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現代俳句 切れ字不使用作品 200句 〜切れ字を使わない作品集〜

現代俳句
切れ字不使用作品集 200句

2020年発表の下記の句集のなかから、

「切れ字を使用していない句」

だけを選んで200句にまとめました。


「口語体、現代仮名遣い」を基本にして、

主立った「切れ字」は使用せず、体言切れの句、切れのない句などだけで句集をつくるとどのようになるのか

その良い点、強み、プラス面
その悪い点、弱み、マイナス面

には何があるのか

また切れ字とは
そもそも何のためにあって
どのような歴史的経緯で獲得され
俳句がそれを放棄することで
どんなリスクが生じるのか

などの疑問から
今回、実験的にまとめてみた作品集です。

楽しんでご覧いただければ幸いです。

※作品はすべて既発表句です
※順次改訂します


現代俳句
切れ字不使用作品集

◇ 春の章 ◇

にっぽんのかおりの梅の花ひらく


大ぞらを描いている画家春が来る


梅いちりんにりんさんりん天満宮


一つ一つちいさな地球木の芽吹く


せんせいにせんせいがいて梅の花


イヤホンにぽんと触れれば春の歌


航跡は消えのこるみちかぜひかる


コンビニがうつくしい夜ぼたん雪


一重咲き八重咲きすべて牡丹の芽


北を見ればどこまでも北鳥かえる


ふるさとがみえてくるのは春炬燵


家族写真とおいむかしの春のまま


凧の空この村はまだだいじょうぶ


てのひらに落ち街に落ちぼたん雪


春満月そうつぶやいてしまうほど


飾り雛流行りやまいもなんのその


大空をひっくりかえしつばめとぶ


鳩の空いのち見あげるあたたかさ


じんせいにときおりよい日梅の花


寝について奈良は蛙のこえのなか


目にうかぶ満開のそらはつざくら


つかのまのへいわながらも花の宴


にぎやかに来て沈黙のやまざくら


家建ててそれからながい春のゆめ


あかん坊がはっと泣きやみ春の雷


亡くなって形見のようにはるの月


おおさかを出ておおさかは春夕焼


なにがある大山があるあさざくら


地球から借りたからだで野に遊ぶ


夜行バスはしりゆく先春あけぼの


目ひらいて花目つむって花ふぶき


行く日々ののこりの一つさくら餅


夜のそらをくらくともして花の宴


母子草はっとこころをとりもどす


ふるさとの山ふるさとの山ざくら


たからづか歌劇場じゅう春のうた


一人静咲けばかまくらものがたり


ロケットが飛びたった空まさに春


コーヒーのかおり千年おぼろの夜


ポーカーのそれぞれの顔どこか春


マンションの春灯やがて星のなか


風になること雲になること遍路杖


豊じょうのゆめひとにぎり春の土


今日までのじんせいすべて春の月


赤く咲いてなんのきざしの沈丁花


えんそくの子を海がよぶ山がよぶ


時計台かげながながとはるのくれ


おもいだすあの灯あの町おぼろ月


つぎつぎと引いてゆく波春惜しむ


このほしもほしぞらのなか蛙鳴く


◇ 夏の章 ◇

顔あげていた夏ブルーインパルス


こころごと押しひらくまど風薫る


たけが生え朔太郎忌をたけが生え


傘さしてたたずむ人もかきつばた


世のなかをあらい流して梅雨の月


梅雨晴れてこころの底の水たまり


いち族の写真いちまいほたるの夜


蟻いっぴき葉のさきに立つ大自然


鼻うたは初恋のうた白シャツ干す


あおぎみてひとのかずだけ夏の月


金魚玉ゆらりといのちひるがえり


目つむれば好きな人びと風鈴聴く


空よりもとおくを見つめソーダ水


にぎやかにやがて静かに夏季講座


選手立つ空あおあおと飛び込み台


せみしぐれ「こころ」一冊机の上


