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現代俳句 作品集 〜700句〜


現代語を基本にした俳句集です。

現代語・現代仮名づかい・現代的切れ字を基本にして詠んだ句を集めました。

お時間があるときにご覧になってみてください。


下記の古典語や歴史的仮名づかい・古典的切れ字を使っていないこともご確認ください。

や・かな・けり・たる・たり・なる・なり・あり・をり・ぬ・べし・にて・らむ・けむ・とや・てふ・ゐて・ゐし・し・き・等々

また現代語(口語体)で俳句を詠むと俗・稚拙になるのかについても検証など行ってみてください。

※作品はすべて既発表句です
※順次改訂していきます


現代俳句
作品集
〜700句〜

◇ 春の章 ◇

にっぽんのかおりの梅の花ひらく

つぎつぎとそら染めてゆく紅梅か

伊勢神宮おおきな春の日だまりに

木々の芽のひとしずくずつ雪解よ

大ぞらを描いている画家春が来る

春立つかひがしに筑波にしに富士

来る春よ蛇口を落ちるみずのおと

うぐいすの空をひらいてゆく声よ

梅いちりんにりんさんりん天満宮

かもめとぶ沖にまで春およんだか

はるの海初心がしんとあるだけよ

さいげつを波があらうかさくら貝

一つ一つちいさな地球木の芽吹く

きたぐによ木の芽はひとつずつ光

つぎつぎにえだ咲きのぼる白梅よ

せんせいにせんせいがいて梅の花

イヤホンにぽんと触れれば春の歌

輪郭がだんだん富士よ春あけぼの

航跡は消えのこるみちかぜひかる

おおごえで売っているのは春告魚

うぐいすよ鳴きやむ平和鳴く平和

春の鹿そらへさびしいかお上げよ

えいえんにはるのゆきふる法隆寺

鐘ついて余寒のそらをふるわすか

コンビニがうつくしい夜ぼたん雪

さす傘につもりつもらずぼたん雪

ひとすじにひかる大河の雪解けよ

さんじゅうは咲きでてくるか庭椿

一重咲き八重咲きすべて牡丹の芽

生きるとは後ろすがたか利休の忌

ちんもくよやがてしずかに春の滝

北を見ればどこまでも北鳥かえる

ふるさとがみえてくるのは春炬燵

家族写真とおいむかしの春のまま

小ながれがもつれあってよ春の川

凧ひとつぜっちょうにある夕空よ

凧の空この村はまだだいじょうぶ

にわとりが跳び闘うぞかぜひかる

古代碑の一つしずかにかげろうか

じんるいのゆめのはじめの畑打よ

たね蒔きよ日あたっている金峰山

てのひらに落ち街に落ちぼたん雪

船旅よみなとみなとのはるかもめ

かもめらよ知り得もせずに春の海

草もちのよくのびてこそひとり旅

春の富士羯鼓がひびきだすように

うららかよ富士麗かようららかよ

ひと吹きでもう晩年よしゃぼん玉

春満月そうつぶやいてしまうほど

ぼんぼりよあかるくくらく飾り雛

飾り雛流行りやまいもなんのその

流し雛うしろすがたであってこそ

海女ひとりふたり歴史の波の間に

さえずりがさえずりをよぶ島々よ

大空をひっくりかえしつばめとぶ

春の海見るおんがくということか

和歌よふと生きているかに西行忌

西行のおもいのこしのない忌こそ

鳩の空いのち見あげるあたたかさ

じんせいにときおりよい日梅の花

目つぶって蛙もきっとうららかよ

田の蛙かおだけだしてゆうばえて

寝について奈良は蛙のこえのなか

そよかぜよ空ふるわせて初ざくら

目にうかぶ満開のそらはつざくら

無になってながめる花よ花のなか

つかのまのへいわながらも花の宴

ふぶきだすそらいちめんよ大花見

どの人も花とふぶいていることよ

あおぎみて花あおぎみてよしの山

にぎやかに来て沈黙のやまざくら

