ると続かない、と言い訳をしてしまう。
優先順位をよく考えて、今しかできないことを、できる範囲で、できれば丁寧に。年度の後半戦に向けて、少し、深呼吸が必要だ。


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