じんるいのはんぶん眠るなつの月


見て億千見つめてひとつなつの星


ひろびろと見えるかぎりの海開き


神木を見あげるひとにみどりさす


はたらいてひと代ひと代の青田風


寝ころんでうちゅうに一人夏座敷


ゆびさきでふれてひやりと金魚鉢


飛びたっておもたい尻のこがね虫


教会のひっそりとして薔薇のなか


ふるさとの大きさほどの神輿行く


日本じゅうおなじじだいを夕涼み


このあたりすでになつぞら熱気球


衛兵がすっくすっくとあるく夏至


ハンモックほしのせかいは無限大


生き死にの音ひびかせて蝿たたく


京ふうりん一代ごとのものがたり


縄文遺跡いちまんねんの蝉しぐれ


わか葉してむかしをいまに東大寺


見つづけてとおくなりゆく滝の音


もくもくと雲もくもくと田草取り


飛びこんでちいさなしぶき太平洋


サーファーに妻と子がいて暮の浜


とびうおが飛んできらきら一億年


かいきょうをまたぐ大橋けさの虹


瀬戸内のうみまっしろに西日さす


盛りつける手ゆびやわらか冷素麺


うれしさをざくざくくずすかき氷


ひとびとがうつくしいのは祭の夜


罌粟の花ひとつひとつがゆめの中


蟻の列すすむいのちのものがたり


ケルン積んで山のむこうも青い山


滝こだま山ふかければふかいほど


人類のまつえい一人キャンプの火


飛んでゆくいち羽いち羽が大夕焼


◇ 秋の章 ◇

大ぞらのどこからとなく小鳥来る


いつの世もまえへまえへと阿波踊


顔照らす花火きえてはまたひらく


あかるくてこの世あの世の大花火


虫鳴いて生死の果てのかぜのおと


かがやいて地球ひとつぶつゆの玉


ひとり行く花野いつしか夢のなか


屋根屋根に日ざしがしみて峡の秋


千光寺千々のひかりのつゆむすぶ


山やまをぐるりとうつすつゆの玉


さまざまのあかをつくして紅葉山


しずけさのきわみに夜の団扇置く


ほんとうはしずかな地球虫のこえ


生きること死ぬこと天の河のした


天文台夜々落ちかかるあまのがわ


秋嶺のこだましばらくしてかえす


巻き上げて東京があるあきすだれ


ぐちの屋台わらいの屋台ぬくめ酒


母のこえ子のこえ虫のこえのなか


ぼんやりと灯ともる霧が佐渡ヶ島


工場をうつくしくしてあかとんぼ


手にすくう近江のけしきみずの秋


釣りざおのさきまで暮れて秋の浜


果てるのは一日果てないのは秋思


一枚の間を吊りさげてあきすだれ


草原に日のあるかぎりばったとぶ


スカイツリー真ん中に置き流れ星


タクシーに乗ってここから先は秋


奏上のこえに夜明けてあきまつり


たびびともすすきの穂わた草千里


林檎もぐ空からあたえられるまま


らい世にはらい世の悩み曼珠沙華


釈迦の弟子るいるいとして鐘の秋


ゴスペルにブルースレゲエ長い夜


いちまいの大ガラスまど鳥わたる


手につつむ楽茶碗よりあきのこえ


ひとり来てひとりのままの秋の浜


たちあがるリス二三匹木の実降る


飛騨のバス霧にあらわれ霧にきえ


いねを干す戦前戦後きょうあした


既視感のなかにたたずみ赤とんぼ


たくさんの船たくさんの秋の暮れ


バックパッカーゆく国々の秋夕焼


待たされて月スクランブル交差点


横断歩道のまんなかあたり秋の風


ぼうえんきょう木星土星あまの河


ほしぼしがながれてここに天球儀


すすき原ふりかえってもすすき原


フライパン火にかけどおし豊の秋


ウイスキーはるかな国の秋のいろ


◇ 冬の章 ◇

つぎつぎと雲がとびゆき冬に入る


目つむってこたつは心羽ばたかす


踏みしめてひとりのおとの落葉道


踏み抜いてひとりおどろくはつ氷


鬼がわら目をみひらいて霜の屋根