花見してはるばると時こえゆくか

夜ざくらよ月とも違うほのあかり

総本山に喝がひびいてのどかさよ

自動運転木の芽の道をまっすぐに

そうぞうがそのまま都市に春の月

にしのそらひがしのそらよ凧合戦

とおぞらはひとえにとおく連凧よ

八重桜世がながながとあかるいぞ

家建ててそれからながい春のゆめ

あかん坊がはっと泣きやみ春の雷

坂みちよ傘のしんまではるのあめ

死も生もかなしいことよしじみ汁

亡くなって形見のようにはるの月

オカリナか山河にひびく春のおと

千ねんとむきあう京ののどかさよ

春ショール天の香久山とおく見て

そよかぜよ天地吹きまぜ花すみれ

淋しさの行きつくところ奈良か春

いにしえの奈良のみやこの鐘か春

いままさに春日大社であることよ

おおさかを出ておおさかは春夕焼

生きるとは目が覚めること百千鳥

なにがある大山があるあさざくら

わらわらと五百羅漢がかげろうぞ

若草か野はらから立ちあがるひと

熊本は阿蘇をはじめののどかさよ

とぶ蝶よ白とも黄ともひかりとも

地球から借りたからだで野に遊ぶ

咲きのこる一つ二つよわすれな草

こえのかずだけのあしたよ卒業歌

そのはてにわらいがでたか卒業生

夜行バスはしりゆく先春あけぼの

スカイツリーふぶく桜の上にこそ

あしもとをさらさらながれちる桜

たくさんのはなびらのなか花見舟

こんなにもそらふぶくとは花見舟

目ひらいて花目つむって花ふぶき

木の下よちってもちってもちる桜

行く日々ののこりの一つさくら餅

夜のそらをくらくともして花の宴

こでまりよ咲き越えている塀の上

ペルシャ猫ふわりと立上がる恋か

都市の空はるばると越え黄砂降る

この町よ春そのままにコーヒー店

母子草はっとこころをとりもどす

ふるさとの山ふるさとの山ざくら

せとないかい島からそらへ春の虹

世をつつむはるゆうやけの安心が

灯台よ瀬戸いっせいにはるのくれ

群燕おおさかへまたとうきょうへ

じてんしゃに鳩に都会にはるの空

たからづか歌劇場じゅう春のうた

指揮棒もはずむオーケストラよ春

バンクシーの絵を飛立った風船よ

一人静咲けばかまくらものがたり

花虻につねにいちりん揺れやまず

ロケットが飛びたった空まさに春

原子力はつでん所ごとかげろうか

ライオンが恍惚といるのどかさよ

コーヒーのかおり千年おぼろの夜

おぼろとはこの世のことか歓楽街

ポーカーのそれぞれの顔どこか春

マネキンのとわの静止よぼたん雪

はるのほしいくせんまんよ天文台

旅客機よおおきなはるの月のなか

むかしからむかしのままか春の月

マンションの春灯やがて星のなか

この星に朝来つづけてさえずりよ

さいげつのひとつひとつよ落ち椿

風になること雲になること遍路杖

顔上げていのちかんじている春よ

飛びまわる春のからすも淋しいか

来る川のながれにかげよのぼり鮎

生きてゆくふる里じゅうの春灯と

家いえよいちおくにんにはるの月

大ぞらのまんなかにある巣箱こそ

耕人にかわりつづける世のなかよ

たがやすか夕日のなかに影ひとつ

豊じょうのゆめひとにぎり春の土

若草よやがてみどりの北アルプス

今日までのじんせいすべて春の月

立ちあがるひと湯柱かはるの風呂

手あわせてみなかげろうか湯神社

ゆうびん夫届けてまわることよ春

ひるがえる黒また白のつばめらよ

つばめの巣ふえゆく声を見守るか

義手にみらい義足にみらい風光る

かけてゆくじゆうな子らよ春日傘

赤く咲いてなんのきざしの沈丁花

平和さよ雨あがるたびしゃぼん玉

吹いている一人一人がしゃぼん玉

