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エッセイ

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2021年8月の記事一覧

私の愛用品

私の愛用品

 佳多山大地さんから指名され、二つ返事でこのエッセイを引き受けたはいいが、むむむ、愛用品? あれやこれやと考えてみたけれど、しっくり来るものはなかなか思い浮かばない。はて、困った。「これじゃなきゃダメ! それがないと生きていけないんだ!」というこだわりの逸品なんて、どうやら僕にはまったく存在しないようだ。うーん、うーん、どうしよう? 「やっぱり万年筆は、モンブランのマイスターシュティックに限るねえ

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私の愛する本格ミステリ

私の愛する本格ミステリ

 優柔不断な性格のため、ベスト3はなかなか決められそうにありません。やむを得ず、僕の人生に多大な影響を与えた三作品を選ぶことにしました。題して、「黒田研二の作り方」。これであなたも黒田研二になれる!(なりたくありません)

一.遭遇編
 幼い頃から読書は好きでしたし、子供向けに翻訳されたミステリ小説も数多く読んできたつもりですが、なぜかそれらはほとんど記憶に残っていません。思い出すのは、映像作品ば

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初めて出会った講談社ノベルス

 品行方正だった少年時代、僕は〈ショートショートランド〉という小説誌に夢中になっていた。
 泡坂妻夫や都筑道夫、岡嶋二人などを知ったのもこのときだ。
 それまでSF一辺倒で、ミステリといえばクリスティしか読んだことのなかった僕が、以降、国内ミステリばかりを読みあさるようになる。
 綾辻行人の『十角館の殺人』に衝撃を覚えたのは、〈ショートショートランド〉の休刊に涙を流してから二年後のこと。
 法月綸

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全力少女と中年男

全力少女と中年男

 今年に入って大ブレイクした某五人組アイドルグループから目が離せずにいる。
 メンバーの大半は高校生。四十三歳の中年男が、なぜそこまで彼女たちに心惹かれてしまうのか? その理由はよくわからないが、元気いっぱいに動き回る彼女たちを見ていると、あの頃の自分に戻りたいと、ついつい感傷的な気分に浸ってしまう。

 『ナナフシの恋』は、そんなオッサンが羨望まじりに描いた青春小説である。
 舞台は新校舎の教室

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初めてのスキー

初めてのスキー

 初めてスキー場に出かけたのは、確か小学三年生のときだった。
 子供会の行事として、無理矢理参加させられたツアーだったので、面白いはずがない。
 寒いし、ブーツは重いし、おまけに靴擦れまでできるし。
 結局、スキー板を履く前にリタイアしてしまった。

 初めてスキー板を履いたのは、高校の卒業旅行。
 気の合う友人たちと、わけもわからず遊んでいるうちに、いつの間にか滑れるようになっていた。
 そうな

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名作ミステリーDVDガイド

名作ミステリーDVDガイド

「名探偵ポワロ」 エルキュール・ポワロは、ミステリの女王アガサ・クリスティーが生み出した小柄なベルギー人。
 これまでにも様々な俳優が、この名探偵を演じてきたが、クリスティーは「どいつもこいつも、みんな大男ばっかり!」と、彼らをあまり気に入っていなかったそうな。
 いわれてみれば、彼女の没後に制作されて大ヒットした「ナイル殺人事件」や「地中海殺人事件」のポワロ(ピーター・ユスチノフ)も、全然小柄じ

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私の愛したキャラクター

私の愛したキャラクター

早乙女ボンド之介&金大事包助 SF作家横田順彌が生み出した名探偵、早乙女ボンド之介と金大事包助。
 ふざけているのは名前だけじゃない。
 早乙女ボンド之介は早乙女主水之介とジェームズ・ボンドの血を受け継ぐ男。父親は皮革用ボンドという名の諜報部員で、00711(ダブリュオーセブンイレブン) のコードナンバーを持ち、セブンイレブンの店員に姿を変え任務を遂行している。
 一方の金大事包助はあの金田一耕助

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倒錯のレーザー・レーサー

 私、黒田研二――北島康介みたいにカッコよく泳げるわけではありませんが、それでも一応、学生時代から水泳を続けてきた体育会系スイマーであります。
 三段腹を震わせながら泳ぐその姿を、周りから「チョー気持ち悪い」と非難されてもなんのその、マスターズ大会での優勝を目指し、日々練習に励んでいる次第。
 とはいえ、なかなか思ったようにタイムは縮んでくれません。もし、スピードが金で買えるなら、そりゃいくらだっ

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愛犬ロックに癒されて

愛犬ロックに癒されて

 メタボ検診(特定健康診査・特定保健指導)の案内状が届いた。うーん、正直面倒くさい。
「四十歳を過ぎたら、定期的に人間ドックを受けなくちゃダメだよ」と、周りからうるさくいわれることも多くなったが、こちらは気楽な独り身。僕が死んで誰かが困るわけでもなし、べつに長生きできなくてもいいんだけどなあ、なんて考えることもしばしば。いや、厭世的とかそんな大げさなものじゃなく、単に面倒くさがり屋なだけなんですが

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あきらめの悪い男

あきらめの悪い男

 僕のデビュー作がついに文庫化の運びとなりました。
 初刊は二〇〇〇年六月。なんと八年近くかかったことになります。
 世間では、「黒田の作品が文庫化されることはもはやないだろう」とまことしやかに囁かれたりもしておりましたが、いやいや、僕はあきらめちゃいませんでしたよ。
 昔からとにかくあきらめの悪い男でしたから。

 本作品でメフィスト賞をいただき、作家デビューを果たしたわけですが、そこに至る道の

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旅の思い出

旅の思い出

 十九歳の夏、みちのくひとり旅を決行した。
 当時つき合っていた女の子から、「男のひとり旅ってカッコイイよねえ」といわれたからである。
 北へ向かおうと考えた理由は、暑くて寝苦しいのはイヤだから――ただそれだけ。
 「青春18きっぷ」を買い込み、鈍行列車に乗り込んで、僕はあてのない旅へと出発した。

 動機が不純な上、呆れるほどに無計画な旅だった。
 当然ながら、いきなり苦難にぶち当たる。
 道に

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あとがきのあとがき『ナナフシの恋』

あとがきのあとがき『ナナフシの恋』

 「メフィスト」読者には本格ミステリファンも多いでしょうから、そんな皆様に向けての新作PR。

 まずは簡単にタイトルの説明を。ナナフシとはナナフシ目ナナフシ科の昆虫。
  植物の枝にそっくりな形をしているため、敵はなかなかその姿を見つけ出すことができません。
 サブタイトルの mimetic は「模倣の、撮態の」という意味。そう――本書のテーマは撮態であります。

 最近の黒田は全然本格を書かな

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