今日までの旅今日からのかえり花


いちまいのそらどの家も布団干す


ふたとって鍋ぐつぐつとにほん海


かがやいてどれもしんじつ冬の星


枝さきをぽたりぽたりとふゆの霧


おどろいて水さわぎだす浮き寝鳥


村長のかげとひかりの日なたぼこ


あしあとが散らばって行く雪の門


平和とは燃えやすいもの聖樹立つ


いきいきとれきしの果ての聖夜劇


湯ざめして星がかがやきだす故郷


アメリカがひとすじ冬の飛行機雲


五重の塔五重をつたうふゆのあめ


さいげつをみおくることが落葉焚


ボイジャーは今どのあたり冬銀河


また一人湯をぬぎすてて冬至風呂


さっそくに空を晴らして門松立つ


いちねんがここにおちつく落葉焚


だいぶつのいちねんの黙年のくれ


一つついて年をつらぬく除夜の鐘


照らされてそれぞれの顔初日の出


あいさつのいち語いち語が花の春


また一人鳩羽ばたかすはつもうで


一人住むひとりながらも雑煮の香


撒きまいてしおの花咲く正月場所


もち伸びていつまでとなくお正月


焼き芋屋この世のひとはすべて客


空港はちきゅうとひとつ冬夕映え


とおい島寒ゆうやけとともに消え


プロキオンカペラシリウス庭焚火


AIが見つめている世雪降りだす


雨やんで足あとまみれラグビー場


フェリー行く島ひとつずつ雪景色


あかん坊の這い這いの旅春まぢか


ロボットがひょこひょこ歩く春隣


絵ぶすまのなかにも一人旅のひと


掛け軸のなかから消えた雪おんな


手のひらに黙にぎりしめふゆの土


子どもらの口からも湯気おでん鍋


さいごにはすべてをくべて夕焚火


ホットティーホットコーヒー婚話


凍てながら白いしぶきを那智の滝


犬がきえ犬小屋がきえふゆすみれ


あなたとのけんかもいずれ春炬燵


いっぽんのまんねん筆も春を待つ


いつも
ご覧いただき
ありがとうございます


◯俳句の基礎から
自由になろうとしてきた歴史

俳句の基礎は
「575の型、季語、切れ字」
とされています。

俳句の歴史上で
それらから自由になろうとして、

575の型を崩したのが「自由律俳句」

季語を崩したのが「無季俳句」

そして現在にかけて
切れ字を崩そうとする活動もあるようです。

それが良いか悪いかは別にして、「自由律俳句」「無季俳句」の例のように枝分かれした俳句になっていく可能性も一方であるのかもしれません。


◯俳句の切れ字

◇古典的切れ字 十八字
鎌倉~室町時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・に・へ・せ・
ず・れ・け・ぬ・つ・し・じ・らむ・もがな

◇古典的切れ字 二十二字
安土桃山時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・こそ・ぬ・し・
じ・む・を・は(ば)・さぞ・いさ・いつ・
いかで・いづれ・いく・もなし・もがな・げぢ

◇現代的切れ字 の候補 
よ・か・ぞ・と・に・へ・せ・で・まで
ず・れ・け・た・が・て・は・な・こそ、等


下記は、俳句における
文語・口語の大まかな図です

◇文語=文語体=古典語=古い時代の文体

◇口語=口語体=現代語=書き言葉
         ∟==話し言葉

◇仮名づかい 歴史的仮名遣い 現代仮名遣い



*主立った切れ字を使用していない作品を集めました

*2020年公開の句集から作品を選んでまとめたものです

*解説などについて、至らない点、十分に書きつくせていない部分もあると思いますがご容赦ください

*俳句については個人、団体によって様々な考え方や見解があります


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