ぜっぺきよしぶきをそらに春の滝

釣りびとも大きな海ののどかさよ

えんそくの子を海がよぶ山がよぶ

ぼうぜんと漁夫こつぜんと蜃気楼

かえりくるふねいくつもよ蜃気楼

時計台かげながながとはるのくれ

おもいだすあの灯あの町おぼろ月

あおあおと島あおあおと瀬戸よ春

日に風にまかせる島よわかめ干す

つぎつぎと引いてゆく波春惜しむ

まんげつをひとつ残して春ゆくか

このほしもほしぞらのなか蛙鳴く

ほしぞらよちきゅうひとつが遠蛙


◇ 夏の章 ◇

明あかとあけてゆく世の赤富士か

こころごと押しひらくまど風薫る

家二軒ひびきあうかにふうりんよ

顔あげていた夏ブルーインパルス

葉ざくらのかげよひかりよ写生帳

鯉のぼりあおい山河をおよぐ日よ

こいのぼりのぼりゆくかに川風よ

踏切りがかんかん鳴って夏来るか

白扇よだいじにつかうこのからだ

黄の蕊のうずもれるまで牡丹咲く

さいげつよあともどりなく衣更え

地上へと土もちあげるたけのこか

たけが生え朔太郎忌をたけが生え

傘さしてたたずむ人もかきつばた

あめんぼよながれる雲よ水のうえ

世のなかをあらい流して梅雨の月

街じゅうをわれにかえらす落雷よ

降りしきる音のおもさよ梅雨の家

梅雨晴れてこころの底の水たまり

あきこ忌の明星ひとつかがやくか

咲きみちてあじさいいろの鎌倉か

しみこんで大ぞらいろの濃紫陽花

いち族の写真いちまいほたるの夜

喜をかたり悲をかたりして蛍の夜

邪馬台国ほたる今宵も舞いだすか

星のさいげつ人のさいげつ蛍とぶ

月というこころの涼のおおきさよ

まっ白な蝉つぎつぎと生まれ出て

手に手によ苗束ゆれる田植えどき

なんという空のひろさよ田植あと

日の丸が空にはたはた梅雨明けか

遠くからながめる富士の涼しさよ

蟻いっぴき葉のさきに立つ大自然

大岩に触れた手からもしたたるか

鼻うたは初恋のうた白シャツ干す

そのなかに揺れるみらいよ香水瓶

まいにちがかおりはじめて香水よ

あおぎみてひとのかずだけ夏の月

金魚玉ゆらりといのちひるがえり

おおぞらをとおくきよめて風鈴よ

目つむれば好きな人びと風鈴聴く

子供らの手話もにぎやかソーダ水

空よりもとおくを見つめソーダ水

にぎやかにやがて静かに夏季講座

さっと書く風という字の涼しさよ

ハードル走次つぎと夏こえゆくか

選手立つ空あおあおと飛び込み台

伊予鉄道たかはま線の果てよ夏至

しずかさをひびかせている風鈴よ

せとうちよ島ひとつずづわかば山

せみしぐれ「こころ」一冊机の上

ゆうだちのあと夕映えをゆく船よ

航跡のせとないかいよなつの暮れ

銀天街灯のすずしさのきわまって

じんるいのはんぶん眠るなつの月

北極星夜ごとひとつのすずしさよ

見て億千見つめてひとつなつの星

たかだかと見えるかぎりの山開き

ひろびろと見えるかぎりの海開き

山寺が鳴いているかにせみしぐれ

目つむれば閑のせかいよ蝉のこえ

かっこうのこえ山の声かもしれず

おのみちは会釈の町よせみしぐれ

鮎のぼる川のこれまでこれからよ

来る河のながれは絶えず鮎がとぶ

神木を見あげるひとにみどりさす

はたらいてひと代ひと代の青田風

かじりつくトマトたとえば水の玉

ほおばった人ほほえます明日葉よ

寝ころんでうちゅうに一人夏座敷

ゆびさきでふれてひやりと金魚鉢

飛びたっておもたい尻のこがね虫

教会のひっそりとして薔薇のなか

生きるとはただ生きること炎天か

アイスティー氷からんと静かさよ

ふるさとの大きさほどの神輿行く

日本じゅうおなじじだいを夕涼み

