【エッセイ】 バカの種
草むらを歩くと、いつのまにかくっついている、草の種子を「バカ」と呼ぶ。
オナモミやハギ、センダングサなど、その種はマジックテープのよう、細かい鈎のついた毛が生えており、動物や人がそこを通れば、くっつき、別の場所へ運ばせ、生息範囲を広げるという、ちゃっかり者の草である。
秋に限らず、初夏の頃から色々なバカが、人の衣服にくっつくもので、洗濯してもしぶといそれを手で取りながら、なぜこれをバカと呼ぶのかと考える。
こうして苛々と小さな種を、取る姿がバカのようとか、ちまちま取るのがバカみたいという、そんな意味のバカなのか。
そうして考えついたバカの理由、それは恐らく昔の人、草むらさえも勝手知ったる己の庭、どこに何が生えるものか、隅々まで知っていたのではないか。
とすれば、この面倒なくっつく草の実、避けて歩くことなどお手の物、そんなことすらできない人は、バカである──すなわち「バカ」とは、バカの印だったのではあるまいか。
全国的にもバカというのは、特にオナモミのことであるらしく、このオナモミの実は大豆ほど、かなり大きな草の実であるからに、時代が下がり、人が自然から離れるにつれ、小さな草の実はくっついても仕方がないが、そんな大きなものをくっつけるなど、さすがに不注意、バカである──そんな意味も込められて、いまに伝わるのかもしれない。
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