カツオの説明
以前、友達の知り合いのドイツ人と話す機会があった。
日本人のわたしと友達、そしてドイツ人のマーカスとルーカス。
4人の共通言語は英語だ。
とは言っても、わたしは中学高校6年間も英語の授業を受けてきたのに全く英語が話せないという、ニッポン教育界の問題点の縮図のような人間だ。
会話の不自由さは否めない。
マーカスとルーカスは、日本が大好きで、日本語を勉強中という。
日本の漫画やアニメはドイツでも大人気。
ポケモンはピカチューとピチューの2種類しか知らないわたしなんかより、マーカスとルーカスの方がよっぽど日本文化に親しんでいる。
ルーカスはひらがなを一つずつ覚えていて、すでに15文字書けるようになったそうだ。
五十音順に覚えており、一番最近覚えたのは「そ」らしい。
『「そ」はなぜ2種類あるの?』
ルーカスは言う。
よくよく聞いてみると、1画で書く人と2画で書く人がいることを疑問に感じていて、どちらが正しいのか知りたいと。
学校で習ったのはたぶん1画だったと思うけど、何となくわたしは2画で書いている、と答えた。
「なぜ学校で習ったのと違う書き方をするの?」
ルーカスの疑問は止まらない。
Why Japanese?
この時何となく思ったことは、外国人と話すということは、その外国人にとって、わたしは日本代表ということだ。
富士山の高さや東京タワーの高さ、江戸幕府がいつ終わったのか、日本の国土面積、国旗の日の丸の由来、着物の着付け。
日本人ならすべて知っていると思われている。
こうなったらわたしは、日本代表としての自覚を持たざるを得ない。
英語だけでなく歴史も苦手なわたしは、食文化で勝負するしかない。
日本といえばお寿司というくらい、日本は海鮮が美味しい。
外国では魚を生で食べることが少ないということは知っていたので、美味しい魚を教えてあげることにした。
マーカスは言う。
「あなたはどの魚が一番好きなの?」
一番と聞かれると困ってしまう。
鯖も鮎も好きだが、生で食べるとしたら、鰹か。
藁で燻した鰹のタタキを、たっぷりの薬味と玉ねぎで戴く至福のひとときを、ドイツ人はきっと知らない。
分からない単語を考えても仕方ない。
こうなったら鰹の特徴を説明するしかない。
First spring.(まずは、春。)
Second return summer.(次は戻ってくる、夏に。)
破滅的な文法でしか話せないのに、旬が2回あるという鰹の特徴である「初鰹」と「戻り鰹」の説明から入ってしまった。
首を傾げるマーカスとルーカス。
何か他の特徴を。
タタキの美味しさを。
Uh〜〜〜〜.
First spring.(まずは、春。)
Second return summer.(次は戻ってくる、夏に。)
そもそも「初鰹」と「戻り鰹」なんて、日本語であっても、どこまで正確に説明できるか分からない。
鰹の旬の説明は早々に諦めて、別の角度から説明することにした。
Hot dance.(熱い、踊る。)
Cold not dance.(冷たい、踊らない。)
鰹節も歴とした鰹だ。
ますます困惑するマーカスとルーカス。
ハラハラと踊る鰹節。
お好み焼きをお好み焼きたらしめているのは、ソースでもない、青のりでもない。
鰹節だ。
Uh〜〜〜〜.
Hot dance.(熱い、踊る。)
Cold not dance.(冷たい、踊らない。)
On the Okonomiyaki.(お好み焼きの上で。)
大きな栗の木の下で、みたいに言ったところで、伝わらないものは伝わらない。
もしこれで伝わったとしても、「なぜ冷たければ踊らないのか?」とさらに質問攻めにされることは目に見えている。
冷めたお好み焼きの上で鰹節が踊らないことなど、日本語でも到底説明できようもない。
今度ドイツ人に会う機会があったら、聞いてみたい。
ソーセージとウインナーは何が違うのか。
腸に肉を詰めるなんて一体誰が言い出したのか。
プレッツェルはなぜあんなにねじねじしているのか。
まっすぐではいけないのか。
ねじねじしてる方が美味しいのか。
Why German?
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さて、次回の #クセスゴエッセイ は
「松坂先生に謝りに行こう」
をお届けします
お楽しみに〜
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