みずからを懐かしみつつ手花火よ

手花火よ一人消えまたひとり消え

この都市もゆめみる都市か夏の月

世も人も変わりかわらず夏まつり

このあたりすでになつぞら熱気球

衛兵がすっくすっくとあるく夏至

きらきらと清濁の世にふんすいよ

さざなみのいくせんまんよ浜日傘

ダイバーのまわりはなやか熱帯魚

ハンモックわかる地球の大きさが

ハンモックほしのせかいは無限大

生き死にの音ひびかせて蝿たたく

聴くまではきこえず坂の蝉しぐれ

東京タワー灯が朝焼にかわるまで

富士の山すえひろがりの涼しさよ

ひとの列そらへそらへと夏の富士

写生紙をはみ出してこそ富士は夏

新幹線富士過ぎてゆくすずしさよ

この世から消えてもきえず京の虹

京ふうりん一代ごとのものがたり

すずしさのまんなかにたつ銀閣か

蓮いちりんいのり代表するように

通天閣おおさかいちのすずしさよ

ゆめを追うらくご家たちよ白扇子

街のおと神輿あらぶりはじめるか

押し寿司よ祝いのことばただ一言

縄文遺跡いちまんねんの蝉しぐれ

いただきに堂おいて山したたるか

生きてきた眼にありありと蟻地獄

大阪は灯でできているすずしさよ

ほしぞらも旅館のうちか河鹿鳴く

死のさきに生見えてくる手花火よ

わか葉してむかしをいまに東大寺

せんねんがきこえくる寺蝉しぐれ

いっぽんのゆびとたわむれ風鈴よ

腹わたにとどろく滝であってこそ

見つづけてとおくなりゆく滝の音

人として梅雨のなかゆく熊野古道

これ以上踏みいらず山ほととぎす

故郷までつらなって山ほととぎす

そのはてに都市いくつもよ夏の河

草笛は吹いてこそ野は晴れてこそ

もくもくと雲もくもくと田草取り

どの田にもひとりふたりよ大夕焼

町じゅうがひとつにけぶる夕立よ

八雲立ついずも八重がき虹ふたえ

スサノオかオオクニヌシか雲の峰

飛びたったてんとうむしは大空か

広島とせかいのそらにふんすいよ

戦争よとおのいてゆくせみしぐれ

うなばらよ壱岐島ひとつ蝉しぐれ

飛びこんでちいさなしぶき太平洋

平およぎ海をひらいてゆくことよ

巻き波よサーファー斜め四十五度

サーファーに妻と子がいて暮の浜

えいえんに明日あるような夏浜よ

とびうおが飛んできらきら一億年

うみがめとともに月あるすな浜よ

かいきょうをまたぐ大橋けさの虹

麦笛よあしたへつづくじんるい史

空ほどにひろがる海よヨットの帆

瀬戸内のうみまっしろに西日さす

やわらかに日焼を洗いながす手よ

一人一人孤独でアイスコーヒーで

アイスコーヒー氷残してまた街へ

もてなす日おおきくひらく冷蔵庫

盛りつける手ゆびやわらか冷素麺

ひるがおがつぎつぎに咲き海の音

かぶと虫角振りながら生まれるか

からだじゅう光りまみれよ夏の川

ひまわりに凝縮されるいちにちよ

うれしさをざくざくくずすかき氷

あしたとはとわにとおくに大夕焼

麦笛よふるさとわすれわすれられ

いちぞくとそらへだててよ夕涼み

ひとびとがうつくしいのは祭の夜

ふうりんよ時代時代のかぜのおと

柔らかにふれればともる夏の灯よ

かみなりよポポととびだす鳩時計

のれんかけて時ながれだす鰻屋か

蛇口からしたたるみずよ夏のはて

芝に寝てすべてわすれていく涼よ

罌粟の花ひとつひとつがゆめの中

蟻の列すすむいのちのものがたり

ひきがえるどっしり命そのものか

登山杖かつかつと行くおおぞらよ

登山とは空をあるくということか

日の光りさしこんで谷ほととぎす

ケルン積んで山のむこうも青い山

ちんもくがただながながと蟻の列

滝こだま山ふかければふかいほど

玉落ちてなにかが終わる手花火よ

