あきらめの悪い男
僕のデビュー作がついに文庫化の運びとなりました。
初刊は二〇〇〇年六月。なんと八年近くかかったことになります。
世間では、「黒田の作品が文庫化されることはもはやないだろう」とまことしやかに囁かれたりもしておりましたが、いやいや、僕はあきらめちゃいませんでしたよ。
昔からとにかくあきらめの悪い男でしたから。
本作品でメフィスト賞をいただき、作家デビューを果たしたわけですが、そこに至る道のりも、これまた相当に長いものでした。
投稿歴十三年。落選回数は両手両足のすべて使いきってもまだ足りないほど。
毎回くそみそにけなされながら、しかしそれでもへこたれることなく投稿を続け、ようやく夢をかなえた次第であります。
今回、八年ぶりに本書を読み返してみたところ、「私は要領が悪くって、なにをやってもうまくいかないけれど、その代わり人一倍あきらめが悪いんだ」という一文を見つけ、思わず笑ってしまいました。
結婚式当日に不幸のどん底へと突き落とされた主人公の台詞ですが、同時に、必死で投稿を続けていた当時の僕の心の叫びでもあったのでしょう。
さて。ひさしぶりに通読したデビュー作。
これが意外に面白い。
いや、文章はぎこちなく、キャラクタ設定もちぐはぐなんですけど、そんなものどうでもいいじゃんと思わせるくらいの勢いがありました。
暴走車のように突き進むストーリーは、一体どこへ向かって話が転がっていくのか、作者の僕にもわからなかったほどです。
おそらく今なら、同じテーマでもっとスマートな作品を書くことができるでしょう。
だけど、それじゃあつまらない。
読者や編集者の顔色をうかがうことなく、作家になりたいという気持ちだけを暴走させてできあがった本書は、確かに荒々しく未熟ではありますが、今の僕には絶対に生み出すことのできない爆発的エネルギーを持っていると思います。
いつか自分が結婚する日のことを思い描きながら書いたこの作品。
それから八年経った今も、相変わらず寂しい独身生活を続けております。
「黒田が結婚することはもはやないだろう」と巷ではまことしやかに囁かれておりますが、いや、まだまだあきらめちゃいませんよ。
僕ってとにかくあきらめの悪い男ですから……。
〈IN-POCKET〉2008年2月号 掲載