「第13話」「第14話」「第15話」
第13話 かぼちゃ男
深夜の交差点の向かい側に、かぼちゃ男が立っている。
切れかけた街灯に照らされて輪郭が乏しいが、
頭は明らかにハロウィンのそれだ。
百八十センチくらいの痩身にダークスーツ。細長いネクタイ。
ズボンの丈は寸足らずで、ウイングチップの革靴に縞柄の靴下だ。
長身のせいか、少し猫背で、三角のとがった目は上目遣いに、
僕をジッと見ている気がする。
だから全く車通りのない赤信号も渡れない。
得体の知れない視線に操られている。
くそ、かぼちゃ男め。空っぽのくせに。
その半笑いの大きく空いた口に
コオロギをしこたま詰め込んでやりたい。
第14話 タンポポ娘
先日入社した中途採用の女性事務員は、頭頂部からタンポポが一輪にゅっと出ている。
つぼみのままだ。
みんな気になっていたが、ハラスメントを恐れて口に出せない。
彼女もそんなものはないがごとくに、今日は前髪がダメとか、乾燥して髪がパサつくとか普通にふるまっている。
ちょっとした緊張が職場に漂ったまま日々過ぎていく。
ある日の企画会議に議事録担当の彼女が、行き詰った会議の沈黙をやぶって
「私にアイデアがあるんですが、発言していいですか」と割って入った。
それは画期的な案で、みんなが絶賛し拍手がおこった。
その時みんなは目撃した。
彼女の頭のタンポポが見事に咲いているではないか。鮮やかな黄色が美しい。
以来、彼女は毎々新たなアイデアを生み出し、みんなもタンポポがポンと咲くのが楽しみであった。
とうとう役員会議に呼ばれ、いつものようにとても斬新な案を述べた。
「経験のない若い者はアイデアが自由でうらやましいよ。大変参考になりました」と返された。
しょんぼり職場に帰った彼女のタンポポは綿毛になって、部長のくしゃみで飛び散った。
みんなは大慌てで綿毛を追いかけまわした。
一本の綿毛を自分の頭頂に押し付けて植えこもうとする者までいた。
もはや元には戻らない。
第15話 瓜野郎
あいつが大っ嫌いだ。あいつの面持ちはまさに瓜そのものだ。
青白く、細面でしもぶくれ。飄々としていて水臭く、大してうまみのない奴だ。
そして何よりも鼻につくのが、やけに博識というか引用癖があって、必ず
「それって、○○によると、△△ですね」と言いまわす。この受け売り野郎。
ああ、まさに受け瓜だ。そうだ。一度その鼻っ柱をへし折ってやる。
「お前は中身の無い、水っぽい中途半端な甘さの瓜の様な奴だ。何一つ自分のやったこと、できることが無い。一度でいいから熱く自分を語ってみろ。お前にはできまい。この受け売り野郎。瓜でも売っていろ」
我ながらうまいこと言ってやったぞ。
「そうですよね。今や知識なんて調べればいくらでも得られますもんね。いろんなことが知りたくて毎日本や論文を読みあさり、セミナーやフォーラムにも時間を惜しんで参加してきましたが、僕はこの先、甘いメロンになるのか、あっさりお漬物になるのか、自分でもわからないんです」
しまった。こいつは本気の受け売りだった。
「ど、どっちも美味しそうでいいじゃねえか。熟すまでがんばんな」
ペキンと折れてしまった自分の鼻は細くてうさんくさい胡瓜だ。