人類のまつえい一人キャンプの火

満天に神話かがやきキャンプの火

うちゅうにもある物語ふうりんよ

アルバムの最後のページやがて秋

飛んでくるいち羽いち羽が大朝焼

飛んでゆくいち羽いち羽が大夕焼


◇ 秋の章 ◇

大ぞらのどこからとなく小鳥来る

スカイツリー空新涼ということか

秋風鈴かぜになりつつあることよ

手にとってこの世しずまる桐一葉

都市たかく灯ともってこそ流星群

月を見て三日こころのしずかさよ

なにもかもひかりに消えた原爆日

原爆ドームその日を語り続けるか

そのおくにナガサキがある大夕焼

五重塔ひぐらしのこえつぎつぎよ

目つむって天上を聴くひぐらしよ

ひぐらしの澄みわたるこえ仏国土

ひとにみちじぶんにみちよ墓参り

よさこいの踊子としてひるがえれ

いつの世もまえへまえへと阿波踊

手すすめていっ歩も引かず阿波踊

生きわかれ死にわかれてよ盆の月

そのしたにかおかおかおよ大花火

大花火どどんとへいわつらぬけよ

顔照らす花火きえてはまたひらく

あかるくてこの世あの世の大花火

えどがわよぱらぱらしだれ大花火

盆踊りいまの世でまたのちの世で

どのひともいつか灯となる流灯よ

とおのく灯わすれわすれず流灯会

虫鳴いて生死の果てのかぜのおと

虫のこえ星ぞらほどににぎやかで

さまざまななやみのこたえ朝顔よ

かがやいて地球ひとつぶつゆの玉

手にさわぐコスモスという風の束

ひとり行く花野いつしか夢のなか

菊いちりん今へとつづく香りこそ

屋根屋根に日ざしがしみて峡の秋

吹きぬけて風いろづくか曼珠沙華

はばたいてひかりふりまく秋蝶よ

千光寺千々のひかりのつゆむすぶ

山やまをぐるりとうつすつゆの玉

まっすぐに立ててすすきの生花か

城あとよ風にただようあかとんぼ

赤とんぼどれも夕陽ののこり火か

さまざまのあかをつくして紅葉山

しずかさがきこえてくるか秋の滝

道わかれ人わかれてよあきのくれ

木にとまる鴉は暮れずあきのくれ

にっぽんのおおかたは山虫のこえ

にわにすむこおろぎも子々孫々と

鳴くほどにしずまってゆく虫籠よ

草津には月がにあうということか

しずけさのきわみに夜の団扇置く

ほんとうはしずかな地球虫のこえ

ほしぞらがしだれてくるか七夕竹

再会よだまっていてもほしづき夜

生きること死ぬこと天の河のした

天文台夜々落ちかかるあまのがわ

静かさのはじめの夜よたなばた竹

大宇宙をものおもいして灯の秋よ

靴のおとどのじんせいも霧のなか

かわらない村にかわらず小鳥来る

秋嶺のこだましばらくしてかえす

巻き上げて東京があるあきすだれ

ぐちの屋台わらいの屋台ぬくめ酒

ほがらかにわらいだすのが今年酒

台風がもっとも泣いているそらよ

傘にも灯路上にも灯よあきのあめ

あかとんぼダムの放流とどろくか

母のこえ子のこえ虫のこえのなか

ぼんやりと灯ともる霧が佐渡ヶ島

自転車のひとりひとりがあきの雲

工場をうつくしくしてあかとんぼ

えんとつよあがるけむりも秋の空

身にしみる大きな空のさびしさが

芋煮会なべもわらいもわいてこそ

船に風まったくもってさわやかよ

手にすくう近江のけしきみずの秋

釣りざおのさきまで暮れて秋の浜

たかだかとこころがのぼる名月よ

また一人あかるみに出て十五夜よ

屋じょうのきょうの高さよ望の月

果てるのは一日果てないのは秋思

鑑真の目にまんげつのあかるさよ

古じんらのおもいのこしの名月よ

一枚の間を吊りさげてあきすだれ

こおろぎよふるさとという夜の闇

応援団長天よりたかいこえをだせ

バス発って落ちてきたのは桐一葉

草原に日のあるかぎりばったとぶ

親のことおもいはじめる十六夜よ

いちねんを忘れはじめの十六夜よ

スカイツリー真ん中に置き流れ星

屋じょうよいまオリオン座流星群

タクシーに乗ってここから先は秋

このいえのいくとしつきが柿の秋

ふるさとのおおぞら露の玉のなか

杖のおと歩をきよめるか秋へんろ

奏上のこえに夜明けてあきまつり

宮神輿ほうじょうの秋そのものか

さし上げてだれよりたかく秋神輿

もの思う秋をはるばるとんびとぶ

空よりもしずかに銀杏散ることよ

あきの雲旅はなににもこだわらず

たびびともすすきの穂わた草千里

空じゅうの綿に夕陽よすすきはら

大ぞらを引っぱりつつよ林檎もぐ

林檎もぐ空からあたえられるまま

ずっしりとあきのそらとぶ熱気球

顔上げてぐるりいちめんいわし雲

千々にある島も紅葉のあかるさよ

白菊がまっしろに咲く日なたこそ

らい世にはらい世の悩み曼珠沙華

釈迦の弟子るいるいとして鐘の秋

撞く影よゆうぞらじゅうが鐘の秋

飛鳥寺そのむかしからあきのくれ

つぎの代つぎの代へとばった飛ぶ

図書館のさいげつ黄葉してゆくか

秋光のひとつひとつよくだもの籠

踏切りのおともしずかか秋のくれ

夕風よ吹きよせてくるすすきはら

日がさしていろとりもどす紅葉谷

星あかりたたずむ橋の名もしらず

神戸という銀河今宵もきららかに

住む街が問いかけてくる秋の灯よ

灯の家よあかるくくらく地虫鳴く

ゴスペルにブルースレゲエ長い夜

みの虫のちんもく星のちんもくよ

一人見て名残りの月ということか

いちまいの大ガラスまど鳥わたる

手につつむ楽茶碗よりあきのこえ

秋へんろわすれられつつ旅ゆくか

杖ついて無になり行くか秋へんろ

ひとり来てひとりのままの秋の浜

いちにちの余情のなかよ赤とんぼ

遠として雲いくつもよあきのくれ

手にとってひとりのこころ鬼胡桃

木にとまる鳶したたるか秋のあめ

採るほどに恐ろしいのがきのこ山

たちあがるリス二三匹木の実降る

飛騨のバス霧にあらわれ霧にきえ

水澄むということとおい湖国まで

雲あおぐ畑の案山子よかげ日なた

うなばらを船ひとつゆく露けさよ

ほんもののひびきか奈良の秋の鐘

京よりも奈良のふかさよあきの色

いねを干す戦前戦後きょうあした

雁の列みだれてはまたととのって

既視感のなかにたたずみ赤とんぼ

たくさんの船たくさんの秋の暮れ

露踏んで西へひがしへじんるい史

富士ひとつ吹きのこしてよ秋の風

そのしたは旅びとばかりいわし雲

一馬身ぬけだす騎手よあきのかぜ

バックパッカーゆく国々の秋夕焼

まんてんの星きよめるか虫のこえ

ベランダよこよい大きな月のなか

待たされて月スクランブル交差点

横断歩道のまんなかあたり秋の風

流星群ゆびさしてよりつぎつぎよ

ぼうえんきょう木星土星あまの河

ほしぼしがながれてここに天球儀

すすき原ふりかえってもすすき原

ウイスキーはるかな国の秋のいろ

息吐いてあたため酒ということか

野菊摘む天地のことば摘むように

赤とんぼ時代とどまることしらず

甲州のそらずっしりとぶどう狩り

摘むたびに日がさしこんで葡萄棚

神だなはいつも頭じょうに豊の秋

フライパン火にかけどおし豊の秋

秋の蚊はもうたましいのとぶ音よ

風おとのすき間すき間よのこる虫

天のがわ果てには天のうなばらか

はるかさよ未知がかがやく天の川

明けるまで銀河の島よなみのおと

じぶんへのいのりしすかに星月夜

まどの灯をけしてねむるか銀河系

夜顔よかたりつがないものがたり


◇ 冬の章 ◇ 

冬かもめ花咲くように飛びたつか

ちらばって小春ひなたの島じまよ

そのあしであるいてゆくか七五三

からからと鳴りだす絵馬よ神の旅

つむじかぜそのままそらへ神の旅

つぎつぎと雲がとびゆき冬に入る

鯛焼屋どこにでもあるめでたさよ

さいげつをながめ見てこそ大枯野

いっせいよ鳩もかけだす初しぐれ

一日をまっしろにしてしぐれるか

目つむってこたつは心羽ばたかす

身のうちの火を守りつつ冬に入る

熱燗よことばなくてもあたたまり

雪嶺がそらにうかんでいることよ

踏みしめてひとりのおとの落葉道

あしもとにとどく日ざしよ冬木立

手のひらにすくえばしずか冬の海

風が火を吹きちぎっては磯焚き火

飛びたってむすうのかげよ浜千鳥

さいげつをただよう鴨か水のうえ

踏み抜いてひとりおどろくはつ氷

鬼がわら目をみひらいて霜の屋根

今日までの旅今日からのかえり花

水仙よどれを剪ってもかぜのおと

いちまいのそらどの家も布団干す

マフラーに顔をうずめて眠る子よ

ふたとって鍋ぐつぐつとにほん海

この星をあたたかくするしら息か

ひとつずつ名がかがやいて冬の星

かがやいてどれもしんじつ冬の星

枝さきをぽたりぽたりとふゆの霧

ちんもくが初雪になるふるさとよ

てのひらへなんどきえても雪の花

降る雪よ背中をむけたほうが過去

まっしろなせかいにこえよ雪合戦

消防車おとたててゆくひろい世よ

のぞきこむかおうつるかに龍の玉

じぶんまでばくぜんとして冬霧よ

翔つ鳥よ日がさしこんで狩りの山

山みちのあしあと凍りついていた

さまざまなけはいのなかよ浮寝鳥

おどろいて水さわぎだす浮き寝鳥

せんぼんのつららしずかに凍滝よ

村長のかげとひかりの日なたぼこ

舞い舞ってときをこえるか里神楽

詩のなかに住んでいるかに雪国よ

あしあとが散らばって行く雪の門

ふくしまよ灯をけしてより雪の底

平和とは燃えやすいもの聖樹立つ

ホットワインむかしは昔遠くなれ

辻楽士かなでつづけよクリスマス

いきいきとれきしの果ての聖夜劇

毛糸編む月日を編んでゆくように

世の中のなにかが変わり降る雪よ

湯ざめして星がかがやきだす故郷

船旅よ無がふりつづくゆきのうみ

町じゅうがおおひなたぼこ鎌倉よ

アメリカがひとすじ冬の飛行機雲

たい焼きとかわりつづける日本と

日本史を吹き抜けてきた木枯しか

五重の塔五重をつたうふゆのあめ

ぜんいんは僧にならずよ京しぐれ

京という降る雪というしずかさよ

コンビニの一灯ふゆにまむかうか

ボイジャーは今どのあたり冬銀河

このさきもせんそうへいわ粉雪よ

さいげつをみおくることが落葉焚

地の底のおととどろかす除雪車か

おでん酒自分が見えてくることよ

しあわせな時間は湯気に鍋焼き屋

いちにちを掃きあつめてよ落葉焚

いちねんがここにおちつく落葉焚

焚き火してしんととおのく星々よ

ぜん身にゆきわたらせて冬至風呂

また一人湯をぬぎすてて冬至風呂

どのひともうしろすがたの年末よ

餅つきの臼だせ杵だせちからだせ

嶺に雪死ぬも生きるも身をもって

あしあとよのぼったひとに雪の山

さっそくに空を晴らして門松立つ

だいぶつのいちねんの黙年のくれ

煤湯出て星がゆたかであることよ

ゆったりとたどりついたか大晦日

灯にれきし国にれきしよ除夜の鐘

一つついて年をつらぬく除夜の鐘

あおぎみるひとりひとりが雪の花

よこたわる八重雲からよ初日の出

一人一人世にあらわれて初日の出

照らされてそれぞれの顔初日の出

あいさつのいち語いち語が花の春

絶えまなく鳴る大鈴よはつもうで

また一人鳩羽ばたかすはつもうで

くりかえす日の入り日の出初神楽

はつがらす一の鳥居を飛び立つか

しんねんをおおきくひらく朝刊よ

一人住むひとりながらも雑煮の香

ふたとってのの字の湯気よ雑煮椀

パスポートひとりのこらず初空へ

手に手によつぎつぎあがる正月凧

てっぺんに富士あるそらよ正月凧

このためのさんぽだったか福寿草

撒きまいてしおの花咲く正月場所

もち伸びていつまでとなくお正月

けさの雪ひとひらずつが幸になれ

飛立ってまた飛んでくる寒すずめ

焼き芋屋この世のひとはすべて客

焼芋屋うしろすがたがあるだけか

だれひとりたどりつけずよ寒夕焼

ヘッドフォン雪舞う空の静かさよ

空港はちきゅうとひとつ冬夕映え

とおい島寒ゆうやけとともに消え

白鳥よ日の揺れうつるみずのうえ

首立ててみずうみじゅうの白鳥よ

舞い舞って夜かぐらは子々孫々と

プロキオンカペラシリウス庭焚火

AIが見つめている世雪降りだす

寒灯よはたらくひとのつくえの上

スケートの子らよそよ風つむじ風

火のようにひろがる街の大風邪よ

風邪生むか風邪ほろぼすか試験管

だれも行くマスクの白を盾として

あかい大阪あおい東京ふゆの灯よ

雨やんで足あとまみれラグビー場

くびすすめあしをすすめて初鶴よ

三津浜港冬よりしろくかもめ飛ぶ

フェリー行く島ひとつずつ雪景色

ふねの灯がとうだいの灯が大寒よ

そっぽむく鮃買おうか買うまいか

あかん坊の這い這いの旅春まぢか

ロボットがひょこひょこ歩く春隣

いちりんの冬のすみれの一途こそ

寒がらす人の世もっとさびしいぞ

虎河豚をごりごりさばく静けさよ

絵ぶすまのなかにも一人旅のひと

掛け軸のなかから消えた雪おんな

アルプスよざわわざわわと水仙花

着ぶくれておおぞらを見て純朴か

ひとひらのふたひらのゆめ風花よ

ゆきの夜よ折り鶴すべていのり鶴

生ききれず死にきれず手に冬胡桃

夜明け空咳がこんなにひびくとは

あおぐ身に咲きつづけてよ雪の花

手のひらに黙にぎりしめふゆの土

セーターをあらっているか泡の中

母というひかりがそこに日向ぼこ

子どもらの口からも湯気おでん鍋

噛みあててさびしい芯よ冬りんご

さいごにはすべてをくべて夕焚火

ほっかいどう零下四度の冬ぎんが

北方領土雪ふりつづきふりやまず

凍て鶴に星がまたたきはじめたか

おおくじらちいさな星の海を跳ぶ

くじらゆくはてない海の淋しさよ

はなってはよい鷹匠になってゆく

マンションのいっ戸いっ戸が春隣

子らのうたアレクサのうた春間近

ぶるるるとふるえる犬よ雪あそび

ロボットがはたらきだした街よ雪

まどひらく予告なくふる雪にこそ

ホットティーホットコーヒー婚話

五重の塔しぐれていても静かさよ

茶をたてて直の背すじよ冬つばき

凍てながら白いしぶきを那智の滝

壇ノ浦ふゆなみだけがきらきらと

寒つばき島とひとつに日あたって

安心をさずかりつつよ日なたぼこ

犬がきえ犬小屋がきえふゆすみれ

ゆきだるまつくるにほんの風景よ

子らやがて日本つくるか雪だるま

せつぶんのまめのちからか百一歳

あなたとのけんかもいずれ春炬燵

あるく鳩羽ばたきがちよ明日の春

いっぽんのまんねん筆も春を待つ

探梅の目がいっせいに見ひらかれ

焚くひとも落葉も地球しずけさよ

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句集内作品
改訂日
2024年06